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第2章:泥を啜る夜
第2話:剥落する理性
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数日が過ぎ、ベルフェの驚異的な生命力は、その深い傷を急速に塞いでいった。
しかし、傷が癒えるのと引き換えに、彼が纏う空気は以前よりも刺々しく、そして濃密な色気を孕むようになっていた。
「おい。いつまでそんな顔をしてる。……飯だ」
ベルフェが投げ出したのは、彼がどこかで調達してきた野生の果実と、硬いパンだった。
廃屋の隅で膝を抱えていたエルリエルは、力なく顔を上げる。翼を失った背中の傷は癒えたが、代わりにそこにあったはずの重みが消えた喪失感は、今も彼を苛んでいる。
「……食欲がないんだ」
「はっ、贅沢を言うなよ。天界の『霞』でも食っていたいか? ……それとも、俺に食わせてほしいのか?」
ベルフェが床に座り込み、エルリエルの顎を指先でクイと持ち上げた。
至近距離で見つめ合う。
ベルフェの瞳には、飢えた獣のような光が宿っている。それは暴力的な衝動というよりは、もっと深い場所にある「渇き」だった。
「……ベルフェ。君は、私をどうしたいんだ」
エルリエルの問いに、ベルフェの指先がピクリと動く。
彼は嘲笑うような笑みを浮かべ、エルリエルの首筋にゆっくりと指を滑らせた。
「言っただろ。なぶり尽くして、俺の気が済むまで弄ぶって。……あんたを一人じゃ何もできない無力な存在にして、俺の籠の中に繋ぎ止めておくんだ」
男の言葉は、冷酷な宣告だった。
エルリエルはその言葉を聞きながら、かつて自分がこの男に下した「追放」という名の断罪を思い出し、深く目を閉じた。
「……そうか。それがベルフェの望みなら、好きにすればいい。私が君にしたことを考えれば、当然の報いだ」
「報い、だァ……?」
エルリエルが諦めたように吐いた「罪を認める言葉」
その無機質な潔さが、ベルフェの中にあったどろりとした感情を逆撫でした。
「――ふざけるな。分かったような顔をしてんじゃねえ!!」
ベルフェがエルリエルを床に押し倒した。
激しい音と共に、廃屋の埃が舞う。エルリエルの両手首はベルフェの片手で頭上に固定され、逃げ場を塞がれた。
「何も知らないくせに、知ったような口を利くな……! あんたは、あの時も今も、そうやって勝手に一人で完結してやがる。あんなクソ汚い天界で、綺麗事だけを並べて生きてたあんたが……っ!」
ベルフェの呼吸が荒く、エルリエルの顔にかかる。
怒りに燃える瞳。だが、その瞳に映るエルリエルを見つめる熱量は、単なる憎悪にしてはあまりにも強すぎた。
「……勝手に償った気になるな。あんたの身体も心も、全部俺がズタズタに引き裂いて、俺なしじゃ息もできなくしてやる……」
ベルフェの顔が近づく。
唇が重なる直前、ベルフェは獣のような唸り声を上げ、エルリエルの首筋に深く、噛み付くように口づけた。
「……あ、っ……」
痛みが走る。けれど、その後に続く熱い舌の感触と、自分を押し潰さんばかりの男の重みが、エルリエルの中にあった「聖人」としての最後の一欠片を溶かしていった。
不浄。背徳。堕落。
天界で禁じられていた言葉たちが、今は甘い蜜のような響きを持って、エルリエルの全身を駆け巡る。
しかし、傷が癒えるのと引き換えに、彼が纏う空気は以前よりも刺々しく、そして濃密な色気を孕むようになっていた。
「おい。いつまでそんな顔をしてる。……飯だ」
ベルフェが投げ出したのは、彼がどこかで調達してきた野生の果実と、硬いパンだった。
廃屋の隅で膝を抱えていたエルリエルは、力なく顔を上げる。翼を失った背中の傷は癒えたが、代わりにそこにあったはずの重みが消えた喪失感は、今も彼を苛んでいる。
「……食欲がないんだ」
「はっ、贅沢を言うなよ。天界の『霞』でも食っていたいか? ……それとも、俺に食わせてほしいのか?」
ベルフェが床に座り込み、エルリエルの顎を指先でクイと持ち上げた。
至近距離で見つめ合う。
ベルフェの瞳には、飢えた獣のような光が宿っている。それは暴力的な衝動というよりは、もっと深い場所にある「渇き」だった。
「……ベルフェ。君は、私をどうしたいんだ」
エルリエルの問いに、ベルフェの指先がピクリと動く。
彼は嘲笑うような笑みを浮かべ、エルリエルの首筋にゆっくりと指を滑らせた。
「言っただろ。なぶり尽くして、俺の気が済むまで弄ぶって。……あんたを一人じゃ何もできない無力な存在にして、俺の籠の中に繋ぎ止めておくんだ」
男の言葉は、冷酷な宣告だった。
エルリエルはその言葉を聞きながら、かつて自分がこの男に下した「追放」という名の断罪を思い出し、深く目を閉じた。
「……そうか。それがベルフェの望みなら、好きにすればいい。私が君にしたことを考えれば、当然の報いだ」
「報い、だァ……?」
エルリエルが諦めたように吐いた「罪を認める言葉」
その無機質な潔さが、ベルフェの中にあったどろりとした感情を逆撫でした。
「――ふざけるな。分かったような顔をしてんじゃねえ!!」
ベルフェがエルリエルを床に押し倒した。
激しい音と共に、廃屋の埃が舞う。エルリエルの両手首はベルフェの片手で頭上に固定され、逃げ場を塞がれた。
「何も知らないくせに、知ったような口を利くな……! あんたは、あの時も今も、そうやって勝手に一人で完結してやがる。あんなクソ汚い天界で、綺麗事だけを並べて生きてたあんたが……っ!」
ベルフェの呼吸が荒く、エルリエルの顔にかかる。
怒りに燃える瞳。だが、その瞳に映るエルリエルを見つめる熱量は、単なる憎悪にしてはあまりにも強すぎた。
「……勝手に償った気になるな。あんたの身体も心も、全部俺がズタズタに引き裂いて、俺なしじゃ息もできなくしてやる……」
ベルフェの顔が近づく。
唇が重なる直前、ベルフェは獣のような唸り声を上げ、エルリエルの首筋に深く、噛み付くように口づけた。
「……あ、っ……」
痛みが走る。けれど、その後に続く熱い舌の感触と、自分を押し潰さんばかりの男の重みが、エルリエルの中にあった「聖人」としての最後の一欠片を溶かしていった。
不浄。背徳。堕落。
天界で禁じられていた言葉たちが、今は甘い蜜のような響きを持って、エルリエルの全身を駆け巡る。
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