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◆◇◆



「おはよう充也。昨日のシチュー、食べてくれた?」
 初夏の日差しの中。猫なで声で話しかけながら、女の手が腕に絡んでくる。

「おはよう茉莉花。もうすぐ講義始まるから急いだ方が良いよ」
 さり気なくその手を外し、質問にも答えない。

「昨日は家に呼んで貰えて嬉しかった。……ねぇ」
 今度は手を掴まれた。なかなかめげない性格らしい。
 ――ああ。なんて煩わしい。

「何?」

 チラリと視線を移すと、計算された角度でこちらを見上げる女の目が有った。
 少し拗ねた様に頬を膨らませるその表情は、自分以外の男なら関心を引けただろう。
 だが、自分にとってはそんなもの面倒なだけだ。

「私を家に呼んだってことは、私が充也の彼女で良いのよね? ……綾乃あやのとはもう別れたのよね?」

 ああ、なんて、無駄な時間。
 自分は最初に誘われた時に言ったではないか。

「茉莉花、俺が言ったこと、忘れちゃった?」
 充也の声色が変わったことに気付き女の肩がビクリと揺れた。

「昨日は妹に、俺と付き合ってるとか妹が原因で彼女と別れるとか言ってたけど、俺は誰とも付き合う気は無いって言ったよね?」
「で、でもっ」
「それに俺は、誘って来た相手に興味を持てたら誰でも抱くよ? 茉莉花だけが特別じゃない」
 力を失った女の手からするりと自分の手を引き抜く。

「じゃあね」
 柔らかく微笑んで、後はもう立ちつくす女のことなど忘れたように歩き出した。


 ホクロの位置は気に入ってたけど、あの女はもう要らない。


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