懐いていた後輩はどうやら俺のことが好きらしい

光野凜

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第6章

合宿3日目

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 ドンッ――。

 鋭い音が体育館に響いて、高良のスパイクが綺麗に相手コートへと突き刺さる。

 白球が床を弾む音のあと、チームのあちこちから歓声が上がった。

「ナイスー!」

「今の最高!」

 みんなが駆け寄り、手のひらを打ち鳴らす。
 高良は少し照れくさそうに笑って、みんなと順番にハイタッチを交わした。

 監督も腕を組んだまま、満足げに頷いている。

「おーおー、絶好調じゃん」

 陽稀が隣で笑いながら声をかける。

「調子、戻ったみたいだな」

 俺も自然と笑っていた。昨日とはまるで別人のようだ。

 そのときだった。

 高良がふとこちらを向いて、目が合った。

 一瞬だけ。けれど、確かに。

 その笑顔はまっすぐで、あの夜のぬくもりが一気に蘇る。

 ――体育館前の、月明かりの下。

『少しだけ抱きしめていいですか』

 そう言って俺を包んだ腕の感触。

 近すぎた距離。息がかかるほどの静けさ。

 思い出した瞬間、心臓が跳ねた。

 なんで今、そんなことを。

「湊? どうした、顔赤くね?」

 陽稀の声に我に返る。

「......うるさい」

 小さく言い返して、視線をコートへ戻した。
 高良はまだ、チームメイトと笑っている。

 その笑顔を見ているだけで、胸の奥が妙に熱くなった。

 3日目、午前で練習が終わるころ、全員の体は限界に近かった。
 腕も足も重い。だけど、誰ひとり声を抜かない。

 監督の「よし、今日はここまで!」の声が響くと、体育館のあちこちで安堵と疲労の息が混ざり合った。

 そのあと、静かに監督が名簿を手にした。

 いよいよ、地区予選に向けたメンバー発表だ。

「この3日間よく頑張った。今から地区予選でのメンバーを発表する」

 その監督の言葉に空気が一気に張りつめる。できることは自分を信じて立つだけだ。

「まず、一番――湊」

 監督から呼ばれた自分の名前。胸の奥がじんと熱くなりながら、差し出されたユニフォームを両手で受け取った。

 渡されたユニフォームには、背番号〈1〉の文字。

 手に取った瞬間、その重みがずしりと伝わってくる。

「二番、三番......」

 次々に名前が読み上げられ、陽稀も呼ばれる。

 「よっしゃ!」と笑顔で拳を上げる陽稀に、思わず笑みがこぼれた。

 名前が次々と呼ばれていき、やがて静けさが訪れる。

 残るはあと一人。

「......最後に、一年――高良」

「っ......!」

 高良が勢いよく顔を上げた。

 ぱっと花が咲くみたいに、表情が明るくなる。

 握りしめた拳が小刻みに震えて、その目が、いつもよりずっとまっすぐで、強かった。

「ありがとうございます!」

 声が少し裏返って、みんなの笑いが起きる。でも誰も馬鹿にはしてなかった。

 むしろ、その喜びが真っすぐ伝わってきて、胸がじんと熱くなる。

 こいつが、1年で――。

「やったな高良!」

「マジかよ!」

 1年の仲間たちが肩を叩き合う。

「期待してるぞ」

 監督の言葉に高良は深く頷き、ぎゅっと胸にユニフォームを抱きしめた。

 その姿を見た瞬間、心の奥で何かがあたたかくなった。

 けれど、振り返れば、三年の何人かが静かに俯いていた。

 歯を食いしばる音が聞こえた気がした。

 俺たちは、選ばれなかった仲間の分まで戦わなきゃいけない。

 誰よりも練習して、誰よりも声を出して、結果を残す。

 そうじゃなきゃ、このユニフォームの“重み”に顔向けできない。

 その時、高良がこっちを見た。

 目が合って、あの嬉しそうな笑みを向けてくる。

 なんでだろう。

 ただ“嬉しい”だけじゃない、何かが胸の奥でざわめいた。

 外に出ると、真昼の空がやけに眩しかった。
 グラウンドの土の匂い、汗の匂い。

 全部が“夏のはじまり”を告げていた。

 高良がとなりで、少し照れたように笑った。

「頑張りましょうね、先輩」

 その声に、俺も自然と笑って返した。

 ――最後の夏が、始まる。
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