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第2章:泥を啜る夜
第3話:夜を分かつ体温
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「……ん、あ、っ……!」
首筋に走る鈍い痛みと、熱い舌の感触。
エルリエルは、自分を押し潰さんばかりのベルフェの重みに翻弄されていた。
手首を縛る指先は鉄のように固く、逃げることさえ許されない。
「……嫌か? 聖人様。こんな汚ねえ男に触られて、天界の誇りが汚されるのはさぞかし屈辱だろうな」
ベルフェが首筋から口を離し、獰猛に笑いながら問いかける。
その瞳は、エルリエルの拒絶を待っているようでもあり、同時に、自分と同じ泥の中に堕ちてくることを渇望しているようでもあった。
「……っ、屈辱など……っ、ああ、ふ、あ……!」
言いかけた言葉は、衣服の上から胸元を強く愛撫された衝撃で霧散した。
エルリエルの身体が大きく跳ね、弓なりに撓む。
天界での彼は、常に清潔で、静謐で、誰からも触れられない「象徴」だった。
けれど今、この薄暗い廃屋で、かつて自分が断罪した男によって、獣のように剥き出しにされている。
「見ろよ。……あんたのその高潔な身体が、俺に触られてこんなに熱くなってやがる」
「違う……。これは、……はぁ、っ……」
「違わねえよ。あんたは今、俺なしじゃまともに息もできてねえ」
ベルフェは荒々しくエルリエルの衣服を剥ぎ取った。
露わになった白い肌に、月明かりが冷たく差し込む。
翼を捥がれた跡――まだ赤みの残るその傷跡に、ベルフェが優しく、けれど壊れ物を愛でるような執拗さで口づけた。
「……あ……やめ、て……。そこは……」
「痛いか? それとも、気持ちいいか? ……刻み込んでやるよ。あんたを汚し、あんたを絶望させて、あんたを飼い殺すのは、この俺だってことをな」
ベルフェの指が、エルリエルの内腿をなぞり、秘められた熱へと潜り込む。
天界の冷酷な光の下では決して知ることのなかった、内側から溶け出すような快楽。
エルリエルは、羞恥と快感の波に呑まれ、涙に濡れた瞳でベルフェを見上げた。
「……ベルフェ、……あ……、もっと、……もっと、私を……」
自分でも信じられない言葉が、喉から溢れ出した。
復讐されているはずなのに、汚されているはずなのに。
ベルフェに触れられ、その熱を分け与えられるたびに、エルリエルの心は不思議と満たされていく。
(ああ、私は……。この男に、もっと深く壊されたいと思っているのか)
ベルフェの瞳に、一瞬だけ、激しい情愛のような色が走った。
彼はエルリエルの手首を固定していた手を解き、その代わりに、エルリエルの指を自分の手に絡ませ、十指を固く繋ぎ合わせた。
「……二度と、逃さねえ。地獄の底まで、俺の隣で堕ちろ……エルリエル」
互いの名前を呼ぶ声が、重なり合う体温の中で溶けていく。
それは復讐という名の、あまりにも切実な、二人だけの夜の始まりだった。
首筋に走る鈍い痛みと、熱い舌の感触。
エルリエルは、自分を押し潰さんばかりのベルフェの重みに翻弄されていた。
手首を縛る指先は鉄のように固く、逃げることさえ許されない。
「……嫌か? 聖人様。こんな汚ねえ男に触られて、天界の誇りが汚されるのはさぞかし屈辱だろうな」
ベルフェが首筋から口を離し、獰猛に笑いながら問いかける。
その瞳は、エルリエルの拒絶を待っているようでもあり、同時に、自分と同じ泥の中に堕ちてくることを渇望しているようでもあった。
「……っ、屈辱など……っ、ああ、ふ、あ……!」
言いかけた言葉は、衣服の上から胸元を強く愛撫された衝撃で霧散した。
エルリエルの身体が大きく跳ね、弓なりに撓む。
天界での彼は、常に清潔で、静謐で、誰からも触れられない「象徴」だった。
けれど今、この薄暗い廃屋で、かつて自分が断罪した男によって、獣のように剥き出しにされている。
「見ろよ。……あんたのその高潔な身体が、俺に触られてこんなに熱くなってやがる」
「違う……。これは、……はぁ、っ……」
「違わねえよ。あんたは今、俺なしじゃまともに息もできてねえ」
ベルフェは荒々しくエルリエルの衣服を剥ぎ取った。
露わになった白い肌に、月明かりが冷たく差し込む。
翼を捥がれた跡――まだ赤みの残るその傷跡に、ベルフェが優しく、けれど壊れ物を愛でるような執拗さで口づけた。
「……あ……やめ、て……。そこは……」
「痛いか? それとも、気持ちいいか? ……刻み込んでやるよ。あんたを汚し、あんたを絶望させて、あんたを飼い殺すのは、この俺だってことをな」
ベルフェの指が、エルリエルの内腿をなぞり、秘められた熱へと潜り込む。
天界の冷酷な光の下では決して知ることのなかった、内側から溶け出すような快楽。
エルリエルは、羞恥と快感の波に呑まれ、涙に濡れた瞳でベルフェを見上げた。
「……ベルフェ、……あ……、もっと、……もっと、私を……」
自分でも信じられない言葉が、喉から溢れ出した。
復讐されているはずなのに、汚されているはずなのに。
ベルフェに触れられ、その熱を分け与えられるたびに、エルリエルの心は不思議と満たされていく。
(ああ、私は……。この男に、もっと深く壊されたいと思っているのか)
ベルフェの瞳に、一瞬だけ、激しい情愛のような色が走った。
彼はエルリエルの手首を固定していた手を解き、その代わりに、エルリエルの指を自分の手に絡ませ、十指を固く繋ぎ合わせた。
「……二度と、逃さねえ。地獄の底まで、俺の隣で堕ちろ……エルリエル」
互いの名前を呼ぶ声が、重なり合う体温の中で溶けていく。
それは復讐という名の、あまりにも切実な、二人だけの夜の始まりだった。
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