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2話
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俺は自分の少ない荷物を持って、街の大広場、噴水前に立っていた。
この三日間、俺は相変わらず金食い虫と呼ばれ続けたが、ムチで叩かれる事は無かった。仮にも嫁に行く身、と言う事で傷があったら婚約破棄─と、呼んでいいんだろうか─をされると怯えたのだろう。
父が『気に入られる為』に手紙で「ミーナではなく、ガードが行く。ガードは王子に心酔している」というニュアンスの連絡はしたらしく、昨日返事が来て「それならば、こちらから迎えに行くので大広場の噴水前で待ち合わせしましょう」ということになったらしい。
「俺達はミーナの特訓の為行けない、と伝えてあるからお前だけ行け。もう二度と戻ってくるなよ」
「え~、お父様きびしい~!私が再婚したらガードどこ行くの?ふふ、どこも行けないよね?野垂れ死に?」
「それで良いのですよ、帰ってきても居場所は無いと思いなさい。まあ、使用人としてなら雇ってあげてもよろしいですよ」
「だって!私とはもう顔合わせなくなるかなぁ、気まずいもんね?永遠の別れだねー!あ、再婚の時に会うかな?ねぇねぇっ!」
変に興奮している姉に身体を揺さぶられ、少しだけイライラとしたが、もう時間になるので向かわなければならない。
「……それじゃ時間なんで、じゃあ」
そういって、屋敷で別れた。好きに言ってろ、俺はどう転んでもお前らと、二度と顔を合わせることはない。と、心の中であざ笑って別れてきた。最高の気分だった。
この神が与えてくれたチャンスを、逃す訳には行かない。一応作戦はたてた、殺される場合は逃げる。再婚したらどこか遠い国へ行く。ざっくりとした作戦だが、人生なのでこれくらいがいい。
とりあえず、アヤブカレ王国へ行かないと話が進まないので、迎えを待つ。久しぶりに満足に昼飯を食った─身なりを整える為、最低限自分が稼いだ分を使ってもいい許可を貰ったので、簡単に服を揃え、髪を少し切りそろえ、昼食も食べてきた─ので、あまり辛くはないが、待ち合わせの時間から数分遅れている。
意外と時間にルーズなのだろうか?なんて考えていると、大広場に豪華できらびやかな馬車が入ってきた。正直、人生で見たことが無いぐらい綺麗だった。
帽子を被った御者がキョロキョロと周りを見渡している、道にでも迷ったのだろうか。
ある程度この街には詳しいので、助けてやろうと近づき、話しかける。
「おい、どこに行きたいんだ?」
「え、あ……その、あの……」
「落ち着け、確かに顔はアレだけど……道案内ぐらいで、金を取ろうとは思わねぇよ」
「あ、あはは……じゃあ、その、場所じゃないんですけど……この大広場にガード・シャンネラ様という方は居ますか?男性の方らしいのですが……」
「ガード・シャンネラ……は、俺だけど」
「え!」
びっくりしたのか御者は、眼深に被っていた帽子を手で持ち上げ、俺の顔をジロジロと見ていた。
よく見ると、後ろの方にもぞもぞと動く尻尾があり、ネズミのようだ。……ってことは、こいつが迎えか!と、脳が理解した。帽子は耳を隠すためだろうか。ちょこちょこ動くのを直している。
「お、おお……!思ったより怖い顔していらっしゃるんですね。確かに誤解されやすい顔とは、書いてあったけど……」
「悪かったな……」
「いえいえ!失礼しました。王子の好みです!今扉を開けますので、しばしお待ちください!」
王子の好み、というフォローはどうなんだろう。どう考えても好みじゃないだろ。この顔は。
正直、髪の毛も相まって─切るときに、長めのツーブロックを選択してきた─相当に悪いやつに見えなくもないのだが……
軽やかに席から降り、馬車の扉を開けて、手を差し出してくれる。
「足元が危ないので、お手をどうぞ。段差と、頭にお気をつけくださいね」
「……わざわざありがとうございます」
「敬語へ直さなくて結構!妃になる方に敬語を使われては、恐れ多い。先程のように、お気軽にお話しかけ下さい」
転ぶのは格好悪いので、手を借りて馬車に乗り込む。思ったよりもふかふかの椅子で、座り心地がいい。中も程よくきらびやかで、目が疲れない。広さも一人なら悪くない、正直、これくらいの狭さの部屋に住んでいたが、ここなら幸せだった。きれいで、明るく、ふかふかのベット─椅子だけど─俺の部屋とは正反対だった。もう戻ることの無い部屋を考えていると、荷物を御者が入れてくれる。
「あ、ごめんなさ……ごめん。忘れてた」
「いえいえ、お疲れでしょうし、これくらいやらせてください。あ、お眠りになる場合はカーテンを締めるほうがおすすめですよ。外はご結婚のお祝いをしているのか、雲一つ無い晴天ですから」
「お、おぉ……ありがと……」
至りつくせりで、ムズムズとしながら、扉が閉められたあと、カーテンを閉じる。確かに少し暗くなった。少ししてからガタガタと揺れ始めるが、なんだか疲れているのか、ウトウトとしてくる。
身体がでかいので縮めながらになってしまうが、横になるとふかふかの椅子が、最高のベッドになる。こんな布団で寝た事なんて、無い……柔らかいし、なんだかいいにおいがするし………あった……かい……
□◇□◇□◇□
いつの間にか眠っていたようで、御者に優しく起こされる。
「ぐっすりおやすみでしたね、申し訳ないですけど……到着しましたよ」
「ん、んん……ありが、と……」
少し眩しい日差しを浴び、手を借りて馬車から降りると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
この三日間、俺は相変わらず金食い虫と呼ばれ続けたが、ムチで叩かれる事は無かった。仮にも嫁に行く身、と言う事で傷があったら婚約破棄─と、呼んでいいんだろうか─をされると怯えたのだろう。
父が『気に入られる為』に手紙で「ミーナではなく、ガードが行く。ガードは王子に心酔している」というニュアンスの連絡はしたらしく、昨日返事が来て「それならば、こちらから迎えに行くので大広場の噴水前で待ち合わせしましょう」ということになったらしい。
「俺達はミーナの特訓の為行けない、と伝えてあるからお前だけ行け。もう二度と戻ってくるなよ」
「え~、お父様きびしい~!私が再婚したらガードどこ行くの?ふふ、どこも行けないよね?野垂れ死に?」
「それで良いのですよ、帰ってきても居場所は無いと思いなさい。まあ、使用人としてなら雇ってあげてもよろしいですよ」
「だって!私とはもう顔合わせなくなるかなぁ、気まずいもんね?永遠の別れだねー!あ、再婚の時に会うかな?ねぇねぇっ!」
変に興奮している姉に身体を揺さぶられ、少しだけイライラとしたが、もう時間になるので向かわなければならない。
「……それじゃ時間なんで、じゃあ」
そういって、屋敷で別れた。好きに言ってろ、俺はどう転んでもお前らと、二度と顔を合わせることはない。と、心の中であざ笑って別れてきた。最高の気分だった。
この神が与えてくれたチャンスを、逃す訳には行かない。一応作戦はたてた、殺される場合は逃げる。再婚したらどこか遠い国へ行く。ざっくりとした作戦だが、人生なのでこれくらいがいい。
とりあえず、アヤブカレ王国へ行かないと話が進まないので、迎えを待つ。久しぶりに満足に昼飯を食った─身なりを整える為、最低限自分が稼いだ分を使ってもいい許可を貰ったので、簡単に服を揃え、髪を少し切りそろえ、昼食も食べてきた─ので、あまり辛くはないが、待ち合わせの時間から数分遅れている。
意外と時間にルーズなのだろうか?なんて考えていると、大広場に豪華できらびやかな馬車が入ってきた。正直、人生で見たことが無いぐらい綺麗だった。
帽子を被った御者がキョロキョロと周りを見渡している、道にでも迷ったのだろうか。
ある程度この街には詳しいので、助けてやろうと近づき、話しかける。
「おい、どこに行きたいんだ?」
「え、あ……その、あの……」
「落ち着け、確かに顔はアレだけど……道案内ぐらいで、金を取ろうとは思わねぇよ」
「あ、あはは……じゃあ、その、場所じゃないんですけど……この大広場にガード・シャンネラ様という方は居ますか?男性の方らしいのですが……」
「ガード・シャンネラ……は、俺だけど」
「え!」
びっくりしたのか御者は、眼深に被っていた帽子を手で持ち上げ、俺の顔をジロジロと見ていた。
よく見ると、後ろの方にもぞもぞと動く尻尾があり、ネズミのようだ。……ってことは、こいつが迎えか!と、脳が理解した。帽子は耳を隠すためだろうか。ちょこちょこ動くのを直している。
「お、おお……!思ったより怖い顔していらっしゃるんですね。確かに誤解されやすい顔とは、書いてあったけど……」
「悪かったな……」
「いえいえ!失礼しました。王子の好みです!今扉を開けますので、しばしお待ちください!」
王子の好み、というフォローはどうなんだろう。どう考えても好みじゃないだろ。この顔は。
正直、髪の毛も相まって─切るときに、長めのツーブロックを選択してきた─相当に悪いやつに見えなくもないのだが……
軽やかに席から降り、馬車の扉を開けて、手を差し出してくれる。
「足元が危ないので、お手をどうぞ。段差と、頭にお気をつけくださいね」
「……わざわざありがとうございます」
「敬語へ直さなくて結構!妃になる方に敬語を使われては、恐れ多い。先程のように、お気軽にお話しかけ下さい」
転ぶのは格好悪いので、手を借りて馬車に乗り込む。思ったよりもふかふかの椅子で、座り心地がいい。中も程よくきらびやかで、目が疲れない。広さも一人なら悪くない、正直、これくらいの狭さの部屋に住んでいたが、ここなら幸せだった。きれいで、明るく、ふかふかのベット─椅子だけど─俺の部屋とは正反対だった。もう戻ることの無い部屋を考えていると、荷物を御者が入れてくれる。
「あ、ごめんなさ……ごめん。忘れてた」
「いえいえ、お疲れでしょうし、これくらいやらせてください。あ、お眠りになる場合はカーテンを締めるほうがおすすめですよ。外はご結婚のお祝いをしているのか、雲一つ無い晴天ですから」
「お、おぉ……ありがと……」
至りつくせりで、ムズムズとしながら、扉が閉められたあと、カーテンを閉じる。確かに少し暗くなった。少ししてからガタガタと揺れ始めるが、なんだか疲れているのか、ウトウトとしてくる。
身体がでかいので縮めながらになってしまうが、横になるとふかふかの椅子が、最高のベッドになる。こんな布団で寝た事なんて、無い……柔らかいし、なんだかいいにおいがするし………あった……かい……
□◇□◇□◇□
いつの間にか眠っていたようで、御者に優しく起こされる。
「ぐっすりおやすみでしたね、申し訳ないですけど……到着しましたよ」
「ん、んん……ありが、と……」
少し眩しい日差しを浴び、手を借りて馬車から降りると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
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