心無いブリキ~セツナイ紙飛行機~

桜薫

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シズカなデート

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 最初に言っておくが、私は今日の事を数日前から楽しみにして居たなんて事
は無い。別に今日は気合いを入れてお洒落をしてきたりなどしていない。数日
前にナナミから『次の休み日空いてる? もし良かったら少し付き合って欲し
いんだけど』ってメールが来た時からずっと舞い上がって居た。何てことは断
じてない。メールは小一時間悩んだ末『ダー』とだけ返してやった。……もう
ちょっと可愛い文章が良かったかな? とか後悔など……少ししている。とも
かくコレはデートだよな? 特にアイツはデートとは明記しなかったが、コレ
は間違いなく、デートだ。二人っきりで、初めての、デートだ。
 まぁ、あんな事があったわけだし? 『告白』はしなかったけど、好きって
言われたよな? 大好きって言われたよね? と言うか私も言ったよね。そし
て手、繋いだよね。抱きしめて貰ったよね。もうコレ、付き合ってるって言っ
ても良いんじゃ無いかな? かな? 少なくとも好き合ってるよね。デートは
少し今更な感じもするけど別に浮かれてなんかいないもん。その証拠に私は、
ナナミに指定された時間の一時間前から、待ち合わせ場所の見える位置で待機
している。
 アイツが来てしばらくしたら出ていってやろう。そしたら「待った?」「う
んうん。今来た所」なんてお約束の展開が待っているだろう。唯一の懸念はア
イツは一分一秒正確に待った時間言いそうな事だ。そんな時いつもならコーク
スクリューだが、今日の私は機嫌が良くなんか無いから「そこは今来た所。っ
て言うんだよ」と可愛く指摘してやろう。後はお洒落な喫茶店に入ったり、お
揃いのキーホルダーを買ったりなんかしちゃったり――おっと、私が楽しみに
デートプランなんか考えていない間に、来たようだな。
 うん。私服もなかなかに私好みじゃないか。元々私が一目惚れするほどの素
材だしな。隣には美少女を連れて、なかなかに美男美女でお似合いのデートと
言ったところじゃないか。うん。……うん? 美少女? 私はもう一度見て、
さらに目を良く擦ってからもう一度見た。うん。居るな。確かにナナミの隣に
は私では無い女が居るな。それも結構毎日顔を合わせる奴だ。しかも腕なんか
組んじゃってるぞ。コレではまるでデートの用だな。よし、殴ってこよう。と
りあえず一発殴ってから言い訳を聞こう。
(少佐、着いている?)
 立ち上がって殴りに行こうとしたら、イキナリ頭に直接声が響く。私はナナ
ミ限定で色々な条件付きだが、思考を読むことが出来る。まぁソレの詳しい事
は今は良いだろう。コレの難点は向こうから思考が一方通行に来るだけで、私
からは飛ばせないということ。ナナミ曰くコレは、私が自分のハイスペック版
だから出来ると言う事だが、果たして本当にスペックが高いのは、いや、それ
はどちらでも良いが、この機能の恩恵を受けているのは私だろうか? 普通に
考えれば、相手の思考が読めるというのは、何をするにしてもかなりのアドバ
ンテージだろう。実際私もこの機能を使って、前にテストの勝負でアイツを負
かしてやったこともある。だが最近ナナミはソレを逆手に取り、一方通行に思
考を送って来て私を苛めている節がある。まぁ二人だけの秘密みたいで嬉しい
かな。何て思ったりなんか全くしてない。只たまに、私に届いてるとも知らず
私の仕草を無防備可愛いと思って居たり。常日頃から私を美人だと思ってくれ
ているのが純粋に伝わるのは、もうぶっちゃけスゲー嬉しい。それはともか
く、私からはナナミに思考を送れないので、会話が成立しない。私はとりあえ
ずメールで奴を問いただす。
『何故シズカと一緒に居る?』
『何故? って今日は静とデートだから
俺からは見えないけどとりあえず来てるんだね』
 ハァ? デート? 相手間違ってないか? それとも私は二人のデートを見
せつけるために呼ばれたのか? 別に楽しみになんかしてなかったけど、もう
泣いちゃいそうだ。
『とりあえずコロシテイイ?』
『ゴメン
とりあえずそのまま静に気づかれないように着いて来て
後でちゃんと説明するから』
(ホントに悪い。休みの日わざわざ呼び出して。後でお茶奢るからさ。とりあ
えず今は……)
 やれやれ訳ありか。ホント楽しみにして無くて良かったよ。もし楽しみにし
ていたら泣いてしまっていたぞ。私だけバカみたいだな。
『とりあえずお前達を尾行すればいいんだな?』
『アリガト
くれぐれも静に気づかれないように頼みますよ少佐』
『さっきからその少佐ってのはなんだ?』
『セツナにぴったりのあだ名でしょ?
