心無いブリキ~セツナイ紙飛行機~

桜薫

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ヒミツと夜の大決戦

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とあるマンションの一室――
「そろそろ起きろ、もう時間だぞ」
 何度起こしても起きないので、少し悪いかなと思いつつ掛けてある布団を強引に引きはがす。現れたのは色々と露出してしまっている女性の寝姿。
「はぁ、全く。相変わらずこんな格好をして。起きろ、そして着替えろ」
 既に見慣れているので特段同様したりする事は無いのだが。「目のやり場に困る」みたいな反応が正しいのだろうか?
「起きろって、今日は休みだ。まだ寝てても良いだろう」
 返事は返したがまだ完全に覚醒していないらしい。どうやら忘れているようだ。
「お前が今日は用事があるから起こせと言ったんだろう。俺も今日は用があってそろそろ出なきゃならない。早く起きてくれ」
「もっと優しく起こせないのか? おはようのキスとか」
 やれやれまだ寝ぼけているようだ。それとも起きていて冗談でも言っているのか? 
「して良かったなら遠慮無くしたんだがな。お前がそんな乙女趣味だとは思わなかったよ」
「私がお姫様なのもお前が王子様なのも似合わんだろう。水をくれ」
 冷蔵庫からペットボトルを出して投げる。水の他にはビールを初め酒類しか入ってない。ミ○トさんでもこれにレトルト食品とつまみ類が入ってたぞ。
「サンキュー。私はもういいわ。用があるなら行きなさい。私もすぐ出なきゃなんないし」
「じゃあ俺はもう行くぞ。ちゃんと身支度整えて出ろよ」
 流石にこのまま外に出るなんて事は無いと思うが、下手すると警察沙汰になりかねん。何よりこの姿を他人に見せたく無い。
「アンタが休日に出かけるなんて珍しいわね。友達でも出来たの?」
「面倒な年になりそうだよ、全く」
 不意に訪ねられた質問に対して生徒会のメンバーを思い出しながら答える。今までも智也の所になら行ってたんだがな。
「今日もこっちに帰って来なさいよ。久々にご飯でも一緒にさ」
「ああ。了解」
 二度寝せずにベットから出て支度し始めたのを確認して部屋を出る。今日は先日決定した歓迎会。面倒だが、セツナと静相手では分が悪い。行かないわけには行かないか。



 どうもマンションを出るのが予定より遅れてしまったらしい。待ち合わせには少し遅れそうだ。
「一応連絡入れとくか。たしか静の連絡先なら入ってたはず」
 ……携帯忘れた。俺も甘いな。詰めが、では無くアイツに対して。どうしても優先してしまうな。間違ってるとも、直そうとも思わないが。それが原因で待ち合わせに遅れたとしても。 仕方が無い。着いたとき急いだとバレん程度に本気を出すか。



 目的の店が見えてきたため、速度を標準にまで落とす。結構飛ばしたのだが遅刻には変わりないようだ。
 事前に知らされていた場所にたどり着き、その店内へと入る。
「遅いぞ」
 店内に入った瞬間セツナからの叱責を受ける。
「悪い。ちょっと出るのが遅れた」
 謝りながら店内を見回すと顔見知りしか居ない。貸し切りにしてくれたのか?
「電話ぐらい出なさいよ。何度か掛けたのよ。心配するじゃない」
「俺もお前に連絡入れようと思ったんだけど、携帯置いてきたみたいでな」
 皆が囲んでいたテーブル席の奥の通路側に座る。
「なんでシズカになんだ? 私でも良いだろう」
「このメンバーだと静の番号しか知らないし」
「私のも今すぐ登録しろ」
「だから携帯忘れたって」
「貴様学校で会った時憶えてろよ」
 携帯を忘れただけで、まるで悪者を成敗したかのようなセリフをはかれる。
「これで終わりじゃないぞ」
「まだなんかあんのかよ!?」
「席だ席! 何故迷いも無くシズカの隣を選んだ?」
「お前の隣には、「一体何連鎖したの?」って言いたくなるようなお邪魔が居るだろうが。それに俺左利きなんだよ。同じ左利きの静の隣じゃ無いと腕ぶつかっちゃうんだよ」
 それに、今日は俺が最後で、空いてる席がここしか無かったのだ。迷う必要など無い。それにしても今日はやけに絡んでくるな。遅れたの怒ってるのか?
