心無いブリキ~セツナイ紙飛行機~

桜薫

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追想

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 屋上のドアを開けると、すでにその姿はあった。俺は深呼吸を一つして、そ
の姿に近づく。
「呼び出しておいて遅刻か? 感心しないな」
「いや、俺は来て欲しかったのか、来ないで欲しかったのか、どっちが良かっ
たのかと思ってね。ほい遅刻したお詫び」
 正直な気持ちの吐露と共に、来る前に立ち寄った購買で買った、紙パックの
苺牛乳を渡す。俺はいつもの指定位置、セツナの隣に座り、コーヒー牛乳にス
トローを差す。
「私もコーヒー牛乳の方が好きなんだか」
「じゃあ換えてやるよ。もう飲んだけど。ホレ」
「まぁ待て。私もこっちを飲んでから……ホレ」
「甘っ。俺甘いのダメなんだよな」
「仕方無いな。換えてやろう。一口飲んだしな」
「なら、最初から換えんなよ」
「いや、なにコレでもう完全無欠の逃げ場の無い間接キスだろう」
「それがしたかっただけ?」
「なんだよその感情の無い目は? もっと喜べよ! 照れて慌てふためけ
よ!」
「いや、お前初対面で普通にキスしたじゃん」
「あれは、頬だろう」
「じゃあちゃんとする? ……もうこうやって仲良くお話するのも最後になる
かも知れないしね」
「で、話って? 聞く限り、随分と楽しい内容のようだが」
 ここでちゃんとするのかよ? じゃあ最初からしててくれ。
「なんだしたかったのか? まぁお預けだがな。いい加減始めよう」
「今日それ禁止な。たぶん今凄いやりやすいと思うから」
 俺は念の為、と言っても俺にはソレを拘束する力は無いのだが、一応ルール
を決めてから、セツナの太ももに頭を預ける。
「ごろん」
「分ってたけどさ、一応了解取れよ」
「手」
「ん?」
「だから手。握って。気づいてない振りするなよ」
「なんだ? 甘えたいのか? 大事な話があるとか言って呼び出しておいて、
仕方の無い奴だ」
「お前さ、静の事嫌いなの?」
 セツナの言葉など無視して単刀直入に、聞く。
「いや、仲悪く見えるかも知れないが、私とシズカは別に――」
「ゴメン。本気で聞いてる」
「本気もなにも」
 俺の言ってる意味が解らない。と言った感じセツナの探るような瞳を、俺は
下から、俺が見えないように指をV字に開いて塞ぐ。
「だから、今はソレは無しだよ」
「お前が何を聞いているのか解らないが、私が答えたところでお前はそれを素
直に信じるのか?」
 セツナは俺から目をそらして、遠くを見ながらそう答える。
「……信じたい」
「貴様の問いの答えになるか分らないが、少し昔話をしようか。と言っても一
年前の話だがな」
 そしてセツナは優しく俺の髪を撫でながら語り始めた。
「お前とシズカの関係がどんな物なのかは知らないがな、去年一年間、つまり
お前と離れていた一年間。シズカは完全に『ダメ』だったよ。お前の予想通り
なのか、それとも何かを期待していたのかは知らないがな。私とシズカが初め
て会ったとき、今の様では無くてな。お前や私と同じような、死人のような目
を……いや、すでに壊れた目をしていたよ。最初は私などでは到底手が付けら
れる様な物では無かった。勿論、俊幸でもな。けど、いやだからこそ、私はシ
ズカを生徒会に入れた。細かい所とプライベートな部分は省いたがこんな所
だ」
 やっぱりダメだったのか。この学校に来て静に再会した時大丈夫かと、思っ
たんだけどな。
「それでお前の質問はなんだったかな? たしか「何故静を書記に置いてい
る?」だったか? 確かに全ての物事を記憶出来る私にとって書記はいらな
い。だからこそシズカを書記にしたんだ。何もしなくて良いように、只、居場
所だけを与える為に。これで答えには満足か?」
 イキナリ上から、自信満々の顔でのぞき込まれる。
「ダメ。っつったのにしっかり読んでるのかよ」
「許せ。私は真意が解らないまま、答えてお前に嫌われたくないのだ。それよ
り私は泣いちゃいそうだ」
 またかよ? て言うか握ってる手の爪立てないで。わざとだろうけど。今日
は俺何もしてないだろ?
