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第二章
2-34 図書館
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少々不可解な気持ちを抱えつつ俺は街を歩いていた。
頭の中で、公務所で見た地図を思い出し構成しつつ図書館へと向かう。
本が大量にある場所だと考えるだけで俺の心は弾む。
目的の物は当然調合書。
俺の持っている基礎調合の冊子には、俺が作りたいと思っているものは載っていなかった。
現在作りたいのは、肥料と殺虫剤。どちらも農業用の物が欲しい。
今まで俺が生み出した仲間の事を考えると、その効力は実際にできあがる物よりも大きい。
なので。
即戦力になってくれると信じて通りを歩いている。
屋敷から歩くこと30分。中層の家屋と小型の屋敷に囲まれた場所に図書館はあった。
薄緑色を基調とした目に優し気な建物。
幾本か尖塔のような物がくっついており、まるで小さなお城のような外観だ。
中へと入り受付の女性の案内を聞いてから本を探す。
が、しかし!
探せど探せど一向に見つかる気配がない。
肥料や殺虫剤の調合法が見つからないわけではない。
調合書自体がまるきり見つからないのだ。
俺は係員っぽい人を捕まえて尋ねかけてみる。
薄茶色の髪をショートに切りそろえ、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男の人だ。
胸のネームプレートにはローシェと書かれている。
「すみません。この図書館って調合書……みたいなものって置いてないんですか?」
「調合書……? 素質の関係かな? だが、残念ながら調合書や応用魔導書は王都に全て送ってしまったんだ」
銀ぶちの丸眼鏡の下の黒い瞳が申し訳なさげな色を放つ。
しかし、俺はそれを聞いてショックで頭が揺れそうだった。
リンガルさんたちに畑を耕してもらって俺は意気揚々と出てきたのに、調合書がないだなんて……。
フランシスの微笑みも頭に浮かぶ。
俺が何をやろうとしているのか楽しみにしてるね、と言っていた行き際の台詞も思い出される。
「そ、そんな……。一冊もないんですか?」
「僕が記憶している限りでは全て送ってしまったね。ただ……街外れに古書店があるだろう? そこに行けばあるいは」
「いや、俺ここの街の人間じゃないので……」
「え? 今は街が封鎖されているというの……あ、ああ! そうか! 君が噂の門を壊したって子?」
考え込むような素振りを見せてから、ポンと手を叩きケラケラと笑い出した。
てか、噂されてるの!? 秘密にしといてって言ったのに!
だが、仕方ないかもしれないか。住民にも見られていたことだし噂の出自を全て止めるのは不可能。
俺がやったってことになってるのはなんとも言えないが……噂なんて曲解して伝わるものだ。
「や、やだなぁ。俺が壊せるわけがないじゃないですか……。それより、それって結構な噂になってるんですか?」
「うーん。いや、それほどでは……。この噂を広めると門を壊した子に殺されるかもしれないみたいに聞いたよ……。って、あ! やばっ!」
「だから俺じゃないって言ってるじゃないですか! で、でも、ローシェさんも秘密にしといてくださいね」
俺がそう口にするとごくりとつばを飲み込み大きく頷いた。
なんだか俺が怖いと思われてるみたいでいやだな。
「あ、当たり前じゃないか。ははは……。他ならぬ自分のためにも……ね……」
「いや、だから……。まぁいいや。ええと、それで、古書店の事を教えて欲しいんですが」
明らかな誤解。
けれど、そのほうが秘密を守ってくれそうだったのでそのままにしておくことにした。
この街でどう思われるか? よりもスレイブンに俺の噂が届かない方が大事に決まっている。
王都が戒厳令を敷かれていて、この街も封鎖されているのでそこまで神経質にならなくても良いかもしれないが、悪い芽は育てないほうがいい。
「そうだったね。ええと…………はいこれ。僕もちょくちょく利用させて貰ってるから」
ローシェさんは懐から一枚の紙を取り出すと、何かを書き記して俺に渡してくれた。
紙にはエリアの古書店と書かれていて手書きの簡易な地図も描かれている。
書き記してくれたのはローシェさんの名前と、俺の事をよろしくみたいな内容だ。
「これ頂いていいんですか? なんだかこんなによくしてもらっちゃって……」
「ん、勿論だよ。僕の勘がええと……」
「あ! ディルです。12歳です」