「私も左利きだぞ。ほら問題ないじゃないか」
「それは今始めて知った情報だ」
「次からだ。まぁそんな事よりも私を見てなんか言うことは無いか?」
 少し照れくさそうに言う。こうゆう時は大体、髪切ったのを気付いて欲しいとかだ。いつもと違いは分らないがきっとそうだ。
「髪切った? 顔ちっちゃいね~」
 すかさずコークスクリューブローが飛んでくる。
「サングラスじゃなくて、眼帯キャラにしてやろうか?」
 お昼の顔で誤魔化せなかったか。だって見ても何にも分らないんだもん。
「初めて見慣れた制服じゃない姿を見て、ドキッとか無いのかお前は?」
「んな事言っても。見慣れたと言うほどセツナにはあってから日が経ってないし、静の私服はある程度見慣れてるしな」
「その返しは想像出来なかった。ちょっとリアルに泣きそうだ」
 いつもの表情の無い顔ながらも少しだけしゅんとしているのが解る。
「雪那見慣れない服だね。新しいのかい?」
「ああ。ありがとう」
 それに気付き、隣のでくの坊がすかさずフォローに入る。気が利くねぇ。俺には出来ない芸当ですよ本当に。
「騙されちゃダメよアレは同情して貰おうって作戦だから」
「余計な事を言うな。台無しだろう」
 静の助け船にセツナも乗っかってくれたが。今のは俺が悪かったみたいだね。
「今日は歓迎会なんだろ。集まったは良いが何をするんだ?」
「ああ、それに関してはちょっと待ってね。まだ一人ここに来てない人が居るのよ」
「もう一人?」
 最初に役員はここに居るメンバーで全部と聞いていたんだがな。
「生徒会の顧問だ。最初から定時に来るとは思ってなかったがな」
 顧問? そりゃ居るか。一回も生徒会室に来たこと無いような気がするが。
「噂をすれば来たみたいだよ」
 窓から見えたのだろう。そう言ってから少し経って扉が開く。生徒会顧問だと言うからどんな堅物の男がやってくるのかと思ったが、現れたのは女性。しかも美人と言っても差し支えない容姿だ。女性にしては高めの身長に、大胆に開けられた胸元は強くその存在を強調させていてプロポーションは抜群。と言う見慣れた顔だった。
「こちらが生徒会顧問の新堂美鈴(しんどう みすず)先生だ」
「何だ、新しく入ったのってお前だったのか」
 俺の事を軽く確認して俺達が座っているテーブル席の近くのカウンター席に着く。
「あら? 七海と美鈴先生は顔見知りだったの?」
「そう言えばナナミのクラスの担任はミスズだったか。それなら紹介はいらないか」
「あっ、そうだ。お前携帯忘れてたぞ。お互い外に出てるのなら、帰りは合流しようと思っていたのに、どうやって連絡取る気だったんだまったく」
「忘れた原因の半分はお前にもあると思うのだが……まぁいいサンキュ」
 美鈴から投げられた携帯を取ろうとした瞬間、空中で携帯は消え、セツナの手の中にあった。流石コークスクリューブローを日々乱発してるだけあるな。
「ちょっと待て。なんでお前が忘れてきた携帯をミスズが持っている?」
「そんなのソイツが私の家に忘れて行ったからに決まっているだろう」
「ええい黙れミスズ!」
「お前教師に向かってその言い草はどうかと思うぞ」
「何故貴様の家に忘れる!?」
「充電したままにして忘れたんだな」
「それはあれか? お前の家にナナミが来たと言う事か?」
「しょっちゅうだぞ」
「「そんなの聞いてないぞ(わよ)!!」」 
「「言ってないからな」」 
 そう俺と美鈴はこの中で、それこそ静よりも付き合いが長い。家に行くのはしょっちゅうだ。と言うか俺が行かないとろくに飯も食わんからな。
「それで、美鈴先生と七海とはどういった関係なのかしら?」
「お前等の想像道理の関係だ。ガキのおままごととは違うぞ」
 美鈴のカオススイッチが入ったな。美鈴の趣味は人の関係をブチ壊し、場を意味も無く引っかき回す事だ。実に質が悪い。
「シズカ、お得意の胸で勝負したらどうだ?」
「どう見たって私が負けているじゃ無い。会長こそ年上の魅力アピールはどうしたの?」
「あんな大人の色気ムンムンみたいな奴に勝てるか!」
 考えごとをしている内にセツナと静を持ってしても既に押されているようだ。やれやれだまったく。
「その辺にしておけよ美鈴」
「「美鈴!?」」
 女子二人に以上に反応される。そんなにおかしな事だろうか?
「そうだな。まっ、ぶっちゃけ弟みたいなモンだ」
「弟?」
「静」
 静が珍しく少し不安そうな目でこちら見てきたので、目でお前が思っているのとは違うと伝える。
「でも貴方姉弟居なかったはずよね?」
 いつもの様に戻った静が穴探しを初めて来る。
「そうだお前には居ないはずだ……たぶん」
 セツナも疑っているしこれは隠せそうも無いね。隠す気も無いんだけど。念のために美鈴にアイコンタクトを取る。美鈴の目は「好きにしろ」と言っていた。
「美鈴は俺の後見人だ」
 そう美鈴は、身寄りの無い俺をまだ自分も若いと言うのに拾ってくれた変わり者だ。まったくこの借りはどうやっても返せないじゃ無いか。
『後見人……』
 各自受け止めて色々考えているようだが、そんなに気にするような事でも無いんだけどな。
「君に親御さんが居なかったとはね」
「同情とかすんなよ」
「別にしないよ」
 俺の想いを一言で理解して、尚且つ力になれることがあれば協力するよと。顔に書いてある。こちらの状況も分らないのに、分った風な口を聞かれたり、同情されたりするのはゴメンだ。コイツはそれを理解して、同情でも下に見るわけでも無く、側に居てくれるのだ。だからセツナは――
「だからお前はモテるんだろうな」
「君からそんな言葉が聞けるなんてね」
 本人に聞かせる気はないが俺は奴を認めている。認めているし、眩しくて届かないのも解っている。だから気に入らないのだ。
「それより僕と違って二人はそんなに驚いて無いようだけど」
「私はこの子に両親が居ないのも、身寄りの無い子供達の施設出身なのも知っていたから」
「そう言えば同じ中学出身だったね。セツナも知っていたのかい?」
「えっ?いや、私は知らなかった、凄く驚いているぞ。ホントに驚くと言葉が出ないと言う奴だな」
 セツナはイキナリ話を振られて明らかに取り繕って言葉を繋ぐ。まぁ今はまだその時じゃないよな。皆も居るし。
「歓迎会なんだろ? こんな話じゃなくてもっとなんか無いのか?」
 自分の身の上話でこうゆう空気になるのは慣れては居るもののやはり耐えがたい物があるので話題を変える事を試みる。
「お前が気を使えるようになるとは……高校に入って成長したな」
 わざとらしく感動したそぶりを見せる美鈴。この原因の半分もお前だ。
「そうだねじゃあ逆に君が皆に聞きたい事は無いかな?」
 ここは受けを狙った方が良いのだろうか?俺のキャラじゃないんだがしょうが無い。
「今日の下着の色は?」
「私はナナミの好きそうな縞パンだ。お前の為にわざわざ買ったんだぞ。好きだろ? 萌えるだろ?」
「私は貴方の好きな白のよ。私は黒とかよりもこうゆう清楚なのがギャップで良いんでしょう?」
「私は……起きた時に見たから言わんでもいいか」
 皆さん正直に言うのね。後、俺の好みを勝手に決めんでください。
「ミスズ、起きた時見たってなんだ!?」
「それは一体どういう事なのかしらねぇ?」
「そのまんまの意味に決まっているだろう」
「「この淫乱教師!!」」
 美鈴はまた楽しんでるよ。まぁ空気戻ったからほっとくけど。
「今日やらなきゃいけない事とか、連絡事項とか無かったのかよ」
「今日は特にないよ。君はかなり仕事が出来るからね。君が入ってから戦力は随分アップしたよ」
「お褒め頂いて光栄ですよっと」
「そんな事よりキミあれ止めてきてよ」
 三人寄ればかしましい(?)三人の美女を指してインポッシブルなミッションを告げられる。
「嫌だよ。と言うか俺には無理だ」
「キミなら簡単な事だろう?」
「出資者は無理難題をおっしゃる……」
 俺はここに居る人間には常々勝てないと思っているというのに。
「じゃあ諦めて待機だね。何か頼むかい?」
 その後不毛な戦いは永遠に続くかと思っていたがそれもすぐに終わり、その後ガールズトーク(?)に花を咲かせていた。
「さて、そろそろお開きの時間だな?」
 話が一段落したのか腕時計を見ながら美鈴が言う。
「そうねそろそろ良い時間ね」
「お前等二人は――まだ日も長いし送らなくて大丈夫だな?それとも野郎二人を付けるか?」
 まだ夕暮れ時だ心配は無いだろうが、どっちにしろ俺達と静は同じ方向だし、二人は幼馴染みと言うからには家が近いのだろう。
「いや、大丈夫だ。心配いらないよ」
「そうか……じゃあ七海夕飯どうする? 折角外にいるしこのままどっか行くか、それとも買い物してから帰るか?」
「どっちでも良いな。お前は?」
「うーんそうだな……」
 帰り支度をしている皆を余所に、俺と美鈴は今後の取る行動の方針決めをする。
「ちょっと待て。何だその会話?」
「二人はこれから仲良くお食事に行くのかしら?」
「今日は朝からそのつもりで行動していたが、何か問題か?」
「「問題だ(よ)!!」」
「教師が一生徒と必要以上に親密になるのは問題だろう?」
「私は公私混同はしないタイプだ。仕事とプライベートはキッチリ分ける。九分九厘、『私』の状態でな」
「年の離れた男の子を家に上げるのは問題じゃないかしら? 帰りも遅くなると危ないし」
「明日も休みだし私はてっきり泊まっていく物だと思っていたが」
 なんだか二人は美鈴の回答に衝撃を受けているようだ。次なる打開策を必死に考えている。そして二人で目を合わせ頷き合う。
「「断固阻止。私達も御一緒するわ」」
「別に構わんが、遅くなっても良いように親御さんには連絡しておけよ」
「「えっ良いの!?」」
「だから連絡しろよ」
「「私は大丈夫」」
「市川は?」
「僕も大丈夫ですけど」
 なんだか二人の大丈夫とは違うニュアンスの気がするな。いや、二人が違うのか。まぁどっちの事情も何となく知っている俺としては深く追求しないが。
「さてイキナリ人数が倍以上に増えたが……ずっと黙っていたって事は何か考えてたんだろう?」
 特に自分で考えずに俺に振る美鈴。話がこうなりそうだったから考えてはいたんだが。
「そうだな……久しぶりに智也の所に行くか」
「……そうだな園長もたまには遊びに来いと毎日の様に言ってくるしな」
 少し考えて肯定した美鈴に対して、他は何一つ理解していない様子。まぁそうだろう、大人数で夕食を取ろうと言う時にクラスメイト、しかも男の名前が出たのだから。
「おいナナミそれはお前の友人か? イキナリ押しかけて迷惑じゃないか?」
「大丈夫だろう。あそこは食材だけ持って行けば後は適当な料理が出てくるだろう」
「そうじゃなくて、親御さんは大丈夫なのかい?」
「泣いて喜ぶんじゃないか? お前等三年には大学に推薦してくれるかもな」
 二人の問いに美鈴と共に答える。それでもまだ疑問符を浮かべているようだ。
「……ねぇ会長。会長は料理とか出来る方かしら?」
「ん? まぁ人並み程度かな」
「そう……可愛い後輩の七海にお弁当を作ってあげたりとかは?」
「無いが……どうしたのだ?」
「会長、いずれ分る事でしょうけど一つだけアドバイスを、最大の敵はどんな美人でも、可愛い子でも無く『彼』なのよ……」
 智也の事を知っている静だけが遠くを見ていた。大丈夫だと思うが、一応連絡入れておくか。そうだ茜にも連絡してやろう。



 適当にスーパーで買い物を済ませた後、智也の家に向かう。それで今目的地である家の前なのだが……
「なんだコレ?」
「武家屋敷? 侍でも住んでいるのかい?」
「いやむしろ、魔法使いとかサーヴ○ントが住んでるんじゃないか?」
 まぁ初見の人は驚くか。趣味で造ったため実は新しい武家屋敷風民家。敷地は広く、屋敷は大きい。現在二人しか住んでないのにな。
「とっとと入るぞ」
 美鈴が玄関の扉を開ける。
「ちょっと七海。呼んで置いて本人が居ないってどういう事――うわ生徒会オールスター」
 気配に気付き出て来たのだろうか? 俺に文句を言ってる途中で予想外の事態を発見する茜。まぁ『智也の家に来い』とだけメールしただけだしな。
「まさかまた二人が何か悪さを? 生徒会のガサ入れ!?」
「またって何だ? そして俺も今は生徒会役員だ」
「玄関で騒いでないで中で話したらどうだ……ってこれはお客さんいっぱいだな」
 騒ぎを聞きつけて来たのか、普段とは違って中に入ってこないのを不審に思ったのか、智也も出てくる。
「説明貰って良いか?」
「取りあえず中で落ち着いて」
 全員お茶の間として使っている部屋へ集まって貰い大まかな説明をする。殆ど何も伝えてないが、説明するような内容もたいして無いし。
「静先輩お久しぶりです。美鈴さ――先生も遊びに来るはご無沙汰ですね。会長と副会長は初めましてですね」
 茜は早速自己紹介を始めている。順応が早いと言うか、ココの家に関わると大抵の事は気にならなくなるのかな?
「僕はもう副会長では無いんだけど……これは早めに生徒に伝えなければならないね」
「私は会長だが、貴様は何だ? 静の後輩か?」
「えーと、そうですね静先輩は中学の先輩で……」
「つまり貴様はナナミのなんだ?」
「……成る程! 大丈夫ですよ会長さん。私、先輩や会長を敵に回すほど命知らずじゃないですから」
「そうか。いや別になんでも良いんだがな」
 そして茜は「でも」と言ってからセツナに耳打ちをしたが、なんて言ったかは聞き取れなかった。
「でも、七海の魅力、良いところは解ってるつもりですよ」
「! 私だって知ってるつもりだ……」
 結構動揺してるけど一体何を言われたんだ? 別に大して気にならないけど。
「智也、ほれ材料」
「コレは一体何を作ろうと思って買ってきたんだ?」
「それはお前が考えることだろう」
 こっちは適当に食材をカゴに入れただけだ。何が出来るかはお楽しみと言うやつだな。
「取りあえず先につまみを軽く作ってくれ」
「うわぁ、美鈴ねぇもう飲んでるの?」
「園長居ないし。待っててもしょうが無いしな」
「たぶんもうちょっとで帰ると思うけど……メニューは取りあえず美鈴ねぇのつまみでも作りながら考えるか」
「何か手伝う事はあるかい?」
「先輩料理出来るんですか?」
「人並み程度だよ。邪魔になるようなら止めておくけど」
「大神、ソイツに出来んことなど基本無いぞ」
 智也だけにやらせておくのは悪いと思ったのか、生徒会の良心が申し出る。どうやら会長のお墨付きの様だ。完璧な二人はさすがだね。
「じゃあお手伝いお願いできますか?」
「喜んで」
「智也みたいのなら婿に欲しいな。園長がああなる訳だ」
「悪かったな。料理を初め、家事全般出来なくて。だから最初に俺はハズレだと言っただろう」
「お前は男共の中に混ざらんのか?」
「俺は出来損ないなんで、女子にモテるようなスキルは無いんだよ」
 セツナの問いにはこう答えるしか無い。俺には皆を満足させる料理は作れないしな。どうやら俺はここに居てもしょうが無いようだな。
「智也、料理が出来るまで時間掛かるのか?」
「そうだね。この人数だし、少し掛かるかもね」
 成る程。メチャクチャ待たされるわけね。なら、久しぶりに行くか。
 俺はある程度気付かれないように皆が集まってる部屋の席を立った。



「なぁ、ナナミは何処へ行ったんだ?」
「居ないなら道場じゃないですか?」
「道場?」
「はい。家から――この母屋から出て右側に道場があるんですよ。たぶんそこに居るんじゃないかと」
「会長さんなら是非見に行った方が良いですよ」
「何かやってるのか?」         
「見たらきっと惚れちゃいますよ」



 精神を集中させる。完全な無へと。常にそうだったはずなんだかな。最近はやけに乱されがちだ。いつもより少し時間が掛かったか……余計な事を考えずに始めよう。
「――ハアアァッ」
 集中させた神経を刃の様に一点に集め虚空を斬る。遅れて着いてくる空を斬った音。そして木の割れる音。その後、手に有った重さが無くなった。少し甘くなっているか。久しぶりだと言う事で言い訳しておこう。
「凄いな。何だ今のは?」
 道場の入り口から声を掛けられる。やれやれ本当に鈍ってるね。普通は人が来れば解るんだがな。
「何なのか分らないのに凄いのか?」
「意地悪だな。普通の素振りでは木刀は割れないだろう」
「前に愛用の奴無くしたからな。それなら壊れないんだが、慣れないのだとこうなる」
「まぁ何をやっていたのかは分らないが、格好良かったぞ」
「惚れたか?」
「これはたぶん私じゃなくても惚れるんじゃ無いのか?こんなの持ってるなんてズルイだろ」
 そのセリフ俺はどう受け取ったら良いんだ? 俺から言わせればアンタの方がよっぽどズルイと思うんだがな。
「頼めばもう一度見せてくれるか?」
「無理だな」
「お前は本当に意地悪だな」
 少し甘えたように言ってくる。何それ? 必殺技? まさかウチの会長様が『上目遣い』のアビリティを憶えているなんて。それでも見せられないんだけどさ。
「意地悪じゃなくて。無理なんだよ。身体が持たん」
 そこで俺は息を吐いて完全に身体に終わりを伝える。突如として汗が噴き出し、身体は重くなる。
「コレ全力以上で身体を動かす鍛錬なんだよ。言うなら界○拳。あるいわ身体だけ精神○時の部屋。だから一回が限界」
「良く解らないがメチャクチャ疲れると言う事だな。取りあえず汗拭いたらどうだ?」
「このままシャワー浴びてくる。一緒に入るか?」
「お前さっきからちょっと軽いな。どうしたんだ?」
「コレの後はめっちゃ疲れるし、頭一回ゼロにしてから起動し直すからだろ」
「前に眠いと言っていた時も甘えてきたな」
「それは憶えていないが、本当なら失態だな。まぁ俺は風呂入ってくるわ」
「聞いておいて答えを聞いていかないのか?」
「アンタも最近随分冗談を言うようになったな」
 俺は言葉を少し間違えたな。と思いつつ道場を後にした。アレは人に見せる物じゃないしね。



「まだかよ智也?」
「もう少しだ。それにまだ星佳さん来てないだろう」
 稽古を終えて汗を流してきた言うのに、どうやらまだ食事は完成していないらしい。女性陣は何やら入りづらい会話をしているし、俺を除く男性陣は料理の仕上げ。そして約一名はもうすでに始めていると言った所か。つまり手持ち無沙汰だ。鍛錬は予定より早く切り上げてしまったからな。
「ただいま~。おっ、今日はお客さんいっぱい来てるのかな?」
「大神誰か来たようだぞ」
「この声は園長だな」
「園長? さっきから美鈴が言ってる園長とは誰なんだ?」
「星佳さんの事ですよ。この家の今の主です」
「つまり大神の親御さんと言う事か?」
 この家の事情を知らないセツナが智也に問う。智也の口から答えが出る前にその主はやってきた。
「美鈴ちゃん久しぶり、ってもう始めちゃってるの? 待っててくれてもいいのに~。七海ちゃんもすっごい久しぶりだよ~」
「「毎日学校で会っているだろう」」
 イキナリのハイテンションに美鈴とハモってしまう。
「お帰り星佳さん。丁度出来上がったしご飯にしましょうか」
 料理を作っていた二人が、出来上がった物を持ってきて並べる。
「今日は珍しいお客さんも居るんだね。雪那ちゃんと俊幸くんが来てくれるなんて私は感激だよ」
「「園長って学園長の事だったのか!?」」
「なんだセツナ達も星佳の事知っていたのか」
「私は仮にも生徒会長だぞ。学園長を知らないわけがないだろう」
 そう。この帰宅直後からハイテンションな人、この家の主は、ここに居る全員が通っている学園の学園長だったりする。
「学園長だから園長と呼んでいたんだね。気付かなかったよ」
「それは違うぞ市川。学園長は私等の居た児童施設の園長だったから園長と呼んでるに過ぎん」
「そうだよ~私は皆のお母さんだったりするのです」
 と年齢不詳のビッグマザーが言う。見た目だけで言えばここに居る中で一番若く見えるのにな。喩えるなら学園都市に居るアノ先生だ。
「私は七海、それに大神君の事はある程度知っていたけど、美鈴先生までとは驚きだわ」
「私達はガキの頃から一緒だよ。まっ、そんな事より料理が出来たなら始めよう」
「そうだね。久しぶりにお客さんも大勢居るパーティーだよ」
 やれやれ。別に俺達は気にしていないんだがな。まっ、あえて空気悪くするのも嫌だしな。この話はココで終わりだろう。



「生徒会役員が皆家に来てくれるとはね。まさか智也くん生徒会に厄介にでもなった?」
「皆さんを連れてきたのは俺じゃないですよ。今日は七海です」
「まさか七海ちゃんが家に友達を連れてくる日が来るなんて……」
「人をコミュ障みたいに言うなよ」
『違うの!?』
「全員で!?」
 ここにいるのは、それこそ家族みたいなメンバーと最近学校でずっと一緒の人なのに……まぁ俺はお世辞にも他人が大好きって言える人間じゃあないけどさ。
「でも七海ちゃんも大分変わってきたよね。表情が豊かになったよ」
「そう言えばそうよね。中学時代よりも高校に入ってから……と言うより生徒会に入ってから凄い変わりようよね。会長の御陰かしら?」
 まぁ確かにセツナとついでのオマケに主導権奪われがちな気がするな。俺ではどうやっても勝てる気がしない。
「私から言わせれば、静先輩に会ってから大分変わったと思いますけど」
 静は依存しているからな。――お互いに。
「それを言えばお前にガキの頃に会ってから少しはマシになったがな」
 本人には言わんが、茜にはなんやかんや感謝してる。自分でも言うのもなんだが、こんなのによく愛想尽かさないもんだ。
「そう言われると施設に来た頃に比べるとすっごい変化だなお前」
「自分では変わったつもりはないんだがな」
「まぁ場所が場所だけに色々と抱えてる子も居たけど、七海ちゃんは中でも特に酷い経緯でウチに来たからね」
「そんなもん人それぞれだろ? 俺は別に自分が世界で一番不幸とか思ってないしな」
「でも施設のガキ共ともあまり関わろうとはしなかったな。身寄りないガキ同士仲良くなるモンだが」
『て言うか、人嫌いだよね』
 また全員攻撃かよ。
「俺にとっちゃ人なんて関わってもすぐ居なくなっちまうモンだからな。それが嫌で避けてるのかもな。現に施設も無くなったし」
「でも、智也くんとか美鈴ちゃんとは今でも一緒じゃない」
「解ってるんだけどさ。なんて言うか、防御本能的なので避けっちまうらしい。やっぱり人が嫌いなのかもな」
 俺がそう言うと、全員顔を曇らせる。皆何を考えてるか知らないが、俺もそうだけど、コイツ等全員何かしら抱えてるよな。たぶん俺が思う同様、向こうも同じ様に気づいているのだろう。同じ傷を持った相手だと言うことを。同じ傷を持つ者として。
「まっ、興味あるなら互いに傷をほじくり合うなり、舐め合うなりすればいいさ。今は飯を食おうぜ」
「そうだね。智也くんのご飯は美味しいからね。皆で食べよー」
 お互いに気を遣い合い場を和ませる。そこからの食事は少し不器用なかもしれないが、久しぶりに楽しい物だった気がした。



 さて、夕食も終わり結構いい時間になって大人の見本である教師の二人は潰れてしまった訳だが……
「一応男手は足りているか。さすがにこの時間に女の子を一人で帰す訳にはいかんからな」
「そうゆう所は気が利くんだなお前」
「逆にこの子そこだけはしっかりしてるわよ」
「美鈴はここに置いておくとして、ペアは……最初から決まっているか。静は残念。ハズレで申し訳ないが俺だ。後のツーペアは帰り道でイチャつくなり、送り狼になるなり好きにしてくれ」
「別に私は貴方がハズレなんて思ってないわよ。お邪魔になるのも嫌だし。貴方なら最悪襲われても大抵の相手なら返り討ちでしょうからね」
「ちょっと待て。何でシズカとナナミペアで決定している?」
「「消去法?」」
 今、俺と静の考えは完全にシンクロしているはず。この面子ではどう見ても最初からペアができているのだ。残り物である俺になってしまった静には申し訳ないが、このペアの間に入って、シャッフルし直すほど、俺も静も歪んでなど居ない。茜のことは静も知ってるしな。
「私はコイツと仲良く帰るなど嫌だぞ」
「何も言ってないのに自覚あるじゃ無いですか会長」
「ち、これは――」
「皆今日は泊まっていけば良いんですよー」
 お子様が酔っ払ってなんか言ってきた。
「今日はもう遅いですし。明日はお休みですし。部屋はたくさんありますし。今日は皆でお泊まりです」
「いや、学園長さすがにそれはご迷惑かと……」
「大丈夫ですよ。星佳さんもこう言ってますし、部屋もちゃんとありますよ。勿論皆さんに問題が無ければですけど」
 茜を除いて全員が困惑しているようだ。まぁ確かに、後輩の男子の家にイキナリ泊まる事になった。いつも通う学校の学園長の家にイキナリ泊まる事になった。どちらもさぞ困惑する事だろう。しかもそれら二つは今イコールで結ばれている。答えを出すヒントぐらいは出すか。
「こうしよう。問題無いやつはこのまま此処に泊まる。問題のあるやつは俺が送っていこうそれでいいな? 星佳は無理矢理泊めるとか言うなよ」
「えぇー」
「シズカここは公平にお互いお世話になると言うことでどうだ?」
「そうね。考えようによればチャンスだしね」
「これは僕だけ帰るわけにもいかないかな。大神君お世話になってもいいかい?」
「勿論です。俺は部屋の支度をしてきますね」
「じゃあ私は先輩方とレッツ入浴です! その美肌の秘訣教えて貰いますよー」
「僕も支度を手伝うよ」
「ちょい待ち。旦那には悪いが俺に付き合って貰うぜ」
 智也を手伝いに行こうとするのを止める。最初から客間は用意してあるわけだし、準備など大したことないだろう。
 星佳と美鈴楽しんでいるテーブルから空いてない缶を手に取る。
「飲むかい?」
「いや、そんな自分の身の上話をする魔法少女がリンゴ渡すみたいに言われてもね、僕達未成年だし」
「そうかよ。シラフでする話でも無いと思ってね」
 残念ながら誘いを断られたので、俺は缶を置いて、お茶のペットボトルを二本持って、移動する。
「付き合って。ちょっと静かな場所まで」



 俺はこの家のお気に入りスポット。学校で言う屋上に当たる縁側まで来て腰を下ろして、ペットボトルを投げる。
「どうも。それで何か話しって?」
「ま、面倒くさいから単刀直入に聞くけど、アンタとセツナってどうゆう関係?」
「? 残念ながら恋人同士じゃないから安心して良いよ。さしずめ君や大神君達と同じ幼馴染みって所かな?」
 何を勘違いしてるか知らんが、俺は「高校に入って出会って、お互いに惚れ合って付き合ってます」って言われた方が安心できたよ。
「俺が気になってるのはその『幼馴染み』ってやつだ。具体的には何時から? どうやって? 場所は?」
「それを知って君はどうするんだい?」
 少し俺の語気に焦りがあるのに気づかれたか。少し疑い始めたな……
「別に答えなくてもいい。その義務がアンタにあるわけじゃ無い。只、俺も何も答えない。それで、疑心を抱いてもかまわないし、セツナが危ないと思うなら俺を近づけさせないようにしてもかまわない」
「別にそんな事はしないよ。彼女が連れてきたわけだしね。……少なくとも今は」
「そうかい。じゃあ最後にもう一つ質問だ。これも無理に答えなくてもいいし、嘘を吐いても隠してもいい」
 俺は縁側の柱に背中を預ける様にして立っている、現時点で最強の敵の目をしっかりと自分の目で捕らえて聞く。
「お前セツナの事どこまで知っている?」
 それに対して少し考えてから、俺との目線をそらさないまま答えた。
「彼女には君と同じで身寄りが無いことと、凄く頭が良いとゆう事ぐらいかな。信じるかどうかは好きだけど」
「そうか……俺もまだ100%把握してる訳じゃないんだ。確証が得られたらまた同じ事を聞くよ。その時は答えてもらえると嬉しいんだけどな」
「別に君を信用してないとかじゃないんだけどね。只僕も何も解らないんだよ。僕もできれば彼女の事を救って上げたいんだ」
「……アンタは十分セツナを救っているよ。只……コレは俺が言うことじゃないんだが、あんまりセツナの事は詮索しないで欲しい。そしてもし、全てを知っても、知らなくてもアンタには、アンタにだけは、『清美雪那』と言う一人の女の子として見て上げて欲しいんだ。セツナ自身もそれを望んでると思う。……本当に俺の言う事じゃないな」
「それは君もじゃないのかい?」
「俺には無理なんだよ。アンタと違って自分も光って、他の人も照らしてやるなんて真似はさ。俺に出来るのは、傷を持つ者同士痛みを分かり合うだけさ、そしてそれは決して前には進めない。だからアンタに任せるしかないのさ」
「じゃあ君は一体何を?」
「自分が醜いと思ってる奴にさらに醜い俺の姿を見せて、太陽の下に出ても大丈夫と思わせるだけさ」
「……君は誰よりも強いのかもしれないね」
 出会った瞬間に理解した。コイツは俺の真逆に位置する存在だと。故にお互い多くを語らずに理解するのだろう。
「いや、逆さ。きっと一番弱い。只人並みの感情って奴をどっかに落として来ちまっただけさ。少し話し過ぎっちまったな。部屋の準備も出来ているだろう。もう休め。付き合わせて悪かったな」
「今の事は、互いに時が来るまで忘れておくことにするよ。じゃあ僕は先に休ませて貰うよ。お休み」
 そう言って。優しい先輩に戻って縁側を後にしていった。



 あの無駄話が終わってからどれだけ経っただろうか? 俺は縁側から動かずに只夜が明けるのを待っていた。
「月の位置から見てすでに日付は変わっているか……やれやれまだ夜は長いな」
 酔い潰れて眠ったのだろうか? 二人の声も聞こえなくなった。どうせなら暇つぶしに付き合えばよかったか? 少しは時間を早く過ごせただろうか? 馬鹿馬鹿しい。夜が長いことなど今日に始まったことじゃない。いつもの事じゃないか。それでもいつもより長く感じると言う事はあんな話をした所為だろうか? やれやれつくづく相容れぬ存在だな。こんな事なら智也に長編漫画でも借りておくべきだった。さて、どうやって時間を潰そう――