「甘えてくれてるのかと思ったら、これ手錠の役割なんだろ? 惚れた女は殴
らんだのなんだの言っておいて、私の答え次第では、お前私を殴るつもりだっ
たんだろ? だから攻撃しにくい態勢をとっていたんだろ?」
 惚れた女のくだりは、いってねぇよ。全部訂正しないけど。
「悪い。僕はまだ、自分を抑えられないんだ」
「心配するな。私が包み込んでやるさ」
 セツナは握っていただけの手を、いわゆる恋人繋ぎ、指と指を絡ませてく
る。
「なぁ? 私達もう、お互いの事、もう気づいてるんだろう?」
「たぶんな……」
「いい加減確かめ合わないか?」
「そう、だな……」
「お前から言ってくれ」
 たぶん最初に会った時から気づいてたんだ。それでも認めたくなくて、必死
で違うという証拠を探し回った。でも、探せば探すほど、あがけばあがくほ
ど、見つかるのはそうだという裏付けで、だからもう諦めよう。俺は諦めてセ
ツナへと言葉を紡ぐ。
「お前、ロボットだろ」
「……あぁ。そうだよ。お前と同じ、な。私達は似てるんじゃなくて、同じな
んだ」
「いつから気づいてた?」
「私は最初から、それこそお前とここで会う前からな。実は学園長から聞いて
たんだ」
「……」
「そう拗ねるな」
 セツナが俺の心の中を勝手に読んで頬を突いてくる。
「一目惚れとか言っておいて、俺がそうだって解ってたから近づいてきたんじ
ゃねぇか」
「それは違う。東条七海の存在は知っては居たが、本当にたまたまここで会っ
て、たまたま一目惚れしたんだ」
 この女は、結構真面目な顔でなに言ってるの? バカなの?
「照れてるのか? うりうり~WRYYYY」
「結構真面目なテンションで話す内容だと思ったんだけど」
「そうでもないだろう。お前はいつから気づいてた?」
「俺も結構最初から。でも、違うって思いたかった。だから探したんだけど、
『幼馴染み』が居るとか結構期待したんだけど。確信はやっぱり俺の思考を読
んだことかな」
「本気で思考が読めているとでも?」
「将棋とかチェスの達人は自分より実力の低い相手と戦う時、駒の動きで相手
の思考が手に取るように解るというだろう」
「それは、その勝負の間。しかも考えている手だろう? 実際考えている事を
詳細に解る訳じゃ無い」
「そう。でも頭の中にコンピューター突っ込んであって、スタンドアローンで
演算を行えるお前なら他人の思考を読める」
「でも――」
「そう。人の思考は電気信号と言っても、それぞれ違う。どんなスーパーコン
ピューターでも完璧に読むのは無理だろう。何より、人なら誰もが持ってる感
情が思考の信号にノイズを走らせる。……でも感情を持って無く、尚且つ同じ
く頭ん中にコンピューターぶち込んでいる俺なら……しかもたぶん、お前は俺
の単純なハイスペック機なのだろうな。ならばそれこそ、コンピューター対戦
の将棋やチェスでレベルの高いのと低いCPU同士で対戦させる様なモノだ。思
考を読むのなど容易だろう」
 言葉を遮って、一気にまくし立てる俺にセツナはもう諦めたようだ。最も最
初から否定する気などなかったのだろう。
「まさかあんな。ネタのようなギャグ会話がここに来て伏線になるとはな。最
もアレはお前が私に読ませやすくしていたのだろう? 相変わらず意地悪な奴
だ」
「悪い。どうしてもお前と俺は違うって証拠を見つけたくてな。でも全部裏目
になった」
「すまない。いや、ありがとう。かな?」
 ロボットっつても敢えて分かり易い様にその言葉を使っただけで、脳の働き
を助けるチップが入ってるだけなんだけどな。だから身体とかは鉄で出来てる
訳じゃなくて、セツナの全てが細い線の中で唯一膨らみのある胸もとても柔ら
かいモノだろう。ん? 確かめてやろうか? 仕方が無いな。
「コークスクリューは使わないつもりでいたんだがな……」
「勝手に読むなって」
「勝手に揉もうとするのは許されるのか? 後、誰に対して言い訳だ」
「別に誰って訳じゃないけど……旦那は、知ってるのか?」
「私からは誰にも言って無い。……言えてない」
「他は知らんが、あの旦那なら大丈夫だと思うけどな」
「私もそう思うけど、やっぱりズルイだろ? 頭の中にコンピューターが入っ
てるなんて、それは百点もとれるさ、嫌だろ? 心を読まれるなんて、何より
気味が悪いだろう……」
「別にさ、お前が伝えるかどうかは自由だからどうでも良いけどさ。もし静の
事が事なら、俺がお前を拒絶しようとしてたんだけどさ。違うなのら、お前が
独りになった時は、俺が一緒に居てやるって決めてたから、お前は独りにはな
んないよ。……俺、だけどね」
「……抱いてくれ」
「へ? 最初が外? まぁここには誰も来ないし大丈夫か。よし」
「バカ。捨てられた子犬の様に震えている私を後ろから抱きしめていてくれと
言ったんだ」
 殴れよ。俺はセツナの太ももから起き上がり、後ろからその小さな身体を抱
きしめる。手は繋いだままだ。
「少し小さいけど、やっぱり暖かいな」
「ねぇ誰と比べて? ねぇ? ちょいちょい比べる止めてくれる? 劣ってい
るのは自分が一番よくわかってるからさぁ。この似たもの夫婦」
「ゴメン。最低だな私は。比べるつもりは無いが、お前は劣ってなどいない
よ。例え劣っていたとしても、私は好きだから安心しろ」
「相変わらずズリィ」
「フフっかわいいな」
「そうだな」
「ん?」
 この返しは予想して居なかったのだろうか、少しだけ面喰らってるセツナを
抱きしめる。
「こんなに柔らかくて、暖かくて、良い匂いがして、スゲー美人で、嫉妬深く
て、たまにスゲー可愛くて、大好きなのに……なんでお前なんだろうな? ゴ
メン。謝ってもしょうが無いけどゴメン」
「何故お前が謝る? お前の所為じゃないだろう?」
「……」
「昔話をしようか。今度こそ本当に昔話だ。ちょっと思い出したく無いことだ
から、もし私が壊れそうになったら抱きしめてくれると嬉し――」
 俺は間髪入れずに思いっきりセツナを抱きしめた。
「まだ、始めて無いぞ」
「もう、ってかさっきからお前壊れそうだったから」
「そうか……」
 俺たちは今、屋上の縁に座り、俺がセツナを後ろから抱きしめて左手を繋
ぎ、右手は身体に回している状態。そのセツナの身体に回して丁度前に来てい
る俺の右手をセツナが撫でる。
「本当に私はお前が一人居てくれれば良いのかも知れんな」
 そして俺の身体に頭を預けて話し始めた。
「私は科学者の家の子供らしい。らしいと言うのは、後から聞いて解った事で
な。私には研究所より前の、頭を弄られる前の記憶はほとんど無いんだ。うろ
憶えだが、その科学者の両親は私が幼い時に事故で亡くした。その時丁度、面
白い実験をやっていてな。人の頭に機械を埋め込んだらどうなるか? 人の頭
脳を遙かに超えた人が出来るのでは無いか? また、その記憶媒体さえ移し替
えれば、身体が老いても永遠に生きられるのでは無いか? という実験だ。身
寄りが無くなった私は、為す術も無く研究所に連れて行かれたよ。この実験は
大人より無駄な思考、そして記憶の少ない子供の方が適していたらしい。だが
実験は失敗に終わったよ。私以外その研究所にいた子供達は皆死んだ。だが私
という一つの成功例にしがみついて研究は続けられたよ。そんな時ちっちゃい
子供の様な科学者がイキナリ来て、研究所をぶっ壊して私の事をあの地獄から
救ってくれたんだ。それが学園長。その後、私も学園長の児童施設に誘われた
が、私の両親の研究仲間だったと言う老夫婦が現れ引き取ってくれたんだ。雪
那は本物の両親が付けてくれた名らしい。清美は清美のおじいちゃんとおばあ
ちゃん……引き取ってくれた老夫婦から貰った。しかし二人も結構年でな。し
ばらくして、安らかに眠ったよ。その後、私以外に子供も親戚も居なくてな。
二人は名前と居場所だけでなく、私に結構な額の遺産も遺してくれた。少なく
とも一人暮らしで学校を出ても充分お釣りが来るほどには。……アイツと出会
ったのは何時頃だったかな? 私は散々弄られた御陰か幼くても、一人で生き
ていけたし、誰かと関係を持つ必要も無かった。なのにアイツは何度私が拒絶
しても、諦めずに結局、無理矢理私を日陰から引っ張り出したんだ。そして、
噂であの時助けてくれた人の学校が在ると聞いて今に至る訳だ」
 セツナは一息を付くと、首だけ動かして俺を見上げる。
「面白かったか? それで、お前の昔話も聞かせてくれるんだろう?」
「そのつもりだったけど、最後惚気られて気にくわないから、止めようかな」
「お前がアイツ何時出るんだ? と気になっていたから話てやったと言うの
に」
 回想中でも読めるのかよ。
「勿論だ。お前はさっき目を隠していたし、よく目から相手の情報を引き出す
と言うが、私のは電気信号を読んでいるだけだ。ある程度の距離なら相手が見
えなくても読める。まぁ私が思考を読めるのなんてはお前だけだろうけどな」
 そいつは気を付けないと、俺を倒す為に研究されてたんじゃないだろうな?
「そんな訳ないだろう。後今のは少し喜ぶと思っていたんだが、違うのか」
「喜ぶ?」
「お前だけ。みたいな特別視されるのが好きかと思ったんだがな」
「あーうん。特別視ね。俺だけ、か……」
「逆だったか。すまん」
「読んだ? ブロックは難しいみたいだね」
「今日はな。お前ここに来る前完全に感情を殺してきただろう? シズカの確
認とか、私の事とかで冷静に居るために。感情を殺してる今なら手に取るよう
に解るんだよ」
「じゃあなるべく地の文は書かないようにするか」
「今までもロクに書いてないだろうが!」
「良いの! 掲示板にあるSSみたいなテンポのいいスタイルが今回の売りな
の!」
「シュールで面白いじゃないか」
「だろ?」
「あぁ。実にシュールで面白い、己の文章力の無さを隠す言い訳だな」
「辞めろよ! 自分が一番良く分ってるんだから、そこに触れて上げんなよ!
なんでチョイチョイ物語に登場しない『アイツ』を攻撃するんだよ」
「いいからお前の話は?」
「そうだな空気変えるためにも、俺の話でシリアスにするか」
 俺は咳払いを一つして、軽くセツナの髪を撫でてから話しを切り出す。
「ん?」
「まぁ何て事無い。お前と大して変わらない、面白くない話なんだけどさ」
 絡めている手に力を込める。それに気づき、握り替えしながら疑問符を浮か
べて俺の顔を覗き込むセツナに微笑み返す。今は本当に感情を消しているか
ら、俺の考えも読みやすいだろ? まぁ、感情どころか、思考も停止させてる
から、読むモノが無いのかも知れないけどね。
「俺も弄られる前の記憶が無いんだが、俺は親に捨てられてね。当時、離婚の
話は既に進められていたんだろう。後は子供をどっちが引き取るか、と言う事
だけだったんだろう。結果は『俺はどちらも引き取らない』に落ち着いたんだ
ろうな。顔すら覚えてないんだが、たしか最後の言葉はたぶん母親の「私はこ
の子と、お姉ちゃんはお父さんとお出かけするから貴方は一人でお留守番して
いてね」だったかな?」
「ちょっと待て! 両親は互いに子供を一人ずつ連れて行ったくせにお前だけ
置いていったと言うのか!?」
「曖昧だが、たしか姉と妹が一人ずつ居た気がする。何も憶えてないけど」
「そんなのってあんまりだろ……」
「そうでもねぇさ。親に捨てられたのなんて施設にも結構居たし」
「それでもお前だけ置いていく何て――ッ。さっきは、その、すまん。そうい
う事か『お前だけ』は嫌いなんだな」
「そうでも無いよー。セツナが市川の旦那じゃなくて俺だけを好きになってく
れると嬉しいし」
「お前何を言ってるんだ? お前は「東条七海」か? いや、『今は』感情を
切り離してるのか。『お前』とは話しても無駄だな。続けてくれ」
「了解。って言っても、ここから先はお前と同じ。研究所に連れて行かれて、
星佳が助けてくれて、身寄りの無い俺は施設で育った。親は探す気も意味も無
かったから。無視。そんで今に至ります。っと。大分端折ったけどこんな感じ
かな?」
「そうか。……顔を出せ」
「はい?」
 セツナは今まで繋いでいた手を乱暴にほどいて立ち上がる。
「そのうざったい前髪を上げて、額を出せと言っている」
 俺にを顔を近づけると、思いっきりヘッドバット。なんの意図が在ってかそ
のまま額は押し当てたままだ。
「最初からこうすれば良かった。道化となったお前と話していても面白くない
しな」
「痛っ。何、キスでもしてくれる――」
 途端に頭の中に流れ込んで来る見たことの無い景色。走馬燈? 事故に遭っ
て変わり果てた姿で帰ってきた両親の姿。流れ込んでくる悲しみの感情。壊れ
るまで続けられる実験。壊れてしまった仲間達。流れ込んでくる憎しみと恐怖
の感情。優しかったおじいちゃん、おばあちゃん。初めての穏やかな感情。こ
れはセツナの記憶?
 セツナの額が離れて、視界が元に戻る。目の前に居るのは、まるでこの世の
終わり、地獄でも見てきたような、真っ青な顔で震えるセツナの姿。
「セツナ?」
 まるでこの世の終わりを見てきたような顔? (何で?)俺にはセツナの記
憶が流れ込んできた。(どうして?)じゃあセツナには? (もう、気づいて
いるんだろう?)
「オイ、セツナ! お前まさか!?」
「思考を、読める能力の、応用と、言った所か。直接脳の、信号を、読み取
る、事で、記憶を見ることができる。これも、お前にしか、使えない、し、正
確に時間を狙って、見える訳では、無いのだがな。勝手に記憶を覗いたことは
謝るよ」
 俺は倒れそうになる。セツナに駆け寄り身体を支える。
「そんな事はどうでもいい。お前……」
 お前今の自分の姿を知っているか? 全身痙攣していて、顔が真っ青だぞ。
俺のを見たって? あんなモンまともな人間が耐えられるモンじゃないんだ
よ。
「お前は何故、あんな事があって、ハァ、ハァ……まだ人間が好きで居られ
る? 世界を壊さないで居られるんだ? ハァ、ハァ、ハァッ」
「人間なんて嫌いだよ。この世界だって滅びれば良いと思っている居る。この
世は腐ってる、人も世界も何もかも! それでも、それでも星佳や、美鈴のよ
うに護りたい人が居るんだ。こんな世界でも、手を差し伸べてくれた人の居る
この世界を、僕は怨みきる事が出来ないんだ。さぁもういいだろ? もう止め
よう。過呼吸が始まってる」
 僕は常備している薬を取り出しして、セツナに飲ませようとして、その手を
払いのけられる。過呼吸が強くなって喋る事の困難なセツナは、只僕に強い視
線をぶつけてくる。
「ハァ、ハァ、ハァ……お前はコレを耐えたんだろう? お前はコレでも壊れ
なかったんだろう? ハァ、ハァ、なら私も耐えてみせる! 私が一緒に背負
ってやる、だから……」
「違うんだよセツナ。僕は壊れないんじゃ無い。『最初から壊れてるんだ』君
達みたいに、傷だらけとか、ボロボロとか、壊れそうなんじゃ無くて、もうと
っくに壊れているんだ。だから僕はもう壊れないんだよ」
「……薬を寄越せ」
「えっ? あっはい」
 錠剤の薬を渡すと水も無しにセツナはガリガリと噛み砕いた。しばらく待つ
と落ち着きを取り戻し話しを続ける。
「それは、もう壊れないから大丈夫。という事では無いだろう? それはずっ
と辛いって事で、そしてもう治らないって事で、それは愛や楽しいが無いって
事だろう?」
 俺の腕に抱かれたまま、セツナは俺の心臓を手で撫でる。
「お前には新しい心を入れて上げなきゃな。それが私の役目だと嬉しいんだ
が、私に務まるかどうか」
「フフッ「オズの魔法使い」か。実は僕にも最初から心が入ってたりするのか
もね」
「どうした? イキナリ笑って? 何か言ったか?」
「いや、心じゃなくて体でも良いけどって」
「おや? 戻ったか」
「何その反応? 俺はてっきりコークスクリューかと思ったのに」
「無意識か? やはり私とは少し異なる様だな」
 さっきから一人で何を言ってるんだ? 電波だったっけこの子?
「あぁ、すまん。いやなに、この距離だとキスでも出来そうな距離だと思って
な」
「して良いの?」
「最初に言っただろう。告白してきたらしてやると。それまでお預けだ。した
いのなら今ここで私に告白するか?」
「しないよ」
「即答かよ。泣いちゃうぞ」
「俺、負け戦はしない主義なの。でもどうしても勝ちたい戦はしたこと無かっ
た。でも今回はどうしても勝ちたいから、絶対負けないタイミングで仕掛け
る。どんな手を使っても欲しいモノだから」
「それもう立派な告白じゃないか?」
「違うよ宣戦布告」
「て言うか、今日私何度か告白まがいの事されてるんだが」
「今は勝てないって相手が悪すぎる」
 過去を感情付きで見せられた俺の気持ちも解ってほしいね全く。
「それは、知らんが、お前も私の見たのか?」
「あぁ。悪い勝手に流れてきた」
「別にかまわん。ほとんど話した事だしな。只、誤解されるのは気に食わん。
……宣戦布告をしたお前にご褒美をやろう」
 そう言って徐に立ち上がってセツナは続ける。
「唇以外なら好きな場所に一カ所だけキスして良いぞ」
「は?」
「ほら、前のご褒美は私がしたんだし、今度はお前からだ。唇以外だぞ」
 唇以外って下のくち――
「今日はコークスクリュー封印って決めたし我慢だ、私」
 思いっきり、かかと落とし喰らったけどね。ちなみに諸君、黒だったぞ。勝
負? それとも誘ってる? なにげに状況が状況だし。
「状況が状況だけに強く否定は出来ないが、誘ってない。いいからさっさとし
ろ」
 どうするか? おでこに軽くとかが、無難で可愛くて逃げやすいか。 
「前にも言ったはずだが『私の事は好きになっても良いんだぞ』安心しろ」
 そんな事言われたら本当に本気になっちゃうじゃん。よし、決めた。
「今俺の考え読める?」
「いや、スゲー邪な感情にじゃまされて全く読めん。まぁそれでも受け止めて
やる」
 もう止まんないよ。後悔しても知らないから。
 俺は立ち上がって、セツナの身体を引き寄せる。
「やっぱり恥ずかしいな」
「いただきます。チュッ」
 俺はセツナの首筋に思いっきり吸い付いた。
「あんっ、よりにもよってそんなとこ、んっ、まぁ唇以外はどこでもいい、ル
ール、だった、ヤッ、からな。……んっ、少し長すぎないか? ま、まぁ時間
の指定はしてないが。……ちょっ、お前、バカ、マーキングはダメだ、辞め
ろ!」
 かなり遅れてだが、俺の意図に気づいたセツナに強制終了させられてしま
う。まぁ、首筋を見る限り俺のミッションは成功の様だ。アレなら数日は消え
ないな。
「ゴチソサマ。可愛い声で鳴くんだね」
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカ。今日はもう帰る。責任取れよ、バカ」
「バイバーイ」
 久しぶりに本気で悪戯してみました。でもま、可愛くなるのは反則だろう。
今はちょっとだけ楽しい気分だから、アイツがどこまで見たのか考えるのは止
めにしよう。明日からセツナの顔を見るのが楽しみだしね。



 その日の生徒会室は異常な空気に包まれていた。まぁ一番異常だったのは、
俺がその時を楽しんでいる、と言う事かも知れない。
「もう衣替えだと言うのに、キミのその格好はなんだい?」
 ウチの学校は学園長がアレなため、冬服は男女共に、一般の学校の制服より
少し一線を離れた可愛いめのブレザー。夏服は男子のは弄るところが無かった
のだろう。至って普通の夏用制服だが、女子は結構露出度が高めのセーラー
だ。まぁ一般の学校と違うと言っても常識の範疇(勿論星佳のではあるが)で
あるため。三年も通えば対して驚く事では無いはずだ。しかし、生徒の模範で
ある生徒会長は、何故かは知らないが、その涼しげなセーラ服の下にタートル
ネックを首まですっぽりと着ているのだ。何故かは知らないが。
「どの口がソレを言う?」
「何を言っているんだいセツナ?」
 どの口も言ってませーん。只思っただけですよ。
「中学の時もだけど、静って夏服似合わないよね」
 俺は応接用のソファで本を読んでいる静の所に行って、その膝の上に乗る。
「そうゆう事は思っても言わない事よ。特に私には。夜道を安心して歩きたい
ならね」
 相変わらず、ドSぶる静であるが。今日は反撃してみようと思う。
「いや、そうじゃなくてさ、美人は何を着ても似合う。って言うけど静位の本
当の美人だと釣り合う服が意外と無いよねって」
「えっ、そ、そんなことは無いわよ。今日は機嫌が良いのね。リップサービス
をしても何も出ないわよ」
 そう言いつつも、俺をぬいぐるみの様に抱きしめる。意外と静も可愛い所あ
るよね。
「やっぱブレザーないし生地も薄い夏服は違うよね」
「ほう。一体何が違うのかなナナミ君?」
 それは勿論、む――
「それ以上言ったらグーパンだぞ」
 だから言って無いし、自分で聞いたんじゃん。後、お前回転加えるだろう
が。
「ん、で結局セツナのその格好はなんなのさ?」
 キッっと思いっきり睨まれる。
「別に何でも無い。ちょっと肌寒くてな」
「とか言って、キスマーク隠してるとかだったりして」
「なっ、お前バカ、そ、そんなんじゃ無いぞ」
 めっちゃ動揺してる。それじゃバレるって。
「その反応は図星なのかしら? だとしたら隠さなくても相手は解ってるのに
ねぇ」
「えっ?」
「だよね。なんかイキナリ興味無くなった。静ー俺もお前に付けて良い?」
「貴方がそんなこと言うなんて意外ね。今頃私の魅力に気づいたのかしら?」
「いや、俺昔から静ラヴだ――ヒッ」
 悪寒がして後ろを向くと、セツナがそれはもう禍々しいオーラを出して、俺
を睨んでいる。その顔は雄弁に「お前解っているんだろうな?」と語ってい
る。今日はこの事についてはもう止めよう。
「そうだ旦那。今度の歓迎会の事だが、別に俺そのまま空席の会計に入る形で
良いぞ」
「何を言っている? お前が副会長を希望したんだろう」
「やっぱり、副会長に、セツナの隣に相応しいのは旦那かなって」
「何を勝手な事を言っている!」
 いい加減素直になれセツナ。そして旦那の事を認めてやれ。安心しろこれは
諦めたとかじゃないから。只、これぐらいはくれてやんなきゃ、さすがに報わ
れねぇ。
「……お前がそれでいいなら、構わないが……」
「良いのかい? 二人がいいならそれで行かして貰うよ。彼は充分仕事を任せ
られるし、手続きが面倒にならなくて済むしね」
「ああ。それで頼む」
「好きにしろ」
 そう怒るなって。今の所は俺のモノって印が在るからね。余裕だよ。あっ言
い忘れてたけど、美味しかったよ。
「ッ、バカかお前は! こんな所で!」
「キミこそどうしたんだい、こんな所でイキナリ?」
「あっいや、きょ、今日はその件だけだからコレで解散だ。私はもう帰るから
な」
 恥ずかしさを隠すためか、逃げるように部屋を出て行くセツナ。今日はいつ
もとは違う意味で可愛かったな。
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