52 / 61
第二章
2-35 古書店
しおりを挟む
辺りにお店はいくつか存在しているのだが、人通りが少ないためにお客さんがまばらである。
そんな中エリア古書店は、一際閑散とした雰囲気を醸していた。
貴族においていえば識字率はそこそこに高い。
一般の人は生活に必要な簡易な読み書きは教会や学校で教わることにはなるが、本を読むとなったらまた別物なのだ。
それも古書となると、難しい言葉が使われていることも多いと聞く。
コーラム家にも何冊かそういったものがあったが、おそらく人一倍本を読む俺でも読むのが大変だと思うくらいの代物もあった。
なら、誰一人として訪れないというのも分かるような気がする。
小さい店だがどうやってやっていくのだろう? とは思うところだが。
「こんにちは~」
ドアを開けるとカランカランと鳴子がなり、俺は嫌いじゃない雰囲気が流れていく。
それに香る本の匂いがコーラム家の書庫が思い出され、何となく懐かしい気持ちになれる。
「ようこそ。………何してる?」
俺がすぅはぁと大きく息を吸っていると、いつのまにか隣に女の子が立っていた。
艶のある薄水色の髪がショートカットで内に巻いている。
髪の毛とお揃いの何処か感情の希薄な水色の双眸が、俺の瞳孔を見据えていた。
「あはは……。本の良い匂いがするなぁと思ってさ。懐かしくてついつい」
「ふーん。そ。何しに来たの……?」
「ええと……。これを渡されたんだけど……。って、本屋に来たんだから本を求めに来たに決まってるよ」
と、ローシェさんから受け取った紙切れを見せながらも、横目で入り口側の棚の小さなバスケットにその紙が何枚も入っているのが見えていた。
ということは、この紙はローシェさんが特別親しくて貰ったものではないということだ。
女の子は紙切れを横にしたり縦にしたり、裏返したりした後に俺につき返してきた。
「ローシェ。ローシェって……だれ?」
「図書館にいる、薄茶色の髪で眼鏡をかけた男の人だけど?」
「……………………あ! あの銀ぶち眼鏡。あなた、本、欲しいの? 見えない」
首を捻りながらじっくり思い出した後出てきたのは、確かに特徴的な銀ぶち眼鏡。
少々可哀想だとは思うが仕方がない。
他に特徴と言えば、見た目落ち着いているのに若干軽薄な性格ってとこしか思い当たらない。
それより俺が本を読むようには見えないと言われたことが心外だ。
別に知的だとか言われたことはないけれど、頭悪そうとも言われたことはない。
「君は……エリア?は本が似合ってるような気がするよ。俺も結構似合ってない?」
「エリアは私のおばあちゃん。私、アトレール。今はお店番してるだけ。本は好きだけど」
言いながら俺の顔をじっと覗き込んでくる。身長は俺より少し高いくらいなので、年齢も俺より高いだろう。
まぁ顔立ちは幼く見えるような気がするけど。
比べるとあれだけど、俺より年下のフランシスよりも。
「ふ、ん。確かに、似合ってるかも。地味な感じが」
「し、失礼だね! そういう意味で言ったんじゃないんだけど!」
「ふふ。冗談。可愛い顔してる。何の本が欲しいの?」
笑う時に目が細まり、初めて人間らしい感情が見えた気がした。
といっても、かなり穏やかな物。お人形さんのようだというのがぴったりといえる。
俺が実際に見たことがあるのはニチェリア姉さんが持っていた作りの荒い物。
それと比べてしまうと可愛そうな気がしたが。
「調合書が欲しいんだ。アトレールに分かる?」
「ん……。だいじょぶ」
そういってアトレールはトコトコと歩いていく。当然俺もその後に続く。
が。
突然、止まったのでぶつかりそうになってしまった。
「おぉ!? なに、どしたの?」
「私、名前言った。あなた名乗ってない。おかしい」
確かにそうだった。
名前は最初に名乗りなさいと父上に結構言われていたが、コーラム領内でその習慣を発揮することはなかったのでまだ身に付いていないようだ。
加えて、名前がディルという寂しい名前になってしまったというのもある。
それはなんとなく慣れてきたような気がするけれど。
「俺の名前はディル。ええと、12歳……だよ」
俺がそう言うと小さな胸を張りドヤ顔を浮かべた。
「私、16歳。あなたよりお姉さん。だから呼び捨ては駄目」
「じゅうろ……!? そんなに……」
「なに?」
「あ、いや、なんでも、あはははは」
年上だろうとは思っていたけれど、精々が1、2個と思っていた。それが4歳も上だなんて……。
それに俺が呼び捨てしたのを気にしたってことか。
「ディル、なんだか失礼。案内しないよ?」
「あ、あー! ごめん、アトレール……さん!」
「ふふ。よろしい」
アトレールさんは満足げな顔を浮かべ俺の鼻をピンとつつくと、再度店の奥へと向かって歩き始めた。
なんだか調子が狂うな、そんなことを思いながら俺はその後に続いていく。
しっかし狭い店内だがところ狭しと本棚に本が並べられていて、見ているだけで気持ちが弾む。
リンリアの歴史と書かれた本や、冒険者の心得なんかが特に興味を引く。
しばらく探し、高い踏み台を用意してアトレールさんは上から二段目から一冊の本を取り出した。
すすけた表紙で割と薄めの本。
「ごめん。多分、調合の本これしかない。前はもっとあったような気がしたんだけど」
「あーいいよ。なんか王都にどうとかとかローシェさんが言ってたな。目的の物が書いてあると良いんだけどね」
「どだろ。……あ!」
お約束……というやつなのだろうか?