なんか気分出るし』
 私と同じお前ならこの痛みが分ってくれると思ったんだが、まさかお前から
とは、本当に今日は泣いちゃいそうだ。
『私がアンドロイドだからという皮肉か?』」
『お前が 愛想良くすれば超絶美人だと言う皮肉だな』
(お前が人だろうが、ロボットだろうが関係ないさ。只俺が恋いをしたのがセ
ツナ。それだけ。俺も同じだしさ)
「フッ、バカが」
 メールも途中まで書いて変えた様だが、本音が丸気声だ。あぁもうホントに
可愛いなぁ。
「最近学校はどう? 彼女とか好きな人とか出来た?」
「なんだよ、急に? そっちはどうなのさ?」
「私? 私はそうねぇ、可愛くてちょっとほっとけない後輩がいるかしら?」
 二人の親しそうな会話をずっと聞いてなきゃならんのは少し辛いかも。
『お前いつもと随分雰囲気違うな
シズカとデートは良くするのか?』
『予定が合えば毎週?』
『帰っていい?』
『待って少佐!
もうちょっとで着くから
落ち着いて』
 仲が良いのは認めねばならんと思ってたが、まさか毎週デートするような仲
だとは。それもう付き合ってるだろ? 少なくとも好き合ってるだろ。なんか
いつもと感じ違うし、二人きりだとそうなのか? いや、シズカの方が違うよ
うな……なんか違和感あるな。何かはまだ解らないけど、何かがおかしくない
か?
「さっきから携帯ばっかり弄ってー。やっぱり彼女居るんじゃ無いの?」
「ちょっと覗くなよ。良いだろ、なんでも」
「お年頃だもんね」
 なんかさっきからデートの会話としておかしくないか? いや私もデートの
経験ないから解らないけど。強いて言うなら俊幸と待ち合わせして、二人で買
い物したり、ご飯食べたりするぐらいだから。デートじゃないその時だって、
お互いの服を見繕ったり、水族館に行ったときは、魚の話をしたりするぐらい
だろう? お互いの近況報告、特に、デートで恋愛の話なんて絶対しないだ
ろ?