「へぇ、しっかりしているな。僕はローシェ……は見て分かるか。年齢は17歳だね。ディルくんと仲良くしていたほうがいいと思ったんだ」
「最初、門を壊したかもしれないと思っていたのにですか?」
俺が尋ねかけるとローシェさんは頭を掻きながら小さくはにかんだ。
「あはは。いやいや、門の事はよく分からないけれど、話していてディルくんが悪人じゃないことくらいは分かるよ。
け、決して媚びを売ってるわけじゃないからね!」
そのままあたふたと両手を動かしだしたので、俺は両手をそれを止めるように手を掲げた。
「分かってますよ。門は……本当に俺がやったわけじゃないんです」
「そうかい? 君からはただならぬ何かを感じるような気がするけれど……」
「あ、ははは。気のせいですよ、気のせい。じゃ、俺はこのエリアの古書店ってところに行きますんで! また何かあったら……」
少しだけ訝しむような目を透明なガラス越しに光らせたので、俺は慌てて誤魔化した。
眼鏡をかけてる人ってあんまりみたことがないけれど(高級品らしいので)何だか心を見透かされてるような気がする。
「そうだね。ま、街で出会うことでもあったら一緒にご飯でも食べようか! なぁに、心配しなくてもお兄さんが奢ってあげるからさ」
見た目は落ち着いた雰囲気なのだけど、フォーカス兄さんより随分とノリが軽い。
けれど、なんとなくその姿が重なるような気がして俺の心は安寧を感じていた。
「ありがとうございます。俺、門の事で借金が凄くてですね……」
「や、やっぱり門は君が……!?」
「違いますよ! 壊したのは俺じゃないのですけど、責任は俺にあるというかなんというか……。とにかく今は大変なんです」
「そうなのかい? よく分からないけれど……。ま! こうして出会ったのも何かの縁だ。何かあったら協力させてもらうよ」
「ありがとうございます。それじゃ、また」
「うん、またね、ディルくん」
こうして挨拶を交わした後、俺は図書館を後にしエリアの古書店というところを目指すことにした。
古書店は下層にあるようで、人で賑わいもくもくと煙が上がる建物が立ち並ぶ工房街をつっきった場所、本当に街外れだと思うところにひっぞりと佇んでいた。
頭の中で、公務所で見た地図を思い出し構成しつつ図書館へと向かう。
本が大量にある場所だと考えるだけで俺の心は弾む。
目的の物は当然調合書。
俺の持っている基礎調合の冊子には、俺が作りたいと思っているものは載っていなかった。
現在作りたいのは、肥料と殺虫剤。どちらも農業用の物が欲しい。
今まで俺が生み出した仲間の事を考えると、その効力は実際にできあがる物よりも大きい。
なので。
即戦力になってくれると信じて通りを歩いている。
屋敷から歩くこと30分。中層の家屋と小型の屋敷に囲まれた場所に図書館はあった。
薄緑色を基調とした目に優し気な建物。
幾本か尖塔のような物がくっついており、まるで小さなお城のような外観だ。
中へと入り受付の女性の案内を聞いてから本を探す。
が、しかし!
探せど探せど一向に見つかる気配がない。
肥料や殺虫剤の調合法が見つからないわけではない。
調合書自体がまるきり見つからないのだ。
俺は係員っぽい人を捕まえて尋ねかけてみる。
薄茶色の髪をショートに切りそろえ、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の男の人だ。
胸のネームプレートにはローシェと書かれている。
「すみません。この図書館って調合書……みたいなものって置いてないんですか?」
「調合書……? 素質の関係かな? だが、残念ながら調合書や応用魔導書は王都に全て送ってしまったんだ」
銀ぶちの丸眼鏡の下の黒い瞳が申し訳なさげな色を放つ。
しかし、俺はそれを聞いてショックで頭が揺れそうだった。
リンガルさんたちに畑を耕してもらって俺は意気揚々と出てきたのに、調合書がないだなんて……。
フランシスの微笑みも頭に浮かぶ。
俺が何をやろうとしているのか楽しみにしてるね、と言っていた行き際の台詞も思い出される。
「そ、そんな……。一冊もないんですか?」
「僕が記憶している限りでは全て送ってしまったね。ただ……街外れに古書店があるだろう? そこに行けばあるいは」
「いや、俺ここの街の人間じゃないので……」
「え? 今は街が封鎖されているというの……あ、ああ! そうか! 君が噂の門を壊したって子?」
考え込むような素振りを見せてから、ポンと手を叩きケラケラと笑い出した。
てか、噂されてるの!? 秘密にしといてって言ったのに!
