異端の調合師 ~仲間のおかげで山あり谷あり激しすぎぃ~

こたつぬこ

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第二章

2-33 敷地に畑

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「さて、これからのことだが……当然先立つ物は必要なのでまずはそれをどうにかしないといけないと思う」

「そうですね、予定とは変わってしまいますが確かにそれは必要だと思います。ディル君に頼るわけにはいきませんから」

 フランシスが落ち着いて俺の隣の椅子に戻ったのを確認し、リンガルさんとシュネムさんがそう始めた。
 予定というものが俺にはよく分からないけれど、確かにお金は必要。
 稼がないと家賃を払えないどころか飢えて死んでしまうだろう。

 だが。
 俺には少しばかり考えあった。

「あの、それなんですけど。庭の草が全て消滅して空きスペースができましたよね?
 そこを使わせてもらって畑を作りたいと思うのですが」

「ふむ……。だが、それでは流石に悠長すぎるのではないかな?ディル殿。作物の収穫前に先に我らが……」

「あーはい。普通はそうなんですけど、ちょっと考えがあるというか……。上手くいくかは五分五分といったところですが」

 俺の言葉にリンガルさんはシュネムさんと顔を見合わせ小さく頷き合った。
 確かに普通なら当面のお金を稼ごうという時に、畑を興そうだなんてあほな考えだと俺も思う。
 けれど俺は普通じゃない。異端な人間だ。
 人と同じことをやっていても仕方がないはずだ。

「ディル殿のことだから考えがあるのだろうが……いや、ふむ、そうか……。君の力に何か関係しているということなのかい?」

「そうですそうです。だから、申し訳ないのですけど……畑を耕して欲しいなと思いまして」

「それくらいはお安い御用だ。確かさっきスコップを見かけたよな?シュネム殿」

「ええ。物置に錆びてはいましたがスコップやらバケツやらがありましたね」

 玄関から屋敷の裏手に向かう途中に小屋のような物があり、そこにボロの小物類がいくらかあったことは確認できている。
 庭に小さな花壇の跡(草花は全て消滅したのでよく分からない)があったので、使用人にでも花を植えさせていたのだろう。

「俺はその間に図書館に行ってきますので、よろしくお願いしてもいいです?」

「ふむ。ディル殿のやろうとしていることは皆目見当がつかないが……勿論だ。畑は我らに任せてくれ!」

 リンガルさんが逞しい胸を叩くと、小気味の良い重低音がなり耳を弾ませた。
 豪快な笑顔も頼もしくここは任せていいだろう。

「じゃ、私はディルくんと図書館にいきまーす。本がいっぱいあるんでしょ? 楽しみぃ」

「い、いや、ちょっと待て、フランシス。ディル殿の邪魔になるではないか! フランシスは庭で畑づくりだ!」

「いやよ! 何で私が……虫だっているだろうし」

 タンタンと机をたたきながらのリンガルさんに、フランシスは首をぶんぶんと振る。
 隣の俺には当然髪の毛がわさわさと当たった。別に構やしないけど。

「虫は多分いないよ。土の中……は分かんないけど。全部消したからね」

「そ……ねぇ、ディルくんは畑仕事をする女の子のほうが好きなの?」

「え、えと……。それは特になんとも思わない、か、も」

 俺の手をギュッと握ってくるフランシスにたじたじになりながら答える。
 しかしなんだ? フランシスは俺に好かれたいのかな?

 いや、だが……。

 俺はフランシスに土下座をさせたり、酷いことを結構やっていると思う。
 おそらくは嫌われているはずだ。

 いや、でも、ここまでの感じからすると……。
 好かれてる?

 まぁどのみちジョカがいる現状あまり親密な関係にはなりたくない。
 全部ばれてることだし……しかし、ジョカは変なことを言っていたっけ。こ、こ、こう……なんとかがどうとかって……。

「じゃあいいわ。ディルくん、私を図書館に連れてってよ」

 別に連れて行ってもいいような気もするが、連れていくと調べ物が進まなくなりそうな気もする。
 間違いなくそうだろう。
 はっきり言って今は邪魔になる可能性が高すぎる。

「うーん、今は調べ物したいから……」

「お願いっ! 一生のお願いっ!」

 そう。
 俺は油断をしていた。
 本来はこんなやり取りをしてはいけなかったのだ。
 きっぱりと最初から断るべきだった。
 俺の耳に破滅の足音が忍び寄る。

【主殿、このおなごがまた我が儘を口にし困らせている訳でありまするか? いくら存続欲求の対象だとしても見過ごすことはできませぬ。
 闇黒牢獄にふうい――】

「あやまれええええええ! どげさだああああああ! 俺を困らせたことを謝るんだ! 早く! 今すぐにっ!」

「えっ、えっ、え!? また、またなの!? きゃぁ!」

 俺はフランシスを椅子から降ろすと頭をぐいぐいと床に押し込んだ。
 今度は意外と素直に地べたに丸まる。
 床も掃除したから綺麗なのだ。

「ということで、俺は一人で図書館に行くからフランシスはリンガルさんたちと畑づくりだ! …………もういいよ」

 俺はジョカが放つ雰囲気が緩やかになったのを感じ、フランシスの頭を撫でながら起こしてやった。
 正直泣いているかと思っていた。

 けれど。

 なぜかフランシスは俺の手をギュッと握って嬉しそうに顔を綻ばせていた。
 やはりそうなのだ。

 フランシスはドMとかいうやつなのだろう。

 しかし。

「ありがと。また私を守ってくれたんでしょ? ならいいよ、気にしてないから」

「あ、あぁ……そうだけど……。まぁちょっと待っててよ。畑づくりって多分大変だからフランシスでもできることあると思うからさ」

「ん、分かった。また今度時間あるときに図書館に連れて行ってね」

 予想外の展開に俺は正直面食らっていた。
 てっきり泣いたフランシスを慰め、そしてまた服で鼻をかまれることになると思っていたのだ。
 こんなに聞き分けよく納得するなんて初めから思っていなかった。
 ジョカのあまりの恐怖ゆえ?
 微笑みながら揺れるブロンドが魔導ランプの光を艶やかに照り返し、なんだか俺の持つイメージが変わっていくような気がした。
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