姉弟日和

我妻 夕希子

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閑話/聖なる夜に

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俺の姉さんは可愛い。

どこが可愛いかと問われたら、逆に迷うくらいだ。
何故なら、存在自体が可愛いからである。

強いて挙げるなら

俺より年上なのに子供っぽいトコロ
表情が豊かなトコロ

キリがない。

今日は恋人同士が一様に盛り上がるイベント、そうクリスマスイブだ。

姉さんも朝からずっと浮かれている。



*****


時計の針が昼過ぎを差した頃

「ね!唯衣、どっちが良いかな?」

姉さんは、真新しい服を2着、手に持って俺に見せてきた。

1着は白を基調としたワンピース
もう1着は淡いオレンジ色のシャツに、小花が舞ったフレアスカート

(どっちも似合うに決まってる)

「その前にさ、姉さん…先ずはノックしようよ」

そう、姉さんはノックも無しでいきなり俺の部屋の扉を開けたのだ。

「へへ、ごめん」

姉さんは悪びれる素振りも見せずに笑った。

「で、どっちが良い?」
「んー、そうだなぁ」

(俺以外の男の為に着飾るのは許せないなぁ)

若干の冷めた目で、姉さんが持っている服を交互に見遣る。

「フレアスカート、可愛いんじゃない?」

眺めていた雑誌を閉じると机の上に置いた。

「じゃあ、コレにしよ」

嬉しそうにフレアスカートを自分に当てがうとクルリと回って見せる。

「はいはい、決まって良かったねー」

手をヒラヒラさせると、机に向き直った。

「…唯衣、今日の予定は?」
「は?」

眉間にシワを寄せながら振り返る

「だから!今日デートするの?って聞いてるの!」

眉を釣り上げてはいるが、顔が真っ赤に染まっている。

「無いけど…彼女いないし」

どういう反応をしたら良いのか解らずに俺は答える。

「……お姉ちゃんとデート、する?」

姉さんは何を言っているんだ?
俺の幻聴か?

「は?」
「お姉ちゃんとデートする?」

幻聴じゃなかった

「え?姉さん、彼氏とデートじゃ…」
「しないよー」

そう言うと姉さんは、俺を見遣る。

「唯衣が行きたくなかったらべつにー」
「行く!!行くよ!!え?じゃあ、さっきの服って」
「唯衣の好みを聞いたんだよ」

(マジかよ!!!)
テキトーに選んだ自分を恨む。

「じゃあ着替えて来ようかな」
「待って!!」

俺は部屋を出ようとした姉さんの手首を掴む

「や、やっぱ白ワンピにして」
「唯衣~、さっきのテキトーに選んだんでしょー」

意地悪く笑う姉さんに苦笑いしてしまう。

「唯衣も着替えてよー」

そう言うと姉さんは、俺の手を擦り抜けて自室へと消えていった。


部屋に1人

俺は急いでクローゼットを開けて、手持ちの服を漁る。

あの白ワンピースに似合う服装を、高速でシミュレーションして着替えた。

(姉さんをやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっとやっと独り占め出来る)


自室を出ると玄関へ向かった。
姉さんはまだ来ていない。

浮かれる気分を頬を軽く叩く事で、引き締めた。



「お待たせ」
「姉さー」

振り返ると息が止まりそうになった。

姉さんは、白を基調としたワンピースに淡い茶色のコートを羽織って立っていた。

「唯衣、行こっか」

にっこり笑う姉さんに見惚れる。
俺は片手を差し出すと「お手をどうぞ」と笑った
姉さんは、俺の手に自分の手を重ね

「あら、エスコートしてくれるの?紳士的に育ってくれて、姉さん嬉しいわ」

姉さんは、誇らし気に胸を張る。
俺は、重ねた手を取ったまま姉さんの前で片膝を付くと見上げ

「姉さんの教育しつけが良いからね」

そう告げながら、姉さんの手の甲に唇をあてた。

「セリフは別として、王子様みたい」
「姉さん、こういうの好きだろ?」

姉さんはハニカミながら微笑む。

「で、今日行きたいとこあるの?」

立ち上がるとドアに手を充て問い掛ける

「そうねぇ、夜はイルミネーション見たり…それまでは」
「それまでは?」
「唯衣とのんびり歩きたい」

ドアを開ける手がピクッと動く

「…いいよ」

先にどうぞ?というように、姉さんを外へと誘導する。

「逸れないようにさ、手を繋いでても良い?」
「…え」

ひと呼吸の間の後

「子供みたい、恥ずかしいけど、いいよ」

姉さんは、困った様に笑うと手をきゅっと強く握ってくれた。

その暖かさに俺の心も暖かくなる。


姉さん、大好き大好き大好き

ーーーー愛してる。

手の甲の感触の余韻に浸る
全部欲しいけど


(蜜を吸う、その時まで)



「…お預けは、なれてるよ」

小さく呟く。

きっと姉さんには届かない。






今はまだ、それでいい。


.


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