だが、仕方ないかもしれないか。住民にも見られていたことだし噂の出自を全て止めるのは不可能。
俺がやったってことになってるのはなんとも言えないが……噂なんて曲解して伝わるものだ。
「や、やだなぁ。俺が壊せるわけがないじゃないですか……。それより、それって結構な噂になってるんですか?」
「うーん。いや、それほどでは……。この噂を広めると門を壊した子に殺されるかもしれないみたいに聞いたよ……。って、あ! やばっ!」
「だから俺じゃないって言ってるじゃないですか! で、でも、ローシェさんも秘密にしといてくださいね」
俺がそう口にするとごくりとつばを飲み込み大きく頷いた。
なんだか俺が怖いと思われてるみたいでいやだな。
「あ、当たり前じゃないか。ははは……。他ならぬ自分のためにも……ね……」
「いや、だから……。まぁいいや。ええと、それで、古書店の事を教えて欲しいんですが」
明らかな誤解。
けれど、そのほうが秘密を守ってくれそうだったのでそのままにしておくことにした。
この街でどう思われるか? よりもスレイブンに俺の噂が届かない方が大事に決まっている。
王都が戒厳令を敷かれていて、この街も封鎖されているのでそこまで神経質にならなくても良いかもしれないが、悪い芽は育てないほうがいい。
「そうだったね。ええと…………はいこれ。僕もちょくちょく利用させて貰ってるから」
ローシェさんは懐から一枚の紙を取り出すと、何かを書き記して俺に渡してくれた。
紙にはエリアの古書店と書かれていて手書きの簡易な地図も描かれている。
書き記してくれたのはローシェさんの名前と、俺の事をよろしくみたいな内容だ。
「これ頂いていいんですか? なんだかこんなによくしてもらっちゃって……」
「ん、勿論だよ。僕の勘がええと……」
「あ! ディルです。12歳です」
「へぇ、しっかりしているな。僕はローシェ……は見て分かるか。年齢は17歳だね。ディルくんと仲良くしていたほうがいいと思ったんだ」
「最初、門を壊したかもしれないと思っていたのにですか?」
俺が尋ねかけるとローシェさんは頭を掻きながら小さくはにかんだ。
「あはは。いやいや、門の事はよく分からないけれど、話していてディルくんが悪人じゃないことくらいは分かるよ。
け、決して媚びを売ってるわけじゃないからね!」
そのままあたふたと両手を動かしだしたので、俺は両手をそれを止めるように手を掲げた。
「分かってますよ。門は……本当に俺がやったわけじゃないんです」
「そうかい? 君からはただならぬ何かを感じるような気がするけれど……」
「あ、ははは。気のせいですよ、気のせい。じゃ、俺はこのエリアの古書店ってところに行きますんで! また何かあったら……」
少しだけ訝しむような目を透明なガラス越しに光らせたので、俺は慌てて誤魔化した。
眼鏡をかけてる人ってあんまりみたことがないけれど(高級品らしいので)何だか心を見透かされてるような気がする。
「そうだね。ま、街で出会うことでもあったら一緒にご飯でも食べようか! なぁに、心配しなくてもお兄さんが奢ってあげるからさ」
見た目は落ち着いた雰囲気なのだけど、フォーカス兄さんより随分とノリが軽い。
けれど、なんとなくその姿が重なるような気がして俺の心は安寧を感じていた。
「ありがとうございます。俺、門の事で借金が凄くてですね……」
「や、やっぱり門は君が……!?」
「違いますよ! 壊したのは俺じゃないのですけど、責任は俺にあるというかなんというか……。とにかく今は大変なんです」
「そうなのかい? よく分からないけれど……。ま! こうして出会ったのも何かの縁だ。何かあったら協力させてもらうよ」
「ありがとうございます。それじゃ、また」
「うん、またね、ディルくん」
こうして挨拶を交わした後、俺は図書館を後にしエリアの古書店というところを目指すことにした。
古書店は下層にあるようで、人で賑わいもくもくと煙が上がる建物が立ち並ぶ工房街をつっきった場所、本当に街外れだと思うところにひっぞりと佇んでいた。
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