異端の調合師 ~仲間のおかげで山あり谷あり激しすぎぃ~

こたつぬこ

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第二章

2-20 覇女と心話

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 ジョカが完全にその姿を消した直後だ。まるで俺の体内から響く様にジョカの澄み渡る声が全身を通り抜ける。

【中は中々に快適でありまするな。妾、主殿に危険が迫りましたら眼下を掃滅させる故に】

 その言葉を聞きキョロキョロと辺りを見回す。
 俺の事を怪訝な様子で見ているリンガルさんが目に入るが、今はそれどころではない。

「ちょ、ちょっと待っててくださいね」

「あ、うむ……。先ほどの女性はいずこへ……」

 そう呟きリンガルさんも辺りを確認し草葉を踏み揺らしたが、当然ジョカの姿を見つけることはできず髭の浮いた顎をポリポリと掻きながら首を傾げた。
 可哀そうだがそのまま待っててもらうことにして考える。

 もしかして、ジョカとは待機状態でも繋がっている……?

 そんなことはピギュン達や、言葉を話せるフロードでさえ今までに全くなかった。
 周辺を確認できると言っていたがそれだけだ。

 だが。

「ジョ…………」

 俺は口を開きかけて躊躇う。
 リンガルさんが目の前いるのに一人で話していたらおかしい人だと思われるだろう。
 できるのかどうかは分からないが内心から話しかけてみることにした。

(ジョカってまさか中から会話できる……?)

 半信半疑。心で思ったことが伝わるだなんて考えられないし、正直止めて欲しい。
 ジョカが姿を見せている時にはそんなことはなかったということもある。

 しかし。

 俺の願いはあっさり絶たれることになった。

【可能のようでありまするな。視界も開けてますし全く不自由無きでありまする】

(出たり入ったりも自由にできちゃうんだよね……? 今までの感じからすれば……)

【妾の自由を束縛するものは……中から現界に影響を及ぼすことができぬというただ一つ。それも現界に顕著すればよいだけの事】

 俺の頭がクラリと揺れる。
 つまりこの先俺は細心の注意を払って生きていかないといけないという訳だ。
 何かあればジョカは勝手に出てきて全てを滅ぼす。

 最悪だ。

 だが一つ幸いなことがあるとすれば、考えたことが全て筒抜け、という訳ではなく伝えたいと思った事だけが伝わるという仕様だということ。
 もし考えたことが全て筒抜けなら俺のプライバシーは消えて果てる。

 良かった。

 本当に良かった。

 さっきの女の子のちらと見た顔が、ちょっと可愛かったと思ってることがばれてなくて本当に良かった。

 うん。

 チラと女の子に目を向ける。
 草原に後ろ姿でうずくまった状態で、先ほどのシュネムさんが腰を落として何やら話しかけている。
 錦糸のように流れるようなブロンドがソールの光を煌めかせて、やはりなんとも気にかかる。
 歳の頃は不明だが、おそらくは俺とそれほど離れていないんじゃないかと思う。

 だが、気にはなるが後だ。

(ジョカ、話しかけられると気が散るからなるべく静かにしといてくれよ)

【畏まりましたでありまする。妾、主殿に何かない限りは静かにしております故に】

 俺に何かない限り……それはつまり俺に何かあれば問答無用で出てきてしまうということ。
 僅かにため息が漏れそうになるのをグッとこらえ、困惑した様子のリンガルさんに顔を向けた。

「先程の女性は人ではないのです。ですが……あまり知られたくないので秘密にして頂けますか?」

「そ、そうだったのですか。それでは従魔か何か……いや、人型の従魔だなんて……。あ、申し訳ありません。命の恩人殿との約束は絶対守りますから」

 口の中でぶつぶつと呟いていた様子だったが、ハッと気付いた様に分厚い唇を開き小さく頭を下げた。
 そういえば、俺は名乗ってなかったなとここに来て不作法を恥じる。

「すいません、俺の名前はディルレ…………ディルと申します。ええと……それでですが……」

「何があったかでしたな。ふむ…………。端的に言えばリトリアに向かっている途中に野盗に襲われたのです」

 リンガルさんが僅かに考えるような素振りを見せたのが気にかかる。
 確かに俺も最初は盗賊の類に襲われている行商一行か何かと考えていた。

 しかし。

 改めて近寄って確認した時に感じたのは、明らかに盗賊にしては装備のグレードが高かったこと。
 その行動はしっかりとした統率が取れていたように見えたこと。

 それに。

 リンガルさんたちの装備もそうだ。
 おそらくは襲われていた男たちと同等かそれ以上の装備をしていた。
 消してしまったので申し訳ない気分になるが、特に女の子は精緻な細工を施された装飾鎧のようなものを着こんでいて一人質が違うように思えた。

 腰に差していた剣も目に留まるほどに美しい剣であったし。

 全部消してしまったけど。

 あぁ……。

 でもそれには触れないようにしよう。怒られたらいやだし。

「盗賊には見えなかったんですが盗賊だったんですね」

「あ、はい。そうですな、おそらくですがCランク程の盗賊団か何かだったのでしょう。いや、本当に助かりました」

 何かの価値や危険度、また冒険者ランクというものに至るまでを、SSSを頂点としSS、S、A、B、C、D、そしてEが最低という記号で表している。
 但し、SとAの境目に大きな壁があるらしく、基本的にはA~Eの指標が使われることが多い。
 といっても俺たちの故郷スレイブンには冒険者ギルドというものもなかったし、盗賊団もいなかったので使われるのはモンスターを対象とした時くらいのもの。

 森ウサギはE、フロードとピギュンが捕まえてきたバレードベアはD。
 C以上のランクなんてお目にかかる機会がなかった(すれ違った冒険者にいたりはしているかもしれないが)

 それなのにCランクの盗賊団というわけだ。
 ということは普通であれば相当にまずい状況だったということだろう。

 やり過ぎ感は否めないが、本当に結果的には良かったんだと思う。

 ただ、一つ気になることもある。

 リトリアの街はもう目と鼻の先。
 そんな場所でCランクの盗賊団が野放しにされていることがあるのだろうか? ということだ。
 アジトやどこかから出てきたのかもしれない。

 しかし。

 なんだか不穏な気配を感じて俺は腕を組んだ。
 チリチリと胸騒ぎがしている。

(ジョカ、さっきの黒い鎧の人たちってCランクの盗賊団って言ってるんだけど……どう思う?)

【妾にはランクというものがどの程度かは分かりかねまする。ただ、見たところ一人一人の力で言えばこの小人のほうが勝っていたと思いまする。どちらも妾にとっては路傍の石のようなものでありまするが】

(そ、そう……分かった。ありがとう)

 何かは分からない。
 けれどリンガルさんは何かを隠しているような気がする。

 だが何かあればジョカがいる。
 危険な考えでもあるのだけど、俺にとっていえばなによりも安全だ。
 そう考えていると視界の端でブロンドの髪が揺れ、シュネムさんに連れられ女の子がこちらに向かって歩み寄ってきていた。

 蒼色の瞳、少し幼さを感じさせる丸みを帯びた輪郭。
 キュッと茶巾を体に纏う中僅かに見せる女性らしい肢体。
 整った顔のパーツの中に女性らしさを感じるような柔らかさがあり、やはり相当に可愛いと思えた。

 しかし。

 俺の外見から感じたイメージは脆くも崩れ去ることになった。
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