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第4章:境界の楽園
第1話:甘い枷
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館での生活は、これまでとは一変していた。
ベルフェは相変わらずエルリエルを館から出そうとはしなかったが、その態度は支配的な暴力ではなく、窒息するほどの濃密な「過保護」へと変わっていた。
「……ベルフェ、重い。これでは本が読めない」
暖炉の前。ソファに座るエルリエルの膝を枕にし、ベルフェがその腰をがっしりと腕で囲んでいる。
ベルフェは返事の代わりに、エルの腹部に顔を押し付け、その体温を確かめるように深く息を吸い込んだ。
「……黙って撫でてろ。あんたは俺のだろうが」
「……昨夜もそう言って、私を離さなかったじゃないか」
苦笑しながらも、エルリエルはベルフェの漆黒の髪に指を通し、優しく梳いていく。
かつての聖人としての高潔さは、今の彼には微塵も感じられない。その瞳は、自分を囲う「獣」を愛おしむ、ひとりの男の穏やかな光を湛えていた。
ベルフェはエルの手首を引き寄せ、あの日結びつけた「飾り紐」に唇を落とす。
「……あんたの身体、また少し熱くねえか?」
「……ああ。最近、この紋様が疼くんだ」
エルの鎖骨に浮かぶ灰色の紋様。
それは、ベルフェの闇を受け入れたことで、エルの内側に宿った新たな力――あるいは、ベルフェの存在なしでは生きていけなくなる「渇きの徴」だった。
紋様が淡く発光するたび、エルリエルは内側から焼き尽くされるような熱を感じ、無意識にベルフェの肌を求めてしまう。
「……はっ、いい傾向だな。あんたが俺なしじゃ満足できなくなるなんてよ」
ベルフェは意地の悪い笑みを浮かべ、エルの服の襟元を乱暴に引き下げた。
そこには、自分と同じ闇の色を帯び始めた「堕天使」の証が刻まれている。
「いいか、エルリエル。天界の連中には、あんたのこの姿は見せられねえな。……こんなに淫らに俺の色に染まっちまって」
「……誰のせいだと思っているんだ」
エルリエルは熱っぽい吐息を漏らし、ベルフェの肩に手をかけた。
ベルフェの牙が、紋様の上に優しく、けれど逃がさないという確信を持って立てられる。
二人の生活は、外の世界から切り離された、まさに「境界の楽園」。
そこには誰も介在せず、ただ互いの熱だけが真実となる、甘く閉ざされた時間が流れていた。
ベルフェは相変わらずエルリエルを館から出そうとはしなかったが、その態度は支配的な暴力ではなく、窒息するほどの濃密な「過保護」へと変わっていた。
「……ベルフェ、重い。これでは本が読めない」
暖炉の前。ソファに座るエルリエルの膝を枕にし、ベルフェがその腰をがっしりと腕で囲んでいる。
ベルフェは返事の代わりに、エルの腹部に顔を押し付け、その体温を確かめるように深く息を吸い込んだ。
「……黙って撫でてろ。あんたは俺のだろうが」
「……昨夜もそう言って、私を離さなかったじゃないか」
苦笑しながらも、エルリエルはベルフェの漆黒の髪に指を通し、優しく梳いていく。
かつての聖人としての高潔さは、今の彼には微塵も感じられない。その瞳は、自分を囲う「獣」を愛おしむ、ひとりの男の穏やかな光を湛えていた。
ベルフェはエルの手首を引き寄せ、あの日結びつけた「飾り紐」に唇を落とす。
「……あんたの身体、また少し熱くねえか?」
「……ああ。最近、この紋様が疼くんだ」
エルの鎖骨に浮かぶ灰色の紋様。
それは、ベルフェの闇を受け入れたことで、エルの内側に宿った新たな力――あるいは、ベルフェの存在なしでは生きていけなくなる「渇きの徴」だった。
紋様が淡く発光するたび、エルリエルは内側から焼き尽くされるような熱を感じ、無意識にベルフェの肌を求めてしまう。
「……はっ、いい傾向だな。あんたが俺なしじゃ満足できなくなるなんてよ」
ベルフェは意地の悪い笑みを浮かべ、エルの服の襟元を乱暴に引き下げた。
そこには、自分と同じ闇の色を帯び始めた「堕天使」の証が刻まれている。
「いいか、エルリエル。天界の連中には、あんたのこの姿は見せられねえな。……こんなに淫らに俺の色に染まっちまって」
「……誰のせいだと思っているんだ」
エルリエルは熱っぽい吐息を漏らし、ベルフェの肩に手をかけた。
ベルフェの牙が、紋様の上に優しく、けれど逃がさないという確信を持って立てられる。
二人の生活は、外の世界から切り離された、まさに「境界の楽園」。
そこには誰も介在せず、ただ互いの熱だけが真実となる、甘く閉ざされた時間が流れていた。
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