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今思えば、出逢い自体は不思議なものだった。
「ねぇ君、こんなところで何をしているの?」
場所は人気の無い廊下。目の前には右往左往する一人の男子。しかもそこは、私の所属する美術部の部室の前。今は9月。新入部員ではないのは確か。そこまで考えたら、ようやく目の前にいる彼は口を開いた。
「えっと……なんでもないんだ。失礼するよ」
そう言って去る彼。結局その日は何も思わないまま普通に過ごしたのだった。
その翌日、またその翌日。とうとう金曜日になった。彼は必ずと言っていいほど、美術部をちらちらと覗いていた。気持ち悪いと思う以前に、彼の思いつめたような顔を心配に思ってしまったのが、ことの発端だった。
「えっと……怪しい者じゃないんだよ。僕は二年の藤堂悠斗」
「やっぱり先輩でしたか……。私は一年の鈴原いのり。先輩に用でしょうか?」
「えっと……あのぉ……」
はっきりしないなぁ。何なんだろう、この人。
「あれ、藤堂君じゃない? どうしたの?」
美術室からひょっこり顔を出したのは、空の宮東高校美術部の部長を務める生嶋先輩だ。
「あ、生嶋さん! いや、何でもないんだ。うん、それじゃ……」
生嶋先輩を見た途端、藤堂先輩の様子が変わった。これはもしかして……。
「先輩、今日は部活お休みします!」
それだけ言って先輩に一礼し、ダッシュで階段へ向かう。向かうのだが……。
「藤堂先輩! ……って。うぅん……」
3階にある美術室から下る階段、その踊り場で頭を抱える一人の男子。言わずもがな、藤堂先輩である。
「藤堂先輩、生嶋先輩のことが好きなんですね?」
この時ほど、私の中で世話焼き心が湧き上がったことはない。恋に恋する女子高生として、先輩の恋を応援したいと思ったのだ。
「えっと……鈴原さんだっけ。どうして……分かったの? 美術部って女の子ばかりなのに」
「いや、今のやり取りでバレバレですよ。まぁ、生嶋先輩は美人で頭も良くて、絵の才能もあって、胸も大きくて……。私……」
言いながら自分には何も無いことに気付き消沈。暗くなった私の表情を理解したのか、藤堂先輩は明るく声を張った。
「えっと……鈴原さんも十分可愛いよ?」
「何で疑問系なのよ!? お世辞はいいから答えは?」
イラッときたせいで敬語を忘れた。取り敢えず藤堂先輩に詰め寄って答えを急かす。改めて先輩の顔をじっと見ることとなったのだが、うざったい前髪の奥にある瞳は大きく、その上で瞳に影を落す睫毛は長く、肌は白くて荒れた部分もない。……なんだこの女顔。私より肌のキメが細かそうだぞ。
「顔……近いよ」
高すぎず低すぎない鼻だとか、少し薄めな唇まで見ているうちに、顔がどんどん近くなっていたらしい。口を開いたときに見えた歯も、白い上にいい歯並び。
「この距離でいかが?」
前ならえをした時くらいの間隔で対峙する。
「僕は生嶋さんのことが好きなんだ」
今までとは違う、明確な口調だった。
「……でもね、どうやって想いを告げればいいか、分からないんだ……」
残念。きりっとした口調は一瞬だけで、すぐに気弱な感じに戻ってしまった。
「だったら、私がプロデュースしてあげます! よりかかった船というやつです!」
「乗りかかった、ね」
「う、うるさいですね! ちょっと間違えただけです!」
これにより私の藤堂先輩への一方的な協力体制が生まれたのだ。
「ねぇ君、こんなところで何をしているの?」
場所は人気の無い廊下。目の前には右往左往する一人の男子。しかもそこは、私の所属する美術部の部室の前。今は9月。新入部員ではないのは確か。そこまで考えたら、ようやく目の前にいる彼は口を開いた。
「えっと……なんでもないんだ。失礼するよ」
そう言って去る彼。結局その日は何も思わないまま普通に過ごしたのだった。
その翌日、またその翌日。とうとう金曜日になった。彼は必ずと言っていいほど、美術部をちらちらと覗いていた。気持ち悪いと思う以前に、彼の思いつめたような顔を心配に思ってしまったのが、ことの発端だった。
「えっと……怪しい者じゃないんだよ。僕は二年の藤堂悠斗」
「やっぱり先輩でしたか……。私は一年の鈴原いのり。先輩に用でしょうか?」
「えっと……あのぉ……」
はっきりしないなぁ。何なんだろう、この人。
「あれ、藤堂君じゃない? どうしたの?」
美術室からひょっこり顔を出したのは、空の宮東高校美術部の部長を務める生嶋先輩だ。
「あ、生嶋さん! いや、何でもないんだ。うん、それじゃ……」
生嶋先輩を見た途端、藤堂先輩の様子が変わった。これはもしかして……。
「先輩、今日は部活お休みします!」
それだけ言って先輩に一礼し、ダッシュで階段へ向かう。向かうのだが……。
「藤堂先輩! ……って。うぅん……」
3階にある美術室から下る階段、その踊り場で頭を抱える一人の男子。言わずもがな、藤堂先輩である。
「藤堂先輩、生嶋先輩のことが好きなんですね?」
この時ほど、私の中で世話焼き心が湧き上がったことはない。恋に恋する女子高生として、先輩の恋を応援したいと思ったのだ。
「えっと……鈴原さんだっけ。どうして……分かったの? 美術部って女の子ばかりなのに」
「いや、今のやり取りでバレバレですよ。まぁ、生嶋先輩は美人で頭も良くて、絵の才能もあって、胸も大きくて……。私……」
言いながら自分には何も無いことに気付き消沈。暗くなった私の表情を理解したのか、藤堂先輩は明るく声を張った。
「えっと……鈴原さんも十分可愛いよ?」
「何で疑問系なのよ!? お世辞はいいから答えは?」
イラッときたせいで敬語を忘れた。取り敢えず藤堂先輩に詰め寄って答えを急かす。改めて先輩の顔をじっと見ることとなったのだが、うざったい前髪の奥にある瞳は大きく、その上で瞳に影を落す睫毛は長く、肌は白くて荒れた部分もない。……なんだこの女顔。私より肌のキメが細かそうだぞ。
「顔……近いよ」
高すぎず低すぎない鼻だとか、少し薄めな唇まで見ているうちに、顔がどんどん近くなっていたらしい。口を開いたときに見えた歯も、白い上にいい歯並び。
「この距離でいかが?」
前ならえをした時くらいの間隔で対峙する。
「僕は生嶋さんのことが好きなんだ」
今までとは違う、明確な口調だった。
「……でもね、どうやって想いを告げればいいか、分からないんだ……」
残念。きりっとした口調は一瞬だけで、すぐに気弱な感じに戻ってしまった。
「だったら、私がプロデュースしてあげます! よりかかった船というやつです!」
「乗りかかった、ね」
「う、うるさいですね! ちょっと間違えただけです!」
これにより私の藤堂先輩への一方的な協力体制が生まれたのだ。
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