たかが、恋

水野七緒

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第2話

12・間中くんの言い分

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 俺らサッカー部って、朝練が終わると音楽室の前を通るんだけどさ。
 吹奏楽部も朝練してんの。っていっても自主練らしいんだけど。
 で、池沢先輩っていつも誰よりも早く来て、音楽室の窓を開けてんの。
 最初は「窓あける係なのかなー」って思ってた。
 けど、違った。一番早く来て、いつもひとりで掃除してるんだ。
 あるときはモップを持っていたし、あるときは椅子を拭いてた。楽器を磨いてることもあった。
 で、うちのクラスの吹奏楽部のヤツらに聞いたんだ。「お前らはやらないの?」って。
 そしたら「やれって言われてない」「池沢先輩がやってるなら、それでいいじゃん」って。なにより「面倒くさい」って。
 でも、朝イチの池沢先輩を見てるとそんなふうにみえねーの。
 音楽室や楽器が大事で、だからなんていうか──



「『ありがとう』って言ってるみたいに見えた」
「……ありがとう? 何に?」
「楽器とか音楽室とか。たぶん、俺がボールやスパイクの手入れをすんのと同じ」
「……」
「だから、なんか、ええと……池沢先輩のこと『わかる』みたいな? 『仲間じゃん』みたいな? で、毎朝見ているうちに、いつのまにか朝以外でも気になるようになったっつーか」

 でも、と間中くんの声のトーンが少し落ちた。

「実は、池沢先輩をすぐ近くで見たの、この間の図書室が初めてでさ。あのとき『この人、すげーキラキラしてる』ってびっくりして……だから、その……たぶん池沢先輩の見た目も好きだと思う」

 それから気まずそうに「ごめん」と付け加えてきた。たぶん、私に怒られるとでも思ったのだろう。
 私は、まじまじと彼を見た。
 意外だった。彼も、結麻ちゃんの「外見だけ」を好きなのだと思ってた。

(でも、違った)

 むしろ逆だ。最初に結麻ちゃんの中身をいいなって思って、そのあと外見も好きになったんだ。

「あのさ、ひとつ質問してもいい?」
「おう、なんだ?」
「もし、間中くんが吹奏楽部員だったら、朝練のとき結麻ちゃんと一緒に掃除する?」
「当たり前だろ」

 悩むことなく、間中くんはにぱっと笑った。

「楽器も音楽室も大事! 掃除するの当然! それに、池沢先輩ひとりより俺とふたりのほうが早く片付くだろ」
「まあ、そうだね」

 それに、結麻ちゃんとふたりきになれるチャンスだ。つまり、間中くんからすれば、いわゆる「おいしい状況」ってヤツ──

「もちろん、俺が図書委員だったら、佐島の手伝いもするぞ」

 ──え?

「ここの掃除! 佐島がしてんだろ?」
「……なんで?」
「ここ、カビくさいけど、ほこりとかぜんぜんないじゃん。ここにくるの、佐島だけなんだろ?」

 そのとおりだ。私ばかりがここに足を運んでいて、だからついでに掃除をしていたのだ。
 放っておくと、すぐに書棚にほこりがたまるから。
 それじゃ、本が可哀想だったから。
 改めて、間中くんを見た。大きな目が、三日月を倒したみたいな形で私を見ていた。

「わかった。協力する」
「へっ……?」
「結麻ちゃんとうまくいくよう、協力してあげる」

 間中くんは、またもや「ふえっ」とへんな声をあげたあと

「マジで!? マジでマジでマジで!?」
「うん」
「やったぁっ! サンキュ、佐島!」

 大きな両手が、ギュッと私の右手を包んだ。
 それから力任せにブンブンと振りまわしてきた。

「痛っ……ちぎれる! ちぎれるから!」
「ハハッ、悪い悪い!」

 そんなわけで、私は間中くんの恋に協力することになった。
 正直あまり気が進まないけど、まあ、仕方ないかなって。
 なにせ、私たちは「友達」なんだから。
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