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第3章:沈黙の揺り籠
第4話:氷解する嘘※
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「……黙れ、黙れよ……ッ」
ベルフェの声は、絞り出すような喘ぎに似ていた。
床に落ちた、あの日の飾り紐。それを「大切にしていた」と指摘されたことが、彼にとってはどんな罵倒よりも深く、彼の自尊心を切り裂いた。
「恨みを忘れないためだと言っただろ……! あんたをなぶり尽くすために、その苦しみを……っ」
「……なら、今ここで燃やせばいい、ベルフェ。君が本当に私を憎んでいるだけなら」
エルリエルの静かな言葉が、ベルフェの逃げ場を完全に奪う。
ベルフェは喉の奥で獣のような唸り声を上げると、エルの胸ぐらを掴んだまま、強引にその唇を塞いだ。
それは、愛を確かめるための口づけではない。
相手の言葉を封じ、自分の正体をこれ以上暴かせないための、暴力的な拒絶の儀式だった。
「……あ、っ……、ん、……っ」
ベルフェは荒々しくエルの服を裂き、床に押し倒した。
冷たい石の床が肌に触れる。けれど、その上に重なるベルフェの体温は、火を吹くように熱い。
「……俺の言うことだけを聞いてりゃいいんだ……。あんたに、俺の心を探らせる権利なんてねえ……っ」
ベルフェはエルの両手首を片手で縛り上げるように固定し、剥き出しの肌を、まるで自分の所有印を刻むように激しく愛撫し、噛み付いた。
エルの身体が快楽と痛みで大きく撓る。
「……ベルフェ、……苦しい、か? 私を、愛していることが……そんなに……っ」
「愛してなんか……ねえッ!!」
ベルフェは叫び、エルの内腿を割り、強引にその熱を割り込ませた。
繋がった瞬間の衝撃に、エルリエルは天を仰いで声を漏らす。
激しいピストンが繰り返されるたび、ベルフェの瞳から零れそうになる「何か」を、エルは見逃さなかった。
この男は今、私を壊しているのではない。
私を抱くことで、自分の中にある「聖人への憧憬」と「捨てられた孤独」を、必死に殺そうとしているのだ。
「……言って、……本当のことを、……ベルフェ……」
エルは自由な方の手を伸ばし、自分を圧し潰すベルフェの濡れた背中に、爪を立てるようにしてしがみついた。
「君は、私をどうしたい……? ただの、復讐の道具だと言い張るのか……?」
「……っ、ああ、そうだ! あんたを汚して、壊して、俺と同じ場所まで……っ」
「嘘だ。……君は、……私が、君を置いていったあの日からずっと…………私を、待っていたんだろう?」
その一言が、ベルフェの動きを完全に止めた。
部屋を支配するのは、重く、激しい二人の呼吸音だけ。
ベルフェはエルの首筋に顔を埋めたまま、ピクリとも動かなくなった。
やがて、エルの肩に温かい滴が落ちる。
「……ふざけんなよ……。……あんたを待つなんて……そんな惨めなこと……」
ベルフェの声が、初めて子供のように震えた。
プライドも、復讐という嘘も、すべてが崩れ落ちた沈黙の中で、彼はようやく、エルリエルの身体を優しく抱きしめ直した。
ベルフェの声は、絞り出すような喘ぎに似ていた。
床に落ちた、あの日の飾り紐。それを「大切にしていた」と指摘されたことが、彼にとってはどんな罵倒よりも深く、彼の自尊心を切り裂いた。
「恨みを忘れないためだと言っただろ……! あんたをなぶり尽くすために、その苦しみを……っ」
「……なら、今ここで燃やせばいい、ベルフェ。君が本当に私を憎んでいるだけなら」
エルリエルの静かな言葉が、ベルフェの逃げ場を完全に奪う。
ベルフェは喉の奥で獣のような唸り声を上げると、エルの胸ぐらを掴んだまま、強引にその唇を塞いだ。
それは、愛を確かめるための口づけではない。
相手の言葉を封じ、自分の正体をこれ以上暴かせないための、暴力的な拒絶の儀式だった。
「……あ、っ……、ん、……っ」
ベルフェは荒々しくエルの服を裂き、床に押し倒した。
冷たい石の床が肌に触れる。けれど、その上に重なるベルフェの体温は、火を吹くように熱い。
「……俺の言うことだけを聞いてりゃいいんだ……。あんたに、俺の心を探らせる権利なんてねえ……っ」
ベルフェはエルの両手首を片手で縛り上げるように固定し、剥き出しの肌を、まるで自分の所有印を刻むように激しく愛撫し、噛み付いた。
エルの身体が快楽と痛みで大きく撓る。
「……ベルフェ、……苦しい、か? 私を、愛していることが……そんなに……っ」
「愛してなんか……ねえッ!!」
ベルフェは叫び、エルの内腿を割り、強引にその熱を割り込ませた。
繋がった瞬間の衝撃に、エルリエルは天を仰いで声を漏らす。
激しいピストンが繰り返されるたび、ベルフェの瞳から零れそうになる「何か」を、エルは見逃さなかった。
この男は今、私を壊しているのではない。
私を抱くことで、自分の中にある「聖人への憧憬」と「捨てられた孤独」を、必死に殺そうとしているのだ。
「……言って、……本当のことを、……ベルフェ……」
エルは自由な方の手を伸ばし、自分を圧し潰すベルフェの濡れた背中に、爪を立てるようにしてしがみついた。
「君は、私をどうしたい……? ただの、復讐の道具だと言い張るのか……?」
「……っ、ああ、そうだ! あんたを汚して、壊して、俺と同じ場所まで……っ」
「嘘だ。……君は、……私が、君を置いていったあの日からずっと…………私を、待っていたんだろう?」
その一言が、ベルフェの動きを完全に止めた。
部屋を支配するのは、重く、激しい二人の呼吸音だけ。
ベルフェはエルの首筋に顔を埋めたまま、ピクリとも動かなくなった。
やがて、エルの肩に温かい滴が落ちる。
「……ふざけんなよ……。……あんたを待つなんて……そんな惨めなこと……」
ベルフェの声が、初めて子供のように震えた。
プライドも、復讐という嘘も、すべてが崩れ落ちた沈黙の中で、彼はようやく、エルリエルの身体を優しく抱きしめ直した。
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