3 / 9
3話
しおりを挟む
時間は過ぎて放課後。今日は藤堂先輩の姿はない。当然と言えば当然である。ところで、空の宮東高校の美術部は、単純にイラストが好きな女の子たちの集まりで、一部の私立高校にあるイラスト部と大体同じだ。一応、コンクール用の油絵とか水彩の絵、肖像画を描くこともあるが、基本的には漫画みたいな絵を描くことの方が多い。そんな部活だ。だから部員達もまったりしているし、部活中の雰囲気も温かい。
「生嶋先輩」
上下関係も厳しくなく、先輩にも気軽に話しかけられる。運動部じゃなかなか無理だと思う。
「どうしたの、いのりちゃん?」
穏やかな雰囲気を持つ先輩の、耳から伝わる穏やかさ。ふんわりと空気を含むようで上品な声が私の耳朶をうつ。
「先輩って、彼氏いないんですか?」
「彼氏はいないよ。いたことも……ないかな」
「彼氏はって、限定しましたけど彼女がいたんですか?」
近くにある星花女子学園という女子校には、女の子同士でお付き合いしているカップルがけっこういるらしい。
ひょっとしたら先輩も女の子を……と思い、質問した私に生嶋先輩が笑みをこぼす。
「彼女もいないよ。まぁ、女の子から告白されたこともあるけどさ。……私、誰かとお付き合いしたことないの」
きっぱりと言い切る生嶋先輩に、多くの人が訊きたいと思っているであろう質問をぶつけた。
「どうして先輩は告白されても全部お断りするんですか?」
「そうだね……心に決めた人がいるから、かな」
どこか懐かしそうな表情を浮かべる先輩。ひょっとしたら藤堂先輩のことかもしれないし、もっと古くからの幼馴染みという可能性もある。
「心に決めた人って、どんな人なんですか?」
可能性の範囲を狭めていくのが、今回の目的。もし、生嶋先輩の心に決めた人が、藤堂先輩だったら、もう一も二もなく告白させる所存である。でも、
「さすがに、それは言えないかなぁ。出血大サービスで言えるとすれば、優しい人、っていうことだね」
「優しい人、ですか。まぁ、多くの人が意地悪な人より優しい人に惹かれると思いますけどね」
「そうねぇ。こと恋愛に関しては私、経験がないから何も言えないんだぁ」
その日は結局、先輩には心に決めた人がいて、その人の性格は優しい、ということしか聞き出せなかった。まぁ、藤堂先輩も優しい人なのは確かだろうし、一応は望みありかな。
翌日、9月8日。私が登校すると、
「おはよ、いのり」
仲のいい友達の何人かが私の席近くに集まっていた。
「ねぇ、いのり」
「ん?」
今集まっている中の一人で、同じく美術部に所属している娘に、
「彼氏、出来たの?」
「ん? 疑問ってことは、私に?」
最初はってきり宣言かと思ったけど、よくよく聞くと疑問文。私に彼氏ができたかを聞いているということ?