(着いたよ。ちょっと人多いし、迷い易いから、見失わないように気を付け
て)
 ん、目的地か。まぁカップルのあり方なんて十人十色だしな。気にしても仕
方ないか。やれやれ、迷子になるなと釘を刺されたし、尾行に集中するか。
「えっ?」
 おそらく今日のデートの目的地なのだろう。二人が入っていった場所を見
て、明らかに私の中の違和感が確かな形へと変わる。
「総合病院?」
 とりあえず、考えるのは後にしよう。二人が入っていった入り口に向かう。
二人は丁度エレベーターに乗るところだった。
(五階。エレベーター降りたら左手にまっすぐ)
 抜け目無いな。私は鉢合わせにならないように、少しだけ時間置いてから、
ナナミの指示通りに動く。その先で一つの病室の前にナナミが待っていた。
「全く人使いが荒いな」
「ゴメン。今度お詫びはちゃんとするよ」
 デートの埋め合わせのほうが大事なんだか……毎週デートする相手が居るん
じゃ仕方無いか。
「シズカは?」
「この中」
 病室の中を指さす。中を覗くとシズカが椅子に座って誰かの手を握っている
のが見える。その相手の患者は……カーテンで確認出来ないな。私は病室のプ
レートの名前を読む。
「黒川彰クロカワ アキラ?」
「そう。静の弟」
「何故私をシズカの弟の病院に? 見舞いに来たならお前も行かなくて良いの
か?」
「そんなに焦るなよ。一つ一つちゃんと全部説明するからさ。先ずは一つ面白
いモノを見せるよ」
 そう言って、病室に入っていくナナミを目で追っていたが、ナナミが再び私
の所に戻って来るまで、その光景が余りに驚愕で、声すらも出せず、思考は完
全にフリーズして、只、見ている事しか出来なかった。
「えっと、どうかされましたか? どちらさまでしょう?」
「えっと、ココ、真田さんの病室じゃあ無いですか?」
「違いますよ。ココは私の弟の部屋です」
「スミマセン。どうやら病室を間違えたようです。割と頻繁に来るんで病室の
プレートの確認を怠りました」
「もし、よろしければご案内しましょうか? 私も良くココには来るので詳し
いですよ」
「いえ、隣の部屋か、階を間違えたのでしょう。弟さんの側に居て上げてくだ
さい。お騒がせして申し訳ありませんでした。失礼します。お大事に」
「どうよ? あんまり驚いて固まっちゃった?」
 いつの間にか、隣に来ていたナナミに肩をたたかれて、ようやく金縛りの様
な状態から回復する。そしてソレが今、目の前で起った事が現実だと突きつけ
る。二人が嘘や芝居をしている様な素振りは無くて、何より、シズカが他人行
儀で喋る度に走るノイズが、それでも無理矢理に押し込めるナナミの感情が、
コレがリアルなのだと、語っていた。
「コレはどうゆう事なんだ?」
「……場所を変えよう。そこで話すよ」
「シズカはいいのか?」
「あぁ。どうせ今日はもう俺の事は分らない」
 今、泣きそうなのはお前か。でもすまない。私は今どうしたらいいか解らな
いんだ。



 その後私達は病院を出て、ファミレスに入る。付いてきたものの、私は何を
知りたいんだ? それは私が知ってしまって良いことなのか?
「お待たせしました」
「何コレ?」
「ストローベリーパフェ。嫌い?」
「いや、嫌いじゃないが……」
「そっか、良かった。俺は甘いのあんまり好きじゃ無いからコーヒーだけど」
 弱ったな。今はコイツの考えも全く読めない。とりあえずパフェでも食べれ
ばいいのか? 訳も分らず私がパフェを口に運ぶと、ナナミの方から音が鳴
る。結構な数聞いて、聞き覚えのあるコレはナナミ携帯の撮影音。
「なんだ?」
「いや今日は、可愛かったからつい。ハンチングも良いけど何よりメガネが魅
力的だよね。」
「別に今日は楽しみにしていなかったし、お洒落もしてないからな」
「えっ? 何も言ってないけど、でも今日は俺的にかなりの上位だよ」
「ふーん。ちなみに一位はどんな、誰だ?」
「秘密」
「一回携帯貸せ。フォルダーを見せろ」
「ちょっとダメだってば」
 ナナミが抵抗するから、私と取り合う形になって、携帯を落としてしまう。
そこに映った待ち受けの画像を見て、フォルダーを見る必要は無くなってしま
った。こんな時私はどんな顔をすればいいんんだろう? シ○ジ君ので正解
か?
