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第一章
1-3 調合台
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異変と言っても大したことはない。
体がほのかな温かみで包まれて、調合師、という素質でできることが自然と分かったのだ。
いや、俺にとっては大した変化だといえる。
例えば魔法師の素質があるものであれば、魔法の使い方が自然と分かるという。
兄さんたちにも魔法の素質を持つ人がいて、魔法を使っているのを見たことがある。
他には剣士の素質が開花したものは、明らかにその素質を得た日を境にして剣術の腕が上がるという。
なのに俺は調合師という素質を得た時から今まで何もなかった。
そう。何もなかったのだ。
なので現在俺の眼下において起きた変化は、とてつもない変化だと言ってもいいと思う。
何もない場所に、小さな机と椅子に色々な見たこともない器材が並べられた、調合師用の机が現れたのだから。
森にぽつんと佇むその光景は異様であるが、僕の意志で出し入れできるようなので問題はない。
ワクワクする気持ちを抑えることもせず椅子に座ってみる。
小さめの引き出しが三つに大き目の引き出しが一つ。さらに最も大きな引き出しが一つついている。
現在は最も大きな引き出し以外どれも空であるが、仕切りが大量に存在していてなんだか心が弾んだ。
最も大きな引き出しは机の上に乗りきらない道具類。
全て名前と使い方が僕の頭の中には流れ込んできていて、どうやらそれの保管庫になっているようだ。
乳鉢、乳棒は勿論の事、ろうと、濾紙、ビーカーや試験管、泡だて器などといった名前すら聞いたこともないものもある無数とも言える種類の道具類。
引き出しの中に入っているのだが、取り出したい物を取り出そうとすれば取り出せるという奇妙な力。
だが、なぜ急にこんなことができるようになったんだろう?
森ウサギを倒したから?
分からないがそれがスイッチになっていることは確かだろう。
剣を振ったからというには、あまりにも時間差があり過ぎる。
森ウサギの生命の灯火が消えると同時に、俺の中で何かがはじけたような感覚だったのだから。
といっても材料もないし、現状やれることはない。
森ウサギはゲットしたことだし調合台も取得した。
素振りはまだ残っているが、一度森ウサギを家に預けるために戻ることにした。
「ただいま……」
僕の家へと着いて口にした挨拶に返事をしてくれたのは、メイドのリーザさんだけだった。
まぁ玄関を掃除していたのがリーザさんで、他には誰もいなかったというのもあるのだけれど。
「おかえりなさいませ。それは……?」
僕が調合師ということを兄さんに話してしまったのは彼女であるが、それは兄さんたちに言われたからのことでどうすることも出来ない話。
というよりいずれはばれること。
逆恨みなんてしていないし、挨拶をしてくれるだけで僕の心も晴れやかになるというもんだ。
「うん。運よく森ウサギを見つけてね。角だけ欲しいから後で角だけ持ってきてくれる?」
リーザさんの目が森ウサギに向いていたのでそう答えた。
森ウサギの角は調合に使えるということが文献で書かれていたんだ。
「かしこまりました。お肉はディル様からのものと……」
「あー待った待った。それはやめてくれ。俺からっていうのは言わないで欲しい」
「どうしてですか? 名誉を回復するチャンスなのでは……?」
不思議に見つめてくる蒼の双眸が綺麗だなと思う。
お揃いの色の髪の毛もきれいだし、メイドをやっているのがおかしいと思う程の容姿なのだけど、素質がメイドであるから仕方がないのだろう。
別に素質が絶対という訳ではない。けれど、大体の人は決められた道を選んでしまうもの。
リーザさんが淹れてくれる紅茶は、なぜか他の人が淹れるものよりも数段美味しい。
「そんなチャンスいらないよ。どうせ俺はいらない子なんだから」
リーザさんは俺の手をぎゅっと握ってくる。
手のぬくもりを感じて少しだけ顔に熱が上る。
「いらない子なんてものは存在しないんですよ。ディル様は心優しいですし、私は好ましく思っています」
「あはは。ありがとう。そんな風に言ってくれるのはリーザさんくらいだよ」
リーザさんは25歳。俺よりも一回り以上も離れているので、変な意味ではないのは分かっている。
それでも誰からも必要とされてないわけじゃないんだと思って、ちょっぴり嬉しい気持ちになった。
体がほのかな温かみで包まれて、調合師、という素質でできることが自然と分かったのだ。
いや、俺にとっては大した変化だといえる。
例えば魔法師の素質があるものであれば、魔法の使い方が自然と分かるという。
兄さんたちにも魔法の素質を持つ人がいて、魔法を使っているのを見たことがある。
他には剣士の素質が開花したものは、明らかにその素質を得た日を境にして剣術の腕が上がるという。
なのに俺は調合師という素質を得た時から今まで何もなかった。
そう。何もなかったのだ。
なので現在俺の眼下において起きた変化は、とてつもない変化だと言ってもいいと思う。
何もない場所に、小さな机と椅子に色々な見たこともない器材が並べられた、調合師用の机が現れたのだから。
森にぽつんと佇むその光景は異様であるが、僕の意志で出し入れできるようなので問題はない。
ワクワクする気持ちを抑えることもせず椅子に座ってみる。
小さめの引き出しが三つに大き目の引き出しが一つ。さらに最も大きな引き出しが一つついている。
現在は最も大きな引き出し以外どれも空であるが、仕切りが大量に存在していてなんだか心が弾んだ。
最も大きな引き出しは机の上に乗りきらない道具類。
全て名前と使い方が僕の頭の中には流れ込んできていて、どうやらそれの保管庫になっているようだ。
乳鉢、乳棒は勿論の事、ろうと、濾紙、ビーカーや試験管、泡だて器などといった名前すら聞いたこともないものもある無数とも言える種類の道具類。
引き出しの中に入っているのだが、取り出したい物を取り出そうとすれば取り出せるという奇妙な力。
だが、なぜ急にこんなことができるようになったんだろう?
森ウサギを倒したから?
分からないがそれがスイッチになっていることは確かだろう。
剣を振ったからというには、あまりにも時間差があり過ぎる。
森ウサギの生命の灯火が消えると同時に、俺の中で何かがはじけたような感覚だったのだから。
といっても材料もないし、現状やれることはない。
森ウサギはゲットしたことだし調合台も取得した。
素振りはまだ残っているが、一度森ウサギを家に預けるために戻ることにした。
「ただいま……」
僕の家へと着いて口にした挨拶に返事をしてくれたのは、メイドのリーザさんだけだった。
まぁ玄関を掃除していたのがリーザさんで、他には誰もいなかったというのもあるのだけれど。
「おかえりなさいませ。それは……?」
僕が調合師ということを兄さんに話してしまったのは彼女であるが、それは兄さんたちに言われたからのことでどうすることも出来ない話。
というよりいずれはばれること。
逆恨みなんてしていないし、挨拶をしてくれるだけで僕の心も晴れやかになるというもんだ。
「うん。運よく森ウサギを見つけてね。角だけ欲しいから後で角だけ持ってきてくれる?」
リーザさんの目が森ウサギに向いていたのでそう答えた。
森ウサギの角は調合に使えるということが文献で書かれていたんだ。
「かしこまりました。お肉はディル様からのものと……」
「あー待った待った。それはやめてくれ。俺からっていうのは言わないで欲しい」
「どうしてですか? 名誉を回復するチャンスなのでは……?」
不思議に見つめてくる蒼の双眸が綺麗だなと思う。
お揃いの色の髪の毛もきれいだし、メイドをやっているのがおかしいと思う程の容姿なのだけど、素質がメイドであるから仕方がないのだろう。
別に素質が絶対という訳ではない。けれど、大体の人は決められた道を選んでしまうもの。
リーザさんが淹れてくれる紅茶は、なぜか他の人が淹れるものよりも数段美味しい。
「そんなチャンスいらないよ。どうせ俺はいらない子なんだから」
リーザさんは俺の手をぎゅっと握ってくる。
手のぬくもりを感じて少しだけ顔に熱が上る。
「いらない子なんてものは存在しないんですよ。ディル様は心優しいですし、私は好ましく思っています」
「あはは。ありがとう。そんな風に言ってくれるのはリーザさんくらいだよ」
リーザさんは25歳。俺よりも一回り以上も離れているので、変な意味ではないのは分かっている。
それでも誰からも必要とされてないわけじゃないんだと思って、ちょっぴり嬉しい気持ちになった。
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