懐いていた後輩はどうやら俺のことが好きらしい

光野凜

文字の大きさ
6 / 10
第6章

合宿3日目

しおりを挟む
 ドンッ――。

 鋭い音が体育館に響いて、高良のスパイクが綺麗に相手コートへと突き刺さる。

 白球が床を弾む音のあと、チームのあちこちから歓声が上がった。

「ナイスー!」

「今の最高!」

 みんなが駆け寄り、手のひらを打ち鳴らす。
 高良は少し照れくさそうに笑って、みんなと順番にハイタッチを交わした。

 監督も腕を組んだまま、満足げに頷いている。

「おーおー、絶好調じゃん」

 陽稀が隣で笑いながら声をかける。

「調子、戻ったみたいだな」

 俺も自然と笑っていた。昨日とはまるで別人のようだ。

 そのときだった。

 高良がふとこちらを向いて、目が合った。

 一瞬だけ。けれど、確かに。

 その笑顔はまっすぐで、あの夜のぬくもりが一気に蘇る。

 ――体育館前の、月明かりの下。

『少しだけ抱きしめていいですか』

 そう言って俺を包んだ腕の感触。

 近すぎた距離。息がかかるほどの静けさ。

 思い出した瞬間、心臓が跳ねた。

 なんで今、そんなことを。

「湊? どうした、顔赤くね?」

 陽稀の声に我に返る。

「......うるさい」

 小さく言い返して、視線をコートへ戻した。
 高良はまだ、チームメイトと笑っている。

 その笑顔を見ているだけで、胸の奥が妙に熱くなった。

 3日目、午前で練習が終わるころ、全員の体は限界に近かった。
 腕も足も重い。だけど、誰ひとり声を抜かない。

 監督の「よし、今日はここまで!」の声が響くと、体育館のあちこちで安堵と疲労の息が混ざり合った。

 そのあと、静かに監督が名簿を手にした。

 いよいよ、地区予選に向けたメンバー発表だ。

「この3日間よく頑張った。今から地区予選でのメンバーを発表する」

 その監督の言葉に空気が一気に張りつめる。できることは自分を信じて立つだけだ。

「まず、一番――湊」

 監督から呼ばれた自分の名前。胸の奥がじんと熱くなりながら、差し出されたユニフォームを両手で受け取った。

 渡されたユニフォームには、背番号〈1〉の文字。

 手に取った瞬間、その重みがずしりと伝わってくる。

「二番、三番......」

 次々に名前が読み上げられ、陽稀も呼ばれる。

 「よっしゃ!」と笑顔で拳を上げる陽稀に、思わず笑みがこぼれた。

 名前が次々と呼ばれていき、やがて静けさが訪れる。

 残るはあと一人。

「......最後に、一年――高良」

「っ......!」

 高良が勢いよく顔を上げた。

 ぱっと花が咲くみたいに、表情が明るくなる。

 握りしめた拳が小刻みに震えて、その目が、いつもよりずっとまっすぐで、強かった。

「ありがとうございます!」

 声が少し裏返って、みんなの笑いが起きる。でも誰も馬鹿にはしてなかった。

 むしろ、その喜びが真っすぐ伝わってきて、胸がじんと熱くなる。

 こいつが、1年で――。

「やったな高良!」

「マジかよ!」

 1年の仲間たちが肩を叩き合う。

「期待してるぞ」

 監督の言葉に高良は深く頷き、ぎゅっと胸にユニフォームを抱きしめた。

 その姿を見た瞬間、心の奥で何かがあたたかくなった。

 けれど、振り返れば、三年の何人かが静かに俯いていた。

 歯を食いしばる音が聞こえた気がした。

 俺たちは、選ばれなかった仲間の分まで戦わなきゃいけない。

 誰よりも練習して、誰よりも声を出して、結果を残す。

 そうじゃなきゃ、このユニフォームの“重み”に顔向けできない。

 その時、高良がこっちを見た。

 目が合って、あの嬉しそうな笑みを向けてくる。

 なんでだろう。

 ただ“嬉しい”だけじゃない、何かが胸の奥でざわめいた。

 外に出ると、真昼の空がやけに眩しかった。
 グラウンドの土の匂い、汗の匂い。

 全部が“夏のはじまり”を告げていた。

 高良がとなりで、少し照れたように笑った。

「頑張りましょうね、先輩」

 その声に、俺も自然と笑って返した。

 ――最後の夏が、始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

目が合っちゃった!!

瀬名
BL
楽観的で悩みなんてない俺の世界には好きなもので溢れている。 そんな俺の新しい好きは同じ学校の先輩! 顔が良すぎる先輩は眼福で毎日先輩をこっそり眺める日々。 しかし眺めるだけで幸せだったのに目が合っちゃった!! 顔が良すぎる先輩と楽観的で小動物系な後輩の高校生二人の溺愛物語です ※高校の授業の内容を覚えていないので適当です

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

処理中です...