姉弟日和

我妻 夕希子

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閑話/×色に染まって

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今日は3/14、ホワイトデーだ。

姉さんからのお返しを用意した。



「ねー、唯衣」
「何?」

何度言っても、姉さんの悪癖は直らない。
姉さんはノックもせずに俺の部屋に入ってきた。

「…あれ、今日は言わないの?」
「解ってるなら、ちゃんとノックしてよ」

どうやら〝〟までが一連の流れと決めているらしい。

「で、用件は?」と首を傾げて見せる。
姉さんは少しソワソワすると口を開いた。

「今日ね、お父さんとお母さん遅いんだって…それでね」
「依くん呼びたいから、俺にも出て行けってオネダリ?」
「ーッ」

姉さんの顔がカッと赤くなる。
照れなどの紅潮では無く、それは…

「違うわよ!唯衣に、夜ご飯を作って貰おうと思っただけじゃない!!」
 
それは、怒りからくる紅潮だった。

「ぁ、ごめっ」
「唯衣のバカ!!ご飯ちゃんと作ってよね!!」

そう言うと、姉さんは部屋を出て行った。

(だって、そう思うじゃないか…)


今日はホワイトデーだろ…まして、両親が遅くなるって報告…誰だって、そう思うじゃないか

俺は深い溜息を漏らす。

まぁでも、ご飯を作れという姉さんのオネダリは、今日の俺には好都合ではある。
 
椅子から立ち上がるとキッチンへと向かった。

階段を下りてリビングを見渡す。
姉さんの姿は無い。
部屋で拗ねているのだろうか


冷蔵庫を開けて中身のチェックをする。

「鶏肉、にんじん、じゃがいも…なんだ…上出来じゃないか」

そんな独り言を呟くと、材料を取り出して冷蔵庫を閉めた。


さて、作り始めようか…今日の夜ご飯を。

姉さんに愛を込めて、ね。



******


今日の夕ご飯は、シチューにした。
オタマでぐるぐると掻き混ぜながら、シチューの完成度に口元が緩む。

タイミング良く、姉さんも自室から下りてきたようだ。
階段を下りる音が聞こえる。

「お腹空いた~って…唯衣、もうご飯作ってくれたの?まだ19時じゃない」
って、19だよ?」

姉さんを横目で見ながら、時計を顎で示唆する。
姉さんは、時計を見やると溜息を吐いた。

「シチュー?」
「そうだよ、姉さん好きだろ」

盛り付け皿を手に取ると、じっくり焦げないように煮込んだシチューをトロトロと流し入れる。

そして椅子に座って待っている姉さんの前に静かに置いた。

「わぁー、美味しそう!」

サラダとパンをテーブルに並べると、俺も席に座る。

「さ、食べようか」

俺達は手を合わせると「いただきます」をした。

姉さんは嬉しそうに、スプーンでシチューを掬うと口に入れた。

「んーっ、唯衣の作るシチュー美味しい~」

手を止める事なく、俺の作ったシチューにパクついている。
その姿はリスのようで、思わずクスリと笑ってしまった。

「サラダもちゃんと食べなよ?」

シチューを食べながら、姉さんにサラダを食べるように促す。
姉さんは眉を寄せるも渋々と頷いた。

「ぁ、姉さん」
「ん?」
「髪が…シチューにつきそう」

耳に掛けていた長い髪が、食べる動きによって、するっと落ちてきてしまったようだ。

「待って、留めてあげる」

キョロキョロとテーブルの上を見渡すと、白い小花が付いたヘアピンが
俺はを手に取ると、姉さんの髪に優しく差し留めた。

「これで食べ易くなったね」

若干、頬を赤らめている姉さんに微笑む。

「あ、ありがと」

それから、他愛も無い会話をしながら和やかな時間は過ぎていった。

「ごちそーさま!」

姉さんが手を合わせて、にっこり笑う。

「はい、お粗末様でした」

食器を片付けながら微笑む。
姉さんは「あ!」と声を出すと髪に差しているヘアピンを触った。

「コレ、返すね」
「あぁ、いいよ、俺のじゃないし」

流し台に食器をカチャンと置くと、姉さんを見つめた。
姉さんは頭にハテナマークを浮かべている。

「多分、母さんのでもないだろうし…姉さん、貰っちゃいなよ」
「で、でもっ」

困った様に顔を俯かせる姉さんに近寄って、髪に触れた。

「似合ってるし、姉さん…貰っちゃいなって、ね?」

白い小花が付いたヘアピンを指で撫でる。
そしてそのまま、人差し指で姉さんの耳裏をツーッとなぞった。

「ゃ、んっ、擽ったい…」
「…うんって言って?」
「ぅん」

姉さんの唆る声を聴くと胸が高鳴る。
その音が漏れない様にスッと姉さんから離れた。

「じゃあ、俺は食器を洗っちゃうから…姉さんは風呂にでも入っちゃいなよ」

流し台に立つと腕をまくって、スポンジを手に取った。

「唯衣、

背中から、お礼の声が聞こえた。
俺はピクッと体が動くも、振り返る事無く

「どーいたしまして」

それだけを告げて、食器を洗い始めた。


姉さんは気付いたのだろう、俺の意図に。

今日はホワイトデー、夕食はホワイトシチュー
そして、シチューを作る前にテーブルの上に置いといた白い小花が付いたヘアピン…

全部、姉さんへのバレンタインのお返しだ。


(姉さん、俺が選んだモノを身に付けて、俺色に染まって?)



.


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