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第1話
6・まさかの…?
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バカなの、バカでしょ、ほんとバカすぎ!
図書室に向かう途中、さんざん抗議したけれど、間中くんは「べつにいいじゃん」とケロッとしたものだ。
「大丈夫だって。ちゃんと誤解も解けたし」
「解けたからいいってものじゃないよ!」
「え、解けたらダメなの?」
「そうじゃなくて」
まずは、先ほどの状況をしっかり思い出してほしい。
昼休みの教室で、いきなりクラスメイトがいる前での公開告白。でも、実は「図書室につきあって」というオチでした──って。
あのときの、みんなの顔が忘れられない。
最初は「え、ありえない」みたいな驚きの顔。
そのあと「うん、やっぱりありえなかった」みたいな納得している顔。
「いたたまれない……」
「え、いたまたれない?」
「違う、『いたたまれない』!」
その場にいたくない、ジッとしていられないってこと――そう説明したら、間中くんは「わかった!」って嬉しそうに目を輝かせた。
「あれだろ、シュート決まったあと『うおおおおっ』て皆のとこに走っていく感じ」
──それ、絶対に違う。
でも、もう疲れたから放置することにした。
間中くんなんて、今後シュートを決めるたびに「俺、今サイコーにいたたまれねぇ!」って叫んで、恥ずかしい思いをすればいいんだ。
そんな呪いをひとつかけたところで、私たちは図書室に到着した。
「で、なんだっけ、借りたい本」
「陸上の、ええと……短距離走のトレーニングについて書いてるやつ」
「短距離走? なんで?」
間中くんはサッカー部だ。
なのに、どうして陸上の本を借りたいのだろう。
「ええと、俺さ、走り出しのスピードが遅いって言われててさ。そんで、もっとビュンッバンッてやりたくて、そしたらもっと楽にパス受けられそうだし、あと……」
擬音だらけの説明を簡単にまとめると「瞬発力を鍛えたい」ってことらしい。
ちなみに「瞬発力」っていうのは、瞬間的に発揮できる手足のばねの力のこと。これがすごいと、敵のマークを振りきってパスを受け取れるんだって。
「で、先輩が『図書室にいい本ある』って言ってたんだけど、本いっぱいじゃん? 探すの絶対大変だよなーって」
なるほど、それで私に声がかかったというわけか。
「正解」
「なにが?」
「私に声をかけたこと」
間中くんには、日頃から思うことが山ほどある。
でも「本を探したい」というなら話は別だ。
「その先輩は『陸上の短距離走のトレーニングの本』って言ってたんだよね?」
「うん」
「じゃあ、スポーツ系の棚を探そっか」
「すぐ見つかる?」
「たぶん。トレーニングの本なんて、あまり置いていないし」
でも、ちょっと意外。
そういうのって、みんな動画サイトで探すんだと思ってた。そのほうがお手軽だし、実際にやっているところを見られるし。
「それな、俺も最初はそう思ってたんだけど、コーチの話だと動画サイトのは大人向けが多いから俺には向かないかもって」
「大人向けのをやったらダメなの?」
「あんまりよくないって。まだ身体ができあがってないから」
そうか、トレーニングにも大人向けと子供向けがあるのか。
つまり恋愛と同じだ。大人のまねをしたところで、ろくなことにならない。
「あ、あったよ。たぶんこの本」
「おおっ! さすが佐島──」
「しっ!」
人差し指を立てて睨むと、間中くんは慌てたように口元を押さえた。
「ごめん、つい……」
「次からは気をつけて」
「わかった。この間、一発退場くらったもんな」
静かに、静かにと繰り返しながら、間中くんは受け取ったばかりの本を開く。いつも落ち着きがなくてキョロキョロしている目が、今は紙面だけに向けられている。
(サッカーバカだもんね)
夏の大会のときも、1年生でひとりだけレギュラー入りしたって聞いた。
朝練にも毎日参加しているみたいだし、放課後も遅くまで練習を頑張っていて──そのせいで授業中しょっちゅう居眠りをしているのはどうかと思うけど。
「サッカー好き?」
「好き」
「1番好き?」
「当たり前じゃん」
そうだよね、間中くんの一番は「サッカー」だ。
わかっていたことだけど、なんだか嬉しい。私にも仲間が見つかったみたいで。
(ほんと、お姉ちゃんに聞かせてあげたいよ)
私や間中くんみたいな人はめずらしいのかもしれない。
でも、いるにはいるんだ。恋愛が一番じゃない人が。
(初恋なんか、まだでいい)
もっと大人になってからでいい。
中学生が恋愛っぽいことをしたところで、そんなのたかがしれている。
背伸びして、大人のまねごとをすることになんの意味が──
「あれ、トモちゃん?」
まろやかな声が、背後から届いた。
振り返るまでもない、声の主が誰なのかなんてすぐにわかる。
「結麻ちゃん……どうしたの?」
「新しい本を借りようと思って。ほら、この間トモちゃんがおすすめしてくれた……」
「ああ、あの本ね、あっちの棚にあるよ」
案内しようと結麻ちゃんの手を引いたところで、間中くんが一緒だったことを思い出した。
「ごめん、間中くん。私、ちょっと向こうの棚に……」
「……」
「……間中くん?」
間中くんは、ぽかんと口を開けていた。
大きな目はまんまるで──よく「鳩が豆鉄砲を食ったよう」って例えがあるけど、あれをまさに現実にしたみたいな感じ。
しかも、そのまんまるな目が見ているのは、結麻ちゃんだ。
(まさか……)
嫌な予感がした。
いや、だって、信じたくはないけれど──
(一目惚れ……?)
