姉弟日和

我妻 夕希子

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第2話・真綿の枷①

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今日から3年間にわたり通う高校の門を前にして、俺の足は止まる。

(あの時の姉さんの表情、可愛かったな…)

フッと表情が和らぐ。
愛しい愛しい姉さん、姉さんは俺のモノだから、誰にも渡さない

仄暗い感情が湧き上がろうとした時、背中にトスンと軽い衝撃を受けて、俺は後ろを見遣る。

「?」
「あ、ごめんなさい」

セミロングの黒髪が印象的な少女が、コチラを見ていた。

「入り口で立ち止まるのは、他の人にも迷惑なのですよ」

感情の起伏が解らない表情で、少女は淡々と語る。

「…ごめんなさい」
「宜しい」

少女がコクリと頷く。

ー見た所、真新しい制服の様だ。

「君も新入生?」

俺は首を傾げながら少女を見下ろした。

「…です」

少女は真っ直ぐ俺を見ると、肯定の返事を返す。

「貴方もですか?」

今度は少女が俺に問い掛ける。

「です」

先程の少女の真似をする様に、俺も頷く。

「……」
「……」

暫しの間ののち、俺達は軽く笑い合った。

「なんだか、君とは仲良くなれそうな気がするよ」

自分でも驚く言葉が口から放たれる。

姉さん以外の〝女〟に、こんな言葉が出るなんて、今まで無かった事だ。

「自分も、そんな気がします」

少女が歩き出す。
俺も後を追う様に歩き出す。

「自己紹介、しときますか?」

隣を歩いている俺を見上げると、少女はポツリと呟いた。

「そうだね、じゃあ先ずは俺から…俺の名前は中川 唯衣なかがわ ゆい

「自分は、久城 理玖くじょう りくです」

互いに会釈を交わすと見つめ合う。

「同じクラスになれるといいね」
「…です」

たまに少女の口から溢れる「…です」とは、主に肯定の意味として使っているのだろう。
どうやら口下手な様だ。

2人でクラス分けが掲示されている場所へ向かうと、新入生達が自分のクラスを見遣っている最中だった。

背が割りと低い久城の代わりに、自分と彼女の名前を探す。

「あ!久城は2組だな」
「貴方は?」
「俺はー…」

眩暈を起こしそうな文字数と睨めっこしながら自分の名前を探す。

「あ」

あった…

「同じ組だ」

「なんと!」と久城は目をキラキラさせながら俺を見上げている。

そんな姿に、何処と無く〝安堵感〟を感じた俺は、眉間にシワを寄せたのだった。


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