アトレールさんが体勢を崩し踏み台からこけそうになっている。
そしてひっかかった本が俺に向かって大量に降り注ごうとしていた。
そんな中エリア古書店は、一際閑散とした雰囲気を醸していた。
貴族においていえば識字率はそこそこに高い。
一般の人は生活に必要な簡易な読み書きは教会や学校で教わることにはなるが、本を読むとなったらまた別物なのだ。
それも古書となると、難しい言葉が使われていることも多いと聞く。
コーラム家にも何冊かそういったものがあったが、おそらく人一倍本を読む俺でも読むのが大変だと思うくらいの代物もあった。
なら、誰一人として訪れないというのも分かるような気がする。
小さい店だがどうやってやっていくのだろう? とは思うところだが。
「こんにちは~」
ドアを開けるとカランカランと鳴子がなり、俺は嫌いじゃない雰囲気が流れていく。
それに香る本の匂いがコーラム家の書庫が思い出され、何となく懐かしい気持ちになれる。
「ようこそ。………何してる?」
俺がすぅはぁと大きく息を吸っていると、いつのまにか隣に女の子が立っていた。
艶のある薄水色の髪がショートカットで内に巻いている。
髪の毛とお揃いの何処か感情の希薄な水色の双眸が、俺の瞳孔を見据えていた。
「あはは……。本の良い匂いがするなぁと思ってさ。懐かしくてついつい」
「ふーん。そ。何しに来たの……?」
「ええと……。これを渡されたんだけど……。って、本屋に来たんだから本を求めに来たに決まってるよ」
と、ローシェさんから受け取った紙切れを見せながらも、横目で入り口側の棚の小さなバスケットにその紙が何枚も入っているのが見えていた。
ということは、この紙はローシェさんが特別親しくて貰ったものではないということだ。
女の子は紙切れを横にしたり縦にしたり、裏返したりした後に俺につき返してきた。
「ローシェ。ローシェって……だれ?」
「図書館にいる、薄茶色の髪で眼鏡をかけた男の人だけど?」
「……………………あ! あの銀ぶち眼鏡。あなた、本、欲しいの? 見えない」
首を捻りながらじっくり思い出した後出てきたのは、確かに特徴的な銀ぶち眼鏡。
少々可哀想だとは思うが仕方がない。
他に特徴と言えば、見た目落ち着いているのに若干軽薄な性格ってとこしか思い当たらない。
それより俺が本を読むようには見えないと言われたことが心外だ。
別に知的だとか言われたことはないけれど、頭悪そうとも言われたことはない。
「君は……エリア?は本が似合ってるような気がするよ。俺も結構似合ってない?」
「エリアは私のおばあちゃん。私、アトレール。今はお店番してるだけ。本は好きだけど」
言いながら俺の顔をじっと覗き込んでくる。身長は俺より少し高いくらいなので、年齢も俺より高いだろう。
まぁ顔立ちは幼く見えるような気がするけど。
比べるとあれだけど、俺より年下のフランシスよりも。
「ふ、ん。確かに、似合ってるかも。地味な感じが」
「し、失礼だね! そういう意味で言ったんじゃないんだけど!」
「ふふ。冗談。可愛い顔してる。何の本が欲しいの?」
笑う時に目が細まり、初めて人間らしい感情が見えた気がした。
といっても、かなり穏やかな物。お人形さんのようだというのがぴったりといえる。
俺が実際に見たことがあるのはニチェリア姉さんが持っていた作りの荒い物。
それと比べてしまうと可愛そうな気がしたが。
「調合書が欲しいんだ。アトレールに分かる?」
「ん……。だいじょぶ」
そういってアトレールはトコトコと歩いていく。当然俺もその後に続く。
が。
突然、止まったのでぶつかりそうになってしまった。
「おぉ!? なに、どしたの?」
「私、名前言った。あなた名乗ってない。おかしい」
確かにそうだった。
名前は最初に名乗りなさいと父上に結構言われていたが、コーラム領内でその習慣を発揮することはなかったのでまだ身に付いていないようだ。
加えて、名前がディルという寂しい名前になってしまったというのもある。
それはなんとなく慣れてきたような気がするけれど。
「俺の名前はディル。ええと、12歳……だよ」
俺がそう言うと小さな胸を張りドヤ顔を浮かべた。
「私、16歳。あなたよりお姉さん。だから呼び捨ては駄目」
「じゅうろ……!? そんなに……」
「なに?」
「あ、いや、なんでも、あはははは」
年上だろうとは思っていたけれど、精々が1、2個と思っていた。それが4歳も上だなんて……。
それに俺が呼び捨てしたのを気にしたってことか。
「ディル、なんだか失礼。案内しないよ?」
「あ、あー! ごめん、アトレール……さん!」
「ふふ。よろしい」
アトレールさんは満足げな顔を浮かべ俺の鼻をピンとつつくと、再度店の奥へと向かって歩き始めた。
なんだか調子が狂うな、そんなことを思いながら俺はその後に続いていく。
しっかし狭い店内だがところ狭しと本棚に本が並べられていて、見ているだけで気持ちが弾む。
リンリアの歴史と書かれた本や、冒険者の心得なんかが特に興味を引く。
しばらく探し、高い踏み台を用意してアトレールさんは上から二段目から一冊の本を取り出した。
すすけた表紙で割と薄めの本。
「ごめん。多分、調合の本これしかない。前はもっとあったような気がしたんだけど」
「あーいいよ。なんか王都にどうとかとかローシェさんが言ってたな。目的の物が書いてあると良いんだけどね」
「どだろ。……あ!」
お約束……というやつなのだろうか?
アトレールさんが体勢を崩し踏み台からこけそうになっている。
そしてひっかかった本が俺に向かって大量に降り注ごうとしていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる