姉の代わりに嫁いだけど、可愛いうさぎの王子に溺愛されるなんて聞いてない─欠点は性欲が強すぎる所だけ─

無能歌

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4話

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 そこには、一人の少年がいた。
 
 白くふわふわとした、癖っ気のあるショートヘアーに、柔らかい円のした赤い瞳。それに合わせて柔らかく曲がる白いまつげ、白い肌。服も白を基調とした上着に、短い赤ベスト。に、緑色のネクタイ。下は白短パンに白靴下、白いローファーといういで立ちで、頭にはとても長く大きい、ふわふわとした真っ白な、うさぎの耳が垂れていた。
 
 「……こんにちは、ガード・シャンネラ。僕の名前はアンヌ。君の……夫になる者です。遠い所、よく来てくれました」
 「こ、こんにちは……」
 
 予想していたのと、全然違う。酷く恐ろしいという噂は、まるっきり違ったようだ。ただ、人を食う、殺すの判断はできないが……正直、するように見えない。
 ペコリ、と頭を下げあった後、彼は、はにかんだ笑顔で笑う。

「へへ、敬語って……なんだか緊張しちゃうね」

 なんて言って、恥ずかしそうに頬を掻いている。
 第一印象は、ただのうさぎの獣人で、可愛らしい少年。本当に噂のアンヌ王子……なのだろうか。いくら姿を見せないという理由で、尾びれがついているとしても、つきすぎてないか?
 考え込んでいると、何故かじっと顔を見つめられていることに気が付き、少し気まずくなる。

 どうすればいいのかわからず、立ちつくしていると、はっ、とした顔をして、アンヌ王子が近づいてきた。
 
 「ごめんね、すごくきれいで……やっぱりブーケのセンスは最高だな。彼に頼んでよかった……」
 
 たしかに全てブーケが選んで着せて、をしてくれたものなので、反論はない。けど、綺麗では……いや、服を褒めたのだろうか。
 これ以上近づくのもどうしたものか。と少し警戒していると、柔らかく微笑みながら、手を差し出された。
 
 「もしよければ、婚姻の書類を書くまでは時間があるから……一緒に、城の中を見ない?今日からここに住むことになる訳だし」
 
 少し照れくさそうにしつつ、はにかむ姿に少しドキリ、と心臓が動いた。本当に、本当にこの子がアンヌ王子で、俺は……妻、妃?になるのか。そう考えると、この手を握らないのは失礼に当たるだろう。なんて思い、そっと手を握るが、少し強張っているのが分かったのか、急いで説明を付け足し始めた。
 
 「あ、取って食べたりとかしないから!僕、仮にも獣人だし、人だし。うさぎは草食……って、言ってもお肉もお魚も食べるけど……ってあぁ、ちがう!その、人間は食べないから!お肉好きだけど!」
 
 わたわたと弁明する姿が愛らしく、こんなにも緊張している自分が馬鹿らしくなってしまった。ぷっ、と吹き出してしまい、挙句には声を上げて笑ってしまった。
 しまった、失礼な事だった。と急いで取り繕うとアンヌ王子の方へ顔を向けると、目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに笑っていた。
 
「な、なんでそんな嬉しそうなんですか……?」

 そう言うと、キラキラとした目が少し寂しそうな顔に変わる。が、すぐににこやかな笑顔になる。

 「えへへ、やっと笑ってくれた!と思って。やっぱり、ガード……クンは、笑顔が素敵だね。あ、普通の顔も素敵だけど……より一層って意味で!」
 「……っ!そんな、素敵素敵って、言わないで……下さい……」
 
 恥ずかしさで顔が熱いのがわかる、見ればわかるほど染まってないと嬉しい……と思っていたが、その願いはあっけなく破れた。
 
 「じゃあ……かわいいは良い?かわいいよ、真っ赤な所も……その敬語も。でも……使わないでほしいな。僕のお嫁さんになるし、気軽にアンヌって呼んでほしいし、気さくに話してほしい」
 