「それで静の事だけどな」
 さりげなく携帯をしまって、何事も無かったように本題に入るナナミ。
「あっ流すんだ。お前の待ち受けが、最初に会った時の、お前のネクタイでリ
ボン代わりにしている私の写真なのは流すんだ」
「いや、流すでしょう。お互い何も見なかった事にしようよ。掘り下げてもお
互い気まずくなるだけだよ」
「いや、私は嬉しいよ」
 今日はツイて無い一日になるかと思ったけど、どうやらそうでも無いようだ
な。前は無関心だったのに、私服も褒められたしな。
「コレは、俺しか知らないお前だからって言う意味で……他意は無いぞ」
 可愛いなぁ。感情を読めるのも悪くない。
「わかったから、良いぞ話始めて」
「あぁ、それで静なんだかな、さっき見た通り、弟さんが事故に遭って今は入
院している。それだけなら良くは……無いが、まだマシだったんだがな、弟さ
んはどうも打ち所が悪かったみたいで、事故遭ってから今日までまだ一度も目
を覚ましていないんだ」
「助かる見込みは?」
「今の所は絶望的。医師からは、あまり期待しないでくれと、伝えられている
らしい」
「大体の事は解った。それでそれがお前となんの関係持つ?」
「セツナも見たことあるんだろう? 壊れかけた静の事は」
「あぁ。まぁ弟がそんな状態ならおかしくなってもしょうが無いな。やっと理
由が分ったよ」
「俺がその状態の静に会ったのは中学の時なんだか、俺はアンタや旦那の様に
粋狂じゃないから、普段なら気にもしなかったんだろうが、俺もちょっと辛い
事の後で、参ってて、お互い『代わり』を探してたんだ」
「バカが……誰かが誰かの代わりなんて務まる訳無いだろう」
「それも、お互い解っていたんだ。でも俺も静も互いに依存した。最初は、悩
みの相談や愚痴の言い合いの様な、傷の舐め合いだったよ。お互いに別の人物
を映しながらね。只、俺はそうしているウチに少しずつ癒やされていって、依
存したままだったけど、次第に「黒川静」という一人の女性に惹かれていっ
た。でも俺には静を救うような事は出来なくて、次第に静は完全に俺と弟を一
緒に思い始めた」
「そうか私の見ていない過去の先にそんなことが」
「見なくて正解。今思えば俺は本当に愚かだった。もし見ていたらお前は俺を
軽蔑するさ」
 何があったか解らない私には何も言えないが、もう少し私を信頼して欲しい
モノだな。
「あれ? 会長と七海じゃあ無い。こんなところで珍しいわね」
 シズカが窓の外から私達を見つけて店内に入ってくる。
「もしかしてデートですか?」
 さっきの病室でのやりとりはなんだったんだ? ちゃんと「七海」と呼んで
いたが。
「シズカお前コイツが誰だか分るのか?」
 当然の様にナナミの隣に座るシズカ。に問いただす。さっきのはなんだった
んだ?
「何を言ってるんですか? この子は可愛い私の弟の彰ですよ。会長こそ休日
に出かけるような仲だったなんて――アレ、私、なんか」
 弟の彰? そう言ってから頭を抑えて少し辛そうににするシズカ。どういう
事だ?
「アラ?七海今日は会長とデートなの? 妬けちゃうわね。会長ばっかりずる
いわ」
「お前が今日は弟と出かけると言って断ったんだろう」
「そうだったわね。私は今日彰と病院に、アレ? なんで私病院なんかに?」
 また頭を抑え苦痛の色を浮かべるシズカ。 さっきからお前達は何を言って
いる? 私がおかしいのか?
「アレ、貴方たしか右利きだったわよね。この席だと私と腕がぶつかるはずな
のに」
「僕だってドリンクぐらいは左手で飲めるよ。箸を使う訳じゃないんだから。
僕が左でカップを取れば姉さんとはぶつからないだろう?」
 どうゆう事だ。お前等は利き腕が同じだから毎日隣の席に座るんだぞ。それ
にナナミお前は今何て呼んだ?
「七海は相変わらず、ブラックなのね。アレ――彰はブラック飲めたかしら?