「やはり眠れないのか?」
 そんな俺の思考と静寂を打ち破る声が掛けられた。
「ほら。ブラックでよかったか? 甘いのが好きなようには見えなかったんでな」
 二つ持ったマグカップの片方を俺に渡して、セツナは俺の隣に座る。
「どうも。知ってたの?」
「前にお前が生徒会室で私を枕にしたときに、シズカが良くある事だと言っていてな。聞けば授業中も寝て過ごして居るようじゃないか。まぁお前からすれば高校の授業などつまらんのだろうけどな。それにしても昼間寝すぎだ。それは夜に眠れないんだろう?」
「正解。授業がつまらないのも、静の膝枕が気持ち良すぎるのも只の言い訳」
「聞き捨てならんのがあるが、今は聞き流してやろう。それでそれは、一般的な精神病か?」
「正解でもあるんだが、その聞き方だとハズレが正解みたいだね。だから答えはNOかな? 心なんて素敵な物持ってないんで」
「だろうな。私もそうだったからな」
「今はもう大丈夫なのか?」
「ああ。ちゃんと眠れる」
「薬無しで?」
「ダー」
 時折ソレ入れてくるな……
「やっぱり凄いね……オタクの旦那」
「旦那じゃないし。アイツは関係無い……と思う」
「俺じゃ勝てないわ」
「奪い取るんじゃ無かったのか?」
「さっきさ、ボロボロにやられちまった」
「また、決闘でもしたのか?」
「んー。俺が一方的に攻撃してんのに、全く効いてない感じ? 力の差を見せつけられてね」
 マグカップを置いて、なんの断りも無くセツナの方に倒れる俺を、何も言わず受け入れてくれた。様するに今膝枕をしてくれている。
「嫌がらないんだな。せめて何をするか聞くとかも無いんだな」
「今私が少しでも拒絶するような素振りを見せたら、お前のフラグが完全に折れて二度と立たない気がしたからな」
「やっぱお前俺の思考読めるの?」
「どうだろな? 試してみるか?」
 膝枕の為、挑戦的なセツナの顔を見上げる形になる。俺はお前が此処に来てから一つの事しか考えていないが……
「素直になるも何も、私はアイツの事など何とも思ってないと言っているだろう」
 1、特質系の能力者 2、ギ○スの持ち主 3、とある島の魔法の桜に願った ……どれだ?
「3がヒロインらしくて良いな。他の二つはどちらも死んでるし」
 何でも良いけど俺の脅威以外の何者でもねぇ。
「話戻していい?」
「あぁ」
「この縁側良いだろ?」
「そうだな。落ち着く場所だな」
「俺、昔ここで正義の味方になるって誓ったんだ」
「へぇー」
「嘘だけどさ」
「なんでそんな誰も信じない、意味の無い嘘を吐く?」
「お前がさっき言った事と同じさ」
 セツナは少し寂しそうに顔を曇らせるとため息を吐く。
「お前が私の事をどう思おうが勝手だがな。余り私の前で口にしないでくれると嬉しい。好きな人に誤解されたままと言うのは、結構辛いよ」
 ……
「……」
「……」
「どうするのこの空気?」
「どうするって、フォローを入れて私を慰めろ」
「無理だよ。むしろこんな時どんな顔すれば良いのか俺に教えて欲しいよ」
「笑えば良いと思うよ?」
「聞かなかった事にしよう」
「じゃあ落ち込んだ私を慰めろ」
「どうやって?」
「仕方無い助け舟を出してやろう。あー月が綺麗だな」
「んー?」
 確かにこの縁側からは月がよく見える。俺は今天を仰いでいる状態なので尚更。
「そこは「君の方が綺麗だね」とか言えないのか!? それとも私はスッポンだと?」
「いや、お前は月だよ。只さ、月って綺麗かなって。太陽の光が無いと自分じゃ光れ無いんだぜ。太陽が居なきゃ真っ暗なままだ。そっくりだろ? 俺も、お前も」
「そうだな。確かに私もお前も月だな。でもな月明かりと言う物も在る。例えそれが人から貰った輝きでも私はきっとお前を照らして見せるぞ」
 だからどうして、こう反則的になるかね。惹かれちまうじゃないか、その先は真っ暗だって解ってても。
「て言うか、お前夜眠れるって事は、眠いって事だろ? 大丈夫か?」
「今日はお前に付き合ってやろうと思ってな。そのためのブラックだ」
「じゃあ残り飲めよ冷めちまう。また新しく入れて来てやるから」
 俺はセツナにマグカップを渡す。その時、念の為常に持ち歩いている薬を混ぜる。錠剤だがホットだし、すぐ溶けるだろう。ソレをセツナは一気に飲み干す。
「薬を混ぜたのは気づいていたが、私も結構耐性あるからと油断した、お前はこんなに強いの使っているのか? これ映画に出てくるようなスパイもイチコロだぞ」
「俺はそれでも、眠れないんだ。悪いな、部屋には運んでやるし、何もしないから安心して眠れ」
「憶え、てろ、よ……」
 目が虚になり、ついに意識を保てなくなったセツナの体を受け止める。悪いな。今日は日が悪い。このままだと俺自身がおかしくなりそうなんでな。勝手にお開きにさせて貰う。 心の中で謝りつつ、俺はセツナを用意された部屋に運んだ。
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