姉弟日和

我妻 夕希子

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第5話・歪な鳥籠①

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「やぁ、久城さん」

翌朝、俺は校門前で彼女を待った。
久城は俺が待っているのを予想していた様で、動じる事なく「おはようございます」と挨拶をしてきた。

「話があるんだ。放課後、ちょっと付き合ってくれないかな」

にっこり微笑むと首を軽く傾げる。

「解りました」

久城は随分あっさりと承諾すると俺を見上げた。

「来る気がしていました」
「…へぇ」

その言葉に、俺の上部が剥がれる。
ワントーン下がる声に久城は


ーーそれは妖艶且つに。




*****



ーー放課後。


「中川さん」

みんなが帰り支度をしている中、久城が俺の前に立った。

「自分は既に準備が完了しています」

「いつでもどうぞ」と言う様に俺に軽く会釈する。

「そっか、じゃあ、行こうか」

外面を貼り付けた笑顔で席を立つと久城の肩を抱く。

周りのクラスメイトが、ザワッと騒つく。

ひそひそと浮き立つ雑音を無視して俺達は教室を出た。


校門を抜け出て人気の少ない公園まで来ると、久城が急に立ち止まった。

「中川さん、しなくても、自分は逃げませんよ」
「あぁ、やっぱ君には気付かれるんだね」

俺は肩を竦めながら、久城の肩から手を離す。

紳士的に女性をエスコートするフリをして、久城が逃げない様に監視していたのだ。

「お話とは、お姉様の事でしょう」
「解ってるじゃん」

ベンチに座ろうとした俺を久城が制止する。

「中川さん、自分の家に来ませんか?」
「は?」
「外だと誰かに聞かれてしまうかもしれません」

ひと吹きの風が流れると、久城の綺麗な黒髪が靡いた。



*****


「着きました」
「……」
「どうしました?」
「あ、いや、久城さんの家って…」

久城の誘いに乗り、辿り着いた場所はーー

「アパート、なんだね」
「はい。自分、一人暮らしなんです」
「え?!」

(一人暮らし?)

「俺と同い年なのに…凄いね」
「凄くなんか、ありませんよ」

ボソリと呟くと彼女は玄関のドアを開けた。

「どうぞ、歓迎しますよ、中川さん」

開かれたドア。
誘導する声。

ゆっくりと俺は足を踏み入れる。


「掴まえました」


ドアを閉めながら彼女が何か言った様な気がした。


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