――七海は元から左利きよね。アレ――私どうして――」
「静今日はもう帰った方がいい。顔色凄い悪いぞ。お前の分も払っておくか
ら、今日はもう帰って休め。な?」
「えぇ。そうさせて貰うわ。ごめんなさい。少し疲れたみたい」
 シズカはそう言って力無く立つと、行ってしまった。
「大丈夫なのか? 一人で帰して?」
「俺が居たから混乱しただけだ。俺が居なければ正常に戻る」
「今のといい、病院の時といい、アレはなんだ?」
 明らかに異常だろう? 弟は病室で寝ているし、ここ居るのは間違いなく私
の、私のナナミだ。
「正直言うとな、俺にもわからん」
「わからない?」
「大きなショックや過去のトラウマで、記憶障害や解離性同一性障害なんかに
に成る事ってあるだろ? たぶん似たようなモノだと思うんだけどな」
「記憶喪失や多重人格とは少し違う気がするが」
「俺にも良くわからん。そして静本人は自覚してないしな」
「医師に相談した事は」
「そいつは自殺行為だろ? それには先ず「貴方の弟は植物状態で、助かる見
込みがありません」って事を認めさせなきゃなんねぇ。それに耐えられるよう
なら最初からこうなっちゃいない」
 確実に壊れるぞ。最悪後を追いかねん。と、後に繋げるナナミ。
「まぁでも、結構俺が静を見てきて解ったことがあるんだ。まず、意外と静の
ご都合主義で脳内保管されてるみたいでな。そもそも弟は俺より一個下らし
い。だから、同じ学校に通ってない。そのために学校に居るときは俺を『七
海』として捉えている」
「まぁ学校では私達から見てもなんの違和感も感じられないしな」
「後は、俺との関わりが深い人物。弟より俺を連想する人物つまり、アンタ
や、智也とかだな。と一緒に居る時も同様」
「成る程。なら私達が今まで誰も気づかないのは無理は無いな」
「只、俺は水筒みたいな物でね。病院で本物の弟に話しかけるのを聞くと、俺
に関する内容が多いんだ。でもそれが全部弟がやったように話すんだ。「彰と
市川先輩は本当によく喧嘩してるわよね」みたいに。普段は俺が弟になってい
て。弟に会っているときは弟が俺になっている。俺に思い出をためてソレを弟
に与えているんだ」
「でも弟は高校生じゃないんだろ? 明らかに矛盾が生じるじゃないか」
「だからそこは静が脳内でご都合主義に編集しているのさ。矛盾が生じた物は
寝て起きれば忘れる。今日みたいなのとかね。自分を護るために無意識にこの
システムを作動させている」
「それじゃあこのまま行けばお前はいつか静の中で完全に消えて、弟の彰にな
ってしまうじゃないか」
「あぁ。おそらく弟の身に何かあってもそうなるだろうね。弟が奇跡的に目を
覚ませば俺は最後の矛盾として静の記憶から消えるだろうね」
「お前はそれでいいのか?」
「前に言った通り、彼女は俺を見ていない、俺に出会って無い。それで静が幸
せならそれでいい?」
「それはあまりにも寂しすぎないか?」
「静を責めるつもりは無い、俺も彼女に依存したし救われた。だからこれは俺
からの恩返し、かな?」
「お前が納得しているならそれでいい」
 どうやらお前は昔からそういう性格のようだしな。
「でもやっぱり、ハッピーエンド的には、弟さんが助かるのが一番でしょ? 
色々探してみたんだけど見つからなかった。どうも脳の一部に障害があるみた
いで、『脳の働きを助ける機械でも埋め込まないと』助からないらしい」
「お前やる気じゃないだろうな? 私達はコレが無くなれば死ぬんだぞ」
 少し、怒気を含めた声で、ナナミを睨む。
「出来るのなら、もうやっている。そしてお前と出会う事も無かっただろう。
でも知っての通り、コレの成功率は恐ろしく低いんでね。俺が知る限り二人し
かいない」
 出来たならやってたか……うん。もう限界。今日は朝から我慢してたもん。
ちょっとお説教だな。コレは。
「これから少し付き合え」
「ん? 買い物?」
「良いから。今日は今まで私が付き合ったんだ。今度はお前が付き合え」
「? 別に構わないけど、どこへ」
「いいから来い」
 私は強引にナナミを引きずりながらファミレスを後にした。



 私は只ひたすらに無言でナナミを引っ張り、ココまで連れてくる。到着した
ところで手を離すと、バランスを崩してしまったようだ。
「ここはどこ?」
「私の家」
「セツナなにげにお嬢様?」
「んー。と言うかこの家はとある外国の金持ちが別荘にしていたのを譲り受け
たらしい。私を引き取る少し前位だったと聞いている」
「成る程。だからこんな貴族のお屋敷みたいなのね」
「大神の家ほどじゃないだろう?」
「アレは年寄りの道楽」
「まぁいいとにかく入れ」
 私は玄関を開けてナナミを招き入れる。ここに人を入れるのは始めてか? 
アイツも屋敷の中には入ってこなかったからな。
「これで一人暮らしだと何かと持て余すが、まぁいくつかは、おじいちゃん達
が簡単な研究施設として使っていたのを、そのままにしてあったりもするんだ
が……とりあえず私の部屋に案内しよう」
「どっちかつーとその研究室のが興味あるんだけど」
 コイツは年頃の女の子の、私の部屋より、研究室の方が興味あると言うの
か?
「なにその顔?」
「別に。まぁついでに見せてやるさ」
「ホラ、ここが研究室だ。まぁ機材も余りないしここでは大した実験は出来な
いがな」
 私は研究所や似たような施設には、それなりにトラウマがあるので、中には
入らず部屋の入り口で待っていたが、ナナミはまるで、少年の様にはしゃいで
鼻歌を歌いながら、赤褐色の粉末を容器に入れ、財布から一円玉を取り出して
――
「待て待て待て待て!何、少年がガ○プラ作るテンションで鼻歌交じりに爆弾
作ろうとしている!」
 ナナミの手を掴んで無理矢理止めさせる。私じゃなかったら気づく事も出来
たかどうか。しかも量に容赦も躊躇いも無い。どこまで吹っ飛ばす気だ。
「俺さ、研究所出た後、施設で過ごして、しばらくしたらまた別の研究所に居
た時があるんだよ。その時に最初に教えて貰ったのがコレの作り方なんだ。コ
レ持ってると落ち着くんだよね」
「そんな初めて買って貰ったぬいぐるみみたいに言われても爆弾だから、ダメ
だから」
「入れたね。『研究所』」
「えっ?」
「場所も違うし、規模も全然だけどさ、ちゃんと自分から。俺が言うのもなん
だけどさ、あんまソレばっかに囚われてるのも良くないと思うぜ」
 コイツは……私が説教してやろうと思って連れてきたのに、逆に教えられて
しまったか。本当に意地悪な奴だ。
「セツナ折角研究室着たんだから白衣着ないの? 白衣ー」
「なんだお前、白衣萌えだったのか?」
「いや、白衣着てる人を見ると色々なトラウマを思い出す」
「じゃあ止めておけよ。誰も得しない」
「セツナ、似合うと思って」
 だから純粋にそういう事言うの反則だって。思いも伝わってくるから。
「こ、今度、機会があれば、な。いい加減、私の部屋に行くぞ」
私は、少しぶっきらっぼうに話を終わらせて、ナナミが付いてくるのを確認
して、自分の部屋に向かった。
 私は部屋に入るなりベッドにダイブした。今日はパンツルックだから後ろか
ら付いてくる奴の心配は無い。
「やるならスカートでやれよ。サービスにならん」
「お前も私の心が読めるのか?」
「ん? いや、偶然噛み合ったか?」
「まぁいい。そんなところに立ってないでこっちに来たらどうだ?」
「こっちって、ベッドにか?」
「なんだ照れてるのか? 意外にウブなんだな。お前もまだまだ子供だな」
「別にそうゆんじゃないけど、無防備なんだな」
 私は少しからかうように様に、母親が子供を呼ぶ見たく両手を広げて言って
やった。
「おいで」
――なんだコレ? ナナミから日頃感じてるのとは違う、純粋で、無垢で、ど
こか暖かくて微笑ましいような、初めてナナミから感じる感情。
 私は一瞬の内にナナミに抱きつかれ、押し倒されていた。
「えっ? ちょっ、何?」
「んーーー」
 押し倒されたと言っても、その後襲われたりする訳でも無く、まるで猫がじ
ゃれるように甘えてくるだけ。……思考はなんかよく読めない。
「どうしたんだ? イキナリ?」
「ん! あ、う、悪い……」
 私は別に怒ってなどいなかったのだが、急に我に返ったように私から離れ
て、反省している。
「何だ今のは?」
「えーと、見なかった事に」
「お前たまに、て言うか、毎回、性格替わるというか、キャラを使い分けてる
と言うか……」
 私が上手く言葉に出来ずに居ると、汲み取ってくれたのか、向こうから話し
てくれた。
「俺さ、視たと思うけど、いろんな所にたらい回しされて生きてきたんだよ。
その内、相手によって相応しいキャラを演じる事を憶えたんだ。さっきも上手
く弟できてただろ?」
 それはやっぱり、自分が無いって事で、心が無いって事で、凄く悲しいこ事
で、やっぱりお説教かな……
「まぁ冗談。ある程度必要な時は相手に合わせるけど、基本的には自分で居る
つもり。……でもたまに解らなくなるんだよな。本当の自分がなんなのかさ。
だからお前は好き。本当の俺の声聞いてくれるから」
 お説教モードに入ろうとしたら、不意打ち喰らった。
「告白?」
「ノーカン」
「お前もう結構な回数告白してると思うぞ。後、恋人同士がやるような事も」
「それは、お互い様じゃない?」
 それは、だって、二人居なきゃ出来ないし。
「て言うか、今こうして、お前の部屋に居る理由は?」
「あーそれは、だなぁ」
 お説教と言う名の元、慰めてやろうかと思ったんだが(言っておくが、変な
意味じゃあ無いぞ)それも必要無さそうだしな。
「んー。、寝るか」
「は?」
「お前PCと同じで手動でシャットダウンしないと寝られないんだろ? と言っ
ても脳でチップに命令するわけだが、夜は普通の人と同じで脳を休め無きゃい
けない。だからこの操作が難しくなる。だから昼間寝る。そうだろ?」
「只の言い訳だけどね。やろうと思えばお前みたいに出来ないわけじゃない。
本当は怖いだけだよ夜眠るのが。トラウマさ」
「だから今から寝るぞ。丁度お昼寝時だし、私も一緒だ。安心して寝られるだ
ろう」
「お前の部屋で? お前のベッドで? お前と一緒に? 俺が寝る? ちなみ
に一人暮らし、と」
「何か不満か?」
「いえ、じゃあ遠慮無くいただきます」
「いただきます? なんか違くないか? コラ!何故服を脱がそうとする? 
止めろ」
 さっきの小動物的な感じでは無く、獣、寧ろケダモノの様に襲いかかってく
るナナミをとりあえず鉄拳制裁。
「勘違いするな。只の添い寝だけだ」
「それも結構な事だと思うけどな」
「本気でやる気が無いならあんまり、そうゆう事するな。……私もお前だと流
されてしまいそうになる」
(あーもう。だからそうゆの反則だっての)
「すまん。今のは私が悪かった」
 なんか凄いナナミの気持ちが聞こえてくる。たぶん今の私、顔真っ赤だ。今
コイツに甘い言葉とか囁かれたりしたら、たぶん流されちゃうだろうなー。
「そんな何度も可愛い、可愛い言うな! もうスリープモード入れ!」
「言ってないし! 勝手に読むな。もう寝る。……ん」
 チップを制御したのだろう。ナナミの思考が落ち着くと言うより無くなる。
「お前スリープモードとかじゃなくて、完全に電源OFFにしてるか? ブレー
カー落とすみたいに」
「コレしかやり方知らん」
「ソレは夜やったら起動しなくなるな」
「ゴメン。なんかもう限界。セツナのベッド凄いお前の良い匂いして、眠い」
「あんまり嗅ぐな。恥ずかしいだろ」
「セツナ。……手」
「ホラ。お前寝る時凄い甘えん坊だよな」
 そんな甘えん坊の手を取って握ってやる。お互い無意識に指を絡ませるのは
慣れてしまったからだろうか?
「オヤスミ」
「あぁ。おやすみ」
 すぐに眠ってしまったナナミの無防備な寝顔を少し眺めていると、私にも睡
魔が襲ってきていつの間にか眠ってしまっていた。
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