異端の調合師 ~仲間のおかげで山あり谷あり激しすぎぃ~

こたつぬこ

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第二章

2-35 古書店

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 辺りにお店はいくつか存在しているのだが、人通りが少ないためにお客さんがまばらである。
 そんな中エリア古書店は、一際閑散とした雰囲気を醸していた。

 貴族においていえば識字率はそこそこに高い。
 一般の人は生活に必要な簡易な読み書きは教会や学校で教わることにはなるが、本を読むとなったらまた別物なのだ。
 それも古書となると、難しい言葉が使われていることも多いと聞く。
 コーラム家にも何冊かそういったものがあったが、おそらく人一倍本を読む俺でも読むのが大変だと思うくらいの代物もあった。

 なら、誰一人として訪れないというのも分かるような気がする。
 小さい店だがどうやってやっていくのだろう? とは思うところだが。

「こんにちは~」

 ドアを開けるとカランカランと鳴子がなり、俺は嫌いじゃない雰囲気が流れていく。
 それに香る本の匂いがコーラム家の書庫が思い出され、何となく懐かしい気持ちになれる。

「ようこそ。………何してる?」

 俺がすぅはぁと大きく息を吸っていると、いつのまにか隣に女の子が立っていた。
 艶のある薄水色の髪がショートカットで内に巻いている。
 髪の毛とお揃いの何処か感情の希薄な水色の双眸が、俺の瞳孔を見据えていた。

「あはは……。本の良い匂いがするなぁと思ってさ。懐かしくてついつい」

「ふーん。そ。何しに来たの……?」

「ええと……。これを渡されたんだけど……。って、本屋に来たんだから本を求めに来たに決まってるよ」

 と、ローシェさんから受け取った紙切れを見せながらも、横目で入り口側の棚の小さなバスケットにその紙が何枚も入っているのが見えていた。
 ということは、この紙はローシェさんが特別親しくて貰ったものではないということだ。
 女の子は紙切れを横にしたり縦にしたり、裏返したりした後に俺につき返してきた。

「ローシェ。ローシェって……だれ?」

「図書館にいる、薄茶色の髪で眼鏡をかけた男の人だけど?」

「……………………あ! あの銀ぶち眼鏡。あなた、本、欲しいの? 見えない」

 首を捻りながらじっくり思い出した後出てきたのは、確かに特徴的な銀ぶち眼鏡。
 少々可哀想だとは思うが仕方がない。
 他に特徴と言えば、見た目落ち着いているのに若干軽薄な性格ってとこしか思い当たらない。

 それより俺が本を読むようには見えないと言われたことが心外だ。
 別に知的だとか言われたことはないけれど、頭悪そうとも言われたことはない。

「君は……エリア?は本が似合ってるような気がするよ。俺も結構似合ってない?」

「エリアは私のおばあちゃん。私、アトレール。今はお店番してるだけ。本は好きだけど」

 言いながら俺の顔をじっと覗き込んでくる。身長は俺より少し高いくらいなので、年齢も俺より高いだろう。
 まぁ顔立ちは幼く見えるような気がするけど。
 比べるとあれだけど、俺より年下のフランシスよりも。

「ふ、ん。確かに、似合ってるかも。地味な感じが」

「し、失礼だね! そういう意味で言ったんじゃないんだけど!」

「ふふ。冗談。可愛い顔してる。何の本が欲しいの?」

 笑う時に目が細まり、初めて人間らしい感情が見えた気がした。
 といっても、かなり穏やかな物。お人形さんのようだというのがぴったりといえる。
 俺が実際に見たことがあるのはニチェリア姉さんが持っていた作りの荒い物。
 それと比べてしまうと可愛そうな気がしたが。

「調合書が欲しいんだ。アトレールに分かる?」

「ん……。だいじょぶ」

 そういってアトレールはトコトコと歩いていく。当然俺もその後に続く。

 が。

 突然、止まったのでぶつかりそうになってしまった。

「おぉ!? なに、どしたの?」

「私、名前言った。あなた名乗ってない。おかしい」

 確かにそうだった。
 名前は最初に名乗りなさいと父上に結構言われていたが、コーラム領内でその習慣を発揮することはなかったのでまだ身に付いていないようだ。
 加えて、名前がディルという寂しい名前になってしまったというのもある。
 それはなんとなく慣れてきたような気がするけれど。

「俺の名前はディル。ええと、12歳……だよ」

 俺がそう言うと小さな胸を張りドヤ顔を浮かべた。

「私、16歳。あなたよりお姉さん。だから呼び捨ては駄目」

「じゅうろ……!? そんなに……」

「なに?」

「あ、いや、なんでも、あはははは」

 年上だろうとは思っていたけれど、精々が1、2個と思っていた。それが4歳も上だなんて……。
 それに俺が呼び捨てしたのを気にしたってことか。

「ディル、なんだか失礼。案内しないよ?」

「あ、あー! ごめん、アトレール……さん!」

「ふふ。よろしい」

 アトレールさんは満足げな顔を浮かべ俺の鼻をピンとつつくと、再度店の奥へと向かって歩き始めた。
 なんだか調子が狂うな、そんなことを思いながら俺はその後に続いていく。

 しっかし狭い店内だがところ狭しと本棚に本が並べられていて、見ているだけで気持ちが弾む。
 リンリアの歴史と書かれた本や、冒険者の心得なんかが特に興味を引く。

 しばらく探し、高い踏み台を用意してアトレールさんは上から二段目から一冊の本を取り出した。
 すすけた表紙で割と薄めの本。

「ごめん。多分、調合の本これしかない。前はもっとあったような気がしたんだけど」

「あーいいよ。なんか王都にどうとかとかローシェさんが言ってたな。目的の物が書いてあると良いんだけどね」

「どだろ。……あ!」

 お約束……というやつなのだろうか?
 アトレールさんが体勢を崩し踏み台からこけそうになっている。
 そしてひっかかった本が俺に向かって大量に降り注ごうとしていた。
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