ブルータス──ならぬ、間中勇お前もか。
図書室に向かう途中、さんざん抗議したけれど、間中くんは「べつにいいじゃん」とケロッとしたものだ。
「大丈夫だって。ちゃんと誤解も解けたし」
「解けたからいいってものじゃないよ!」
「え、解けたらダメなの?」
「そうじゃなくて」
まずは、先ほどの状況をしっかり思い出してほしい。
昼休みの教室で、いきなりクラスメイトがいる前での公開告白。でも、実は「図書室につきあって」というオチでした──って。
あのときの、みんなの顔が忘れられない。
最初は「え、ありえない」みたいな驚きの顔。
そのあと「うん、やっぱりありえなかった」みたいな納得している顔。
「いたたまれない……」
「え、いたまたれない?」
「違う、『いたたまれない』!」
その場にいたくない、ジッとしていられないってこと――そう説明したら、間中くんは「わかった!」って嬉しそうに目を輝かせた。
「あれだろ、シュート決まったあと『うおおおおっ』て皆のとこに走っていく感じ」
──それ、絶対に違う。
でも、もう疲れたから放置することにした。
間中くんなんて、今後シュートを決めるたびに「俺、今サイコーにいたたまれねぇ!」って叫んで、恥ずかしい思いをすればいいんだ。
そんな呪いをひとつかけたところで、私たちは図書室に到着した。
「で、なんだっけ、借りたい本」
「陸上の、ええと……短距離走のトレーニングについて書いてるやつ」
「短距離走? なんで?」
間中くんはサッカー部だ。
なのに、どうして陸上の本を借りたいのだろう。
「ええと、俺さ、走り出しのスピードが遅いって言われててさ。そんで、もっとビュンッバンッてやりたくて、そしたらもっと楽にパス受けられそうだし、あと……」
擬音だらけの説明を簡単にまとめると「瞬発力を鍛えたい」ってことらしい。
ちなみに「瞬発力」っていうのは、瞬間的に発揮できる手足のばねの力のこと。これがすごいと、敵のマークを振りきってパスを受け取れるんだって。
「で、先輩が『図書室にいい本ある』って言ってたんだけど、本いっぱいじゃん? 探すの絶対大変だよなーって」
なるほど、それで私に声がかかったというわけか。
「正解」
「なにが?」
「私に声をかけたこと」
間中くんには、日頃から思うことが山ほどある。
でも「本を探したい」というなら話は別だ。
「その先輩は『陸上の短距離走のトレーニングの本』って言ってたんだよね?」
「うん」
「じゃあ、スポーツ系の棚を探そっか」
「すぐ見つかる?」
「たぶん。トレーニングの本なんて、あまり置いていないし」
でも、ちょっと意外。
そういうのって、みんな動画サイトで探すんだと思ってた。そのほうがお手軽だし、実際にやっているところを見られるし。
「それな、俺も最初はそう思ってたんだけど、コーチの話だと動画サイトのは大人向けが多いから俺には向かないかもって」
「大人向けのをやったらダメなの?」
「あんまりよくないって。まだ身体ができあがってないから」
そうか、トレーニングにも大人向けと子供向けがあるのか。
つまり恋愛と同じだ。大人のまねをしたところで、ろくなことにならない。
「あ、あったよ。たぶんこの本」
「おおっ! さすが佐島──」
「しっ!」
人差し指を立てて睨むと、間中くんは慌てたように口元を押さえた。
「ごめん、つい……」
「次からは気をつけて」
「わかった。この間、一発退場くらったもんな」
静かに、静かにと繰り返しながら、間中くんは受け取ったばかりの本を開く。いつも落ち着きがなくてキョロキョロしている目が、今は紙面だけに向けられている。
(サッカーバカだもんね)
夏の大会のときも、1年生でひとりだけレギュラー入りしたって聞いた。
朝練にも毎日参加しているみたいだし、放課後も遅くまで練習を頑張っていて──そのせいで授業中しょっちゅう居眠りをしているのはどうかと思うけど。
「サッカー好き?」
「好き」
「1番好き?」
「当たり前じゃん」
そうだよね、間中くんの一番は「サッカー」だ。
わかっていたことだけど、なんだか嬉しい。私にも仲間が見つかったみたいで。
(ほんと、お姉ちゃんに聞かせてあげたいよ)
私や間中くんみたいな人はめずらしいのかもしれない。
でも、いるにはいるんだ。恋愛が一番じゃない人が。
(初恋なんか、まだでいい)
もっと大人になってからでいい。
中学生が恋愛っぽいことをしたところで、そんなのたかがしれている。
背伸びして、大人のまねごとをすることになんの意味が──
「あれ、トモちゃん?」
まろやかな声が、背後から届いた。
振り返るまでもない、声の主が誰なのかなんてすぐにわかる。
「結麻ちゃん……どうしたの?」
「新しい本を借りようと思って。ほら、この間トモちゃんがおすすめしてくれた……」
「ああ、あの本ね、あっちの棚にあるよ」
案内しようと結麻ちゃんの手を引いたところで、間中くんが一緒だったことを思い出した。
「ごめん、間中くん。私、ちょっと向こうの棚に……」
「……」
「……間中くん?」
間中くんは、ぽかんと口を開けていた。
大きな目はまんまるで──よく「鳩が豆鉄砲を食ったよう」って例えがあるけど、あれをまさに現実にしたみたいな感じ。
しかも、そのまんまるな目が見ているのは、結麻ちゃんだ。
(まさか……)
嫌な予感がした。
いや、だって、信じたくはないけれど──
(一目惚れ……?)
ブルータス──ならぬ、間中勇お前もか。
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