たかが、恋

水野七緒

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第4話

2・一方、彼は…

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 そんなもんもんとした気持ちを抱えたまま、私は昼休みの廊下を歩いていた。

(ダメだ、何度考えてもわからない)

 わからないから気持ちが悪い。解けない謎を抱えるのって、思っていた以上にストレスなんだ。
 でも、これから間中くんと作戦会議だし、ちゃんと「いつもの私」に戻らないと。
 重たい気持ちのまま、書庫の鍵を開ける。
 ひとまず気持ちを落ちつけようと、持ってきた本の表紙をめくってみた。
 ひとりの地味な女子高生が、学校の謎を解決していく学園ミステリー。今回はプレハブ校舎の謎に挑むみたいだ。
 いつもなら冒頭の数行を読んだだけで、物語の世界に入ることができる。特に、このシリーズはテンポがいいからあっという間に没頭できるはずなのだ。
 なのに──

(だめだ、頭に入ってこない)

 目が、文字の上をすべるように流れてしまう。本と目と頭が完全に切り離されてしまっているみたいだ。

「最悪……」

 発売日当日に買うほど楽しみにしていた、シリーズ最新作なのに。
 悔しくてもうしばらく粘ってみたものの、結局文字が通りすぎていくばかりだったので、私はあきらめて表紙を閉じた。

(間中勇め)

 もういっそ誰か教えてほしい。
 なぜ、私は彼の笑顔を見てしまうのか。
 なぜ、笑っている彼をとがめる気になれないのか。
 きっかけはわかっている。少し前にここで目撃した「アレ」だ。

──「こっちこそ、よろしくな! 佐島のこと、すっげー頼りにしてっから」

 あのとき目にした、間中くんの笑顔。
 あれ以来、なぜか目が勝手に彼の笑顔を拾いあげてしまう。
 最初は、笑っている彼を見るのが久しぶりだからだと思っていたけれど、こうも続くと話は別だ。

「悪い、佐島!」

 ようやく書庫の扉が開いて、間中くんが入ってきた。

「待たせたよな、ごめん!」
「えっ、ああ……うん……」

 慌てて腕時計を確認する。たしかに、約束していた時間を10分も過ぎていた。

「なにかあったの?」
「あったっていうか……なんか呼び出された」
「誰に?」
「隣のクラスの女子」

 ああ、なるほど。

「また告白? 最近ほんとすごいよね」

 しかも「隣のクラスの女子」ってことは、たぶんよく教室を覗きに来ていた子たちだ。かわいいって評判の、うちのクラスの男子にも人気の3人組。
 なのに、間中くんの表情はパッとしない。

「どうしたの? なんか嫌なことでもあった?」

 間中くんは「そうじゃねぇけど」って目を伏せた。
 それからしばらく黙り込んだかと思うと、やがて重たそうに口を開いた。

「なんか、告白されるのって……あんまり嬉しいもんじゃねーのな」
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