 そう言って、手を両手で握り、瞳を見つめてくる。
 大きな赤色の瞳が、俺を写し出す。赤いのは恥ずかしいからか、この綺麗な瞳の色か。
 
 「か、かわいいも良くない!敬語は使わなく、するけど……」
 
 口を尖らして、少し拗ねた顔をすると、また嬉しそうに笑う。
 
 「へへ、もっとかわいいって言っていい?僕の事もかわいいって言っていいから」
 「なんでだよ!駄目に決まってるだろ」
 「僕は許したのに、いじわるだなぁ~!……ふふふ。怒ってる顔もかわいいよ」
 
 恥ずかしいことばかり投げ掛けてくるので、軽く喧嘩しつつ話していると、アンヌが移動し始めるので、自然とついていく形になる。多分、城の中を回るのだと思う。
 
 「ほら、そんなに怒ってないで、ね?あ、ここが社交ダンスする所で、あっちが~」
 
 怒らせてるのはどこのどいつなんだ、と、一瞬思ったが城の説明は聞いておいたほうがいい。仮にも数日過ごす─この様子だと、確実にミーナからの再婚の申込みが来る─場所なので、ガッツリとしたところは覚えなくてもいいが、トイレや風呂、食事場などは覚えておかないといけない。
 
 
 □◇□◇□◇□
 
 
 ある程度説明を聞き、見終わる─まだまだあるらしいが、ほとんど同じか、ほぼ使わないらしい─とひとつの大きな部屋へと通される。
 
 「ここが普段の君の部屋。僕の隣の部屋で……その、寝室だけ一緒なんだ。一応……夫婦になるから」
 
 頬を染めながら説明をするアンヌに納得した。夜は一緒ということは、そうか。夜の方も求められ……ん?
 
 「あれ。待てよ?俺は男だけど……本当にいいのか?子供できないぞ」
 
 いくら数日の仲と言っても、相手は俺を本当に妻として扱ってくれるのだろう。それはありがたい事だが、精子の無駄な事はしたくないのでは無いか?仮にも王家の人間だし、大切な子種のはずだ。
 そう伝えると、丸い目を一層丸くしてぱちぱちと、白いまつげを瞬く。
 
 「……あれ?ブーケから説明聞いてない?」
 「聞いてない、と思う。この数日間の日程みたいなのは聞いたけど」
 
 そういうと、まんまるな目の顔から、真顔に戻り、すぐに微笑み、この国の、というか獣人の説明をしてくれた。
 
 「獣人は男女の区別が無いというか、男性器を持ってる人しかいないんだよ」
 「……?どうやって子供宿すんだ?」
 「えーと、女性役の人のお尻に、男性役の人が精子を出すと、確率で身ごもるんだ。身ごもった時は、子宮が形成されて、自然とお腹が膨らむよ」
 「すごい話だな……って、俺は出来る、ってことか?」
 「うん、人間の女性は子宮があるから、普通にできるし……男性も、獣人との性行為上は、男性役にはなれないけど……女性役の場合は大丈夫だったみたい。そういう日記があってね。獣人の精子にそういう機能があるから、受け身ならで、き……」
 
 そこまで言うと、いきなり顔を真っ赤にして黙ってしまった。
 どうした?と、問いかけると顔が真っ赤のまま、しどろもどろで説明をしてくる。
 
 「う、そ、その……ご、ごめん、ちょっと、その事考えたら恥ずかしくなっちゃって……」
 「そのこと?」
 「き、君と……するのかなって考えたら……」
 
 そこまで言われて、気がつく。た、確かに……いや、再婚の申込みが確実に来る。多分それまでにしないと……思う。
 しかし、もしすることになったら。いや、そうか、そうだよな。婚約した初夜なら……ありえる。と考えて、俺もつい顔が赤くなる。抱く事さえ経験したことが無いのに、抱かれるのか。

 二人で顔を真っ赤にしていると、少し遠い所から聞き慣れた声が聞こえた。
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