巡り巡って

楠富 つかさ

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巡り巡って俺は妹の下着を買う

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 ずんずん進む汐波に気後れしながらランジェリーショップを目指す……。父さん、母さん……俺は今から妹の下着を選ぶ苦行に挑みます……。
 店に一歩足を踏み込むだけでこんなに緊張することはこの先きっと無いだろう。
 レジに座る女性の視線が痛い……。
 それでも、妹が見に着ける物なんだからキチンと選ばなくては、という使命感にも燃えていた。しかし、汐波が普段から着ける下着なんて知らない俺には良し悪しが分からない……。
 それでも、汐波は昔から淡い色が好きだったはず……これか……?

「この水色なんてどうだ?」

 俺はちょっと遠くから水色の下着一組を指差したが、

「お兄ちゃん、あたしのサイズは向こうのコーナーですよ」

 汐波が指差したのはD~Fのコーナーだった……。汐波、マジか……それはさておき、

「汐波ぁ、どういうのがいいんだ?」

 二歩程後方にいる汐波に聞いてみたが……。

「この前も言いましたが、下着の好みを教えるつもりはありませんから。ですが、サイズは必用情報ですから教えなくてはですね……。E65とタグに書いてあるものを選んでください」

 …難しい……そもそも、俺がどんな下着を選ぶかによって汐波からの評価が変わるはず……。子どもっぽいのだとロリコンと罵られそうだし、反対に大人っぽいのだと変態だと罵られそう……。ありふれたものじゃつまらないと冷めた目で見られそう……。八方塞がりだ……。
 考えろ…俺! ……ダメかぁ……いや、これ良くね?

「汐波、このミントグリーンの……どうかな?」

 汐波に俺が選んだ下着を示す……。さて、どうでる?

「お兄ちゃんにしてはいいチョイスだと思います。これにしましょう。あと、20点加点です」

 ふぅ…よかった。汐波はハーブが好きだった。両親が亡くなる前までは汐波と母さんは、ハーブの栽培や勉強をしてたからな……。そのハーブの一種であるミントの色かつ植物を連想させる刺繍……。正解だったな。

「では、次のお店に行きましょう。お兄ちゃん」

 そうなのだ、まだ買い物は始まったばかりなのだ……。


 その後はトップスにボトムスとすんなり決まった……ように思われたが、

「この上下にこのパンプスは合いませんね……。お兄ちゃん、後で靴も見に行きましょう」

 靴もか……。まぁ、これで汐波と一緒にいられる時間が増えると考えれば靴代くらい安いもんだよな……。

「返事が無いので10点減点」

 財布とにらめっこしてた俺は汐波の減点コールに思わず顔を上げた。

「ちょ、まってよ…あと65点になっちゃうよ……」

 つーか俺、どんだけ減点されてんだよ……。先が少し思いやられるのだった……。


 靴を選んだら時刻はとっくに正午を過ぎていた……。

「さすがにお腹が空きましたね……。お昼にしましょうか」

 悪いが汐波……。俺はもう一時間以上空腹に耐えていたんだよ……。もうヤバイ……。

「どこでもいいぞ。どうせ払うのは俺だし」

 エスカレーターで二階に降りてすぐのところにある案内看板を眺める汐波に言った。

「なんだか投げやりですが甲斐性があると判断します。15点加点」

 何故だろう……。俺が狙った時には上がらない汐波からの評価が意外なところで上がるのは……。俺には女心が欠片も理解出来ないようだ。

「決めたよ」

 結局、汐波が選んだ店は全国的に有名な黄色いMが目印のハンバーガーショップだった。
 何故だろう……。足元見られた? 違う、これは汐波なりの優しさだ……。とは言え汐波は昔から意外とよく食べる。
 二人でハンバーガーを五つ―汐波が三つだ―に飲み物にポテト……。今日、財布から出て行った紙幣たち……君の犠牲を俺は無駄にしない……。にしても、

「汐波は昔からよく食べるけど、太らないよね……ん」

 あぁ、両手でハンバーガーを持ってパクつく汐波は可愛いな……。小動物みたい。

「今、お兄ちゃんの視線が下に向きましたね? ホントにデリカシーの欠片もない人です……20点減点」

 あれ!? 手元を見たはずなのに……胸元を見たと勘違いされたようだ。日頃の行いが悪いのか? えーと、あと60点か……そろそろヤバくなってきた……。


 昼飯を済ませ、残る買い物はアクセサリーになった。

「このお店にしましょう。そうですね……アクセサリーだと幅が広すぎですから、指環にしましょうか」

 指環……か、いつか汐波も誰か恋人から指環を贈られるのだろうか……。義弟なんて俺は認めないぞ!

「お兄ちゃん、聞いてますか?」

 妹の声に未来の義弟と戦闘中だった俺は現実に引き戻された。

「聞いてたぞ、指環だろ? お兄ちゃんが似合うのを選ぶからな」

 さて、どんなものがいいかな?

「ストーンって必用?」

 服の時は好みを教えてくれたから指環の好みも教えてくれるだろう。

「そうですね……シンプルなものがいいです。派手なものは避けたいですね」

 う~ん、シンプルで派手でないもの……か。てことはゴールドはよそうかな

「これなんてどうだ?」

 俺が渡したのはシルバーに薔薇の堀模様が上品な指環だ。

「綺麗ですね。……でも、高くはありませんか?」

 財布に相談する俺……去年からバイトでコツコツためたお金……。構わないさ、汐波の為なら。妹の心配を余所に俺は指環をレジに持っていく。
 店員さんはしっかり箱までくれた。婚約指環とかに勘違いをされたのだろうか、それはそれでありかも。なんてな。
 俺は指環を汐波に手渡すと、

「お兄ちゃんに嵌めて欲しいな」

 汐波がちょっと甘えた声を出すと、家族四人で買い物をしていた頃を思い出す。
 汐波の白くて小さい手をとり人差し指に指環を通す。

「ありがとう、今日の買い物は終了。お茶してから帰ろう」

 くるりと可憐にターンをしてエスカレーターに向かう幸せそうな汐波に一日の疲れが吹き飛んだ気がした。
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