「いや、いないけど。どうして?」
私が素直に答えて聞いてみると、
「いや、だって。いのりってば最近お昼一緒に食べてくれないし」
……すっかり忘れていた。でも、流石にそんなこと言えないし、だからと言って藤堂先輩のことを全部話すのもどうかと……。
「うぅ……ちょっと他の友達から相談を受けていて……それで、ね?」
私がそう言って切り抜けようとすると、今度は別の娘が、
「でも最近のいのり、可愛くなったよね。恋してるって感じ」
なんてことを言うのだ。
「私はいつもの平凡だよ。どっちかって言うなら、恋に恋する方が性に合うのよ」
「ふぅん……。じゃあ、恋愛の相談を受けているのね」
これまた別の友達が、さっきの私の言葉から相談の内容を見破った。
「あ……」
「墓穴掘ったね」
ついでに今の私の心の声まで見破られてしまった。
「まぁ、いいじゃない。私のいのりに彼氏がいないって分かったんだから」
「もう、離れてよぉ。くすぐったいぃ」
彼氏がいない女子の集まりは、どうにもスキンシップが多い気がしてならない。私を嫁として扱う友人をひっぺがし、
「そろそろ席に戻りなよ」
ちょっと長い立ち話を終えるのだった。
「生嶋先輩」
上下関係も厳しくなく、先輩にも気軽に話しかけられる。運動部じゃなかなか無理だと思う。
「どうしたの、いのりちゃん?」
穏やかな雰囲気を持つ先輩の、耳から伝わる穏やかさ。ふんわりと空気を含むようで上品な声が私の耳朶をうつ。
「先輩って、彼氏いないんですか?」
「彼氏はいないよ。いたことも……ないかな」
「彼氏はって、限定しましたけど彼女がいたんですか?」
近くにある星花女子学園という女子校には、女の子同士でお付き合いしているカップルがけっこういるらしい。
ひょっとしたら先輩も女の子を……と思い、質問した私に生嶋先輩が笑みをこぼす。
「彼女もいないよ。まぁ、女の子から告白されたこともあるけどさ。……私、誰かとお付き合いしたことないの」
きっぱりと言い切る生嶋先輩に、多くの人が訊きたいと思っているであろう質問をぶつけた。
「どうして先輩は告白されても全部お断りするんですか?」
「そうだね……心に決めた人がいるから、かな」
どこか懐かしそうな表情を浮かべる先輩。ひょっとしたら藤堂先輩のことかもしれないし、もっと古くからの幼馴染みという可能性もある。
「心に決めた人って、どんな人なんですか?」
可能性の範囲を狭めていくのが、今回の目的。もし、生嶋先輩の心に決めた人が、藤堂先輩だったら、もう一も二もなく告白させる所存である。でも、
「さすがに、それは言えないかなぁ。出血大サービスで言えるとすれば、優しい人、っていうことだね」
「優しい人、ですか。まぁ、多くの人が意地悪な人より優しい人に惹かれると思いますけどね」
「そうねぇ。こと恋愛に関しては私、経験がないから何も言えないんだぁ」
その日は結局、先輩には心に決めた人がいて、その人の性格は優しい、ということしか聞き出せなかった。まぁ、藤堂先輩も優しい人なのは確かだろうし、一応は望みありかな。
翌日、9月8日。私が登校すると、
「おはよ、いのり」
仲のいい友達の何人かが私の席近くに集まっていた。
「ねぇ、いのり」
「ん?」
今集まっている中の一人で、同じく美術部に所属している娘に、
「彼氏、出来たの?」
「ん? 疑問ってことは、私に?」
最初はってきり宣言かと思ったけど、よくよく聞くと疑問文。私に彼氏ができたかを聞いているということ?
「いや、いないけど。どうして?」
私が素直に答えて聞いてみると、
「いや、だって。いのりってば最近お昼一緒に食べてくれないし」
……すっかり忘れていた。でも、流石にそんなこと言えないし、だからと言って藤堂先輩のことを全部話すのもどうかと……。
「うぅ……ちょっと他の友達から相談を受けていて……それで、ね?」
私がそう言って切り抜けようとすると、今度は別の娘が、
「でも最近のいのり、可愛くなったよね。恋してるって感じ」
なんてことを言うのだ。
「私はいつもの平凡だよ。どっちかって言うなら、恋に恋する方が性に合うのよ」
「ふぅん……。じゃあ、恋愛の相談を受けているのね」
これまた別の友達が、さっきの私の言葉から相談の内容を見破った。
「あ……」
「墓穴掘ったね」
ついでに今の私の心の声まで見破られてしまった。
「まぁ、いいじゃない。私のいのりに彼氏がいないって分かったんだから」
「もう、離れてよぉ。くすぐったいぃ」
彼氏がいない女子の集まりは、どうにもスキンシップが多い気がしてならない。私を嫁として扱う友人をひっぺがし、
「そろそろ席に戻りなよ」
ちょっと長い立ち話を終えるのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる