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第4章:境界の楽園
第2話:蝕まれる均衡
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「……っ、あ……、はぁ……っ」
館の寝室に、エルリエルの苦しげな喘ぎが響く。
鎖骨から胸元にかけて広がる灰色の紋様が、毒々しいほどに脈打ち、熱を放っていた。それはもはや単なる「徴」ではなく、エルの内側に残るわずかな聖性を食い潰し、ベルフェの闇で塗り替えようとする侵食そのものだった。
「……エルリエル、しっかりしろ」
ベルフェが背後から抱きしめ、熱を帯びたエルの肌に冷たい手を這わせる。
エルリエルは、その冷たさに縋り付くようにして、ベルフェの腕の中に身体を預けた。
「ベルフェ、……もっと……。君に、触れていないと……意識が、溶けそうなんだ……」
「……はっ、可愛いこと言ってくれるじゃねえか」
ベルフェはそう吐き捨てるが、その瞳には隠しきれない焦燥があった。
エルの「天界の魂」が摩耗している。
光と闇が混ざり合い、新しい「何か」に変わろうとする過程で、エルの身体は極限の負荷に晒されていた。
「いいか、よく聞け。あんたが壊れるのは俺の隣だけだ。……勝手に果てるんじゃねえぞ」
ベルフェはエルの首筋に深く牙を立て、自分の魔力を直接流し込んだ。
紋様の疼きが、ベルフェの闇と混ざり合うことで一時的に鎮まっていく。だが、それは同時に、エルがベルフェの供給なしでは生きていけない身体になることを意味していた。
「……あ、……、……ふ、……」
快楽とも痛みともつかない衝撃に、エルの身体が大きく跳ね、やがて力なく弛緩する。
ベルフェの腕の中で、エルリエルは潤んだ瞳で自分を見下ろす男を見つめた。
「……ねえ、ベルフェ。……私を、もっと……もっと壊して。……君とひとつになれるなら……心が壊れても、構わない……」
かつての気高い聖人の面影はどこにもない。
ただ、自分を愛し、呪い、救ってくれた男への盲目的な依存だけが、今のエルリエルを形作っていた。
ベルフェはその言葉に、ゾッとするような悦びを感じる。
自分のせいで、あの高潔な男がここまで無防備に、無残に堕ちた。
だが、その悦びの裏側で、ベルフェはひとつの冷酷な事実に気づいていた。
このままでは、エルリエルの「個」が消えてしまう。
自分に染まりきった果てに、彼はただの「殻」になってしまうのではないか。
「……勝手なことを言うな。……あんたを壊すのは俺だが、あんたを繋ぎ止めておくのも俺だ」
ベルフェはエルの腰を抱き寄せ、深く、逃がさないように突き上げた。
窓の外では、止まない雨が館を隠し続けている。
二人の世界は、もはや戻ることのできない深淵へと、さらに沈み込んでいった。
館の寝室に、エルリエルの苦しげな喘ぎが響く。
鎖骨から胸元にかけて広がる灰色の紋様が、毒々しいほどに脈打ち、熱を放っていた。それはもはや単なる「徴」ではなく、エルの内側に残るわずかな聖性を食い潰し、ベルフェの闇で塗り替えようとする侵食そのものだった。
「……エルリエル、しっかりしろ」
ベルフェが背後から抱きしめ、熱を帯びたエルの肌に冷たい手を這わせる。
エルリエルは、その冷たさに縋り付くようにして、ベルフェの腕の中に身体を預けた。
「ベルフェ、……もっと……。君に、触れていないと……意識が、溶けそうなんだ……」
「……はっ、可愛いこと言ってくれるじゃねえか」
ベルフェはそう吐き捨てるが、その瞳には隠しきれない焦燥があった。
エルの「天界の魂」が摩耗している。
光と闇が混ざり合い、新しい「何か」に変わろうとする過程で、エルの身体は極限の負荷に晒されていた。
「いいか、よく聞け。あんたが壊れるのは俺の隣だけだ。……勝手に果てるんじゃねえぞ」
ベルフェはエルの首筋に深く牙を立て、自分の魔力を直接流し込んだ。
紋様の疼きが、ベルフェの闇と混ざり合うことで一時的に鎮まっていく。だが、それは同時に、エルがベルフェの供給なしでは生きていけない身体になることを意味していた。
「……あ、……、……ふ、……」
快楽とも痛みともつかない衝撃に、エルの身体が大きく跳ね、やがて力なく弛緩する。
ベルフェの腕の中で、エルリエルは潤んだ瞳で自分を見下ろす男を見つめた。
「……ねえ、ベルフェ。……私を、もっと……もっと壊して。……君とひとつになれるなら……心が壊れても、構わない……」
かつての気高い聖人の面影はどこにもない。
ただ、自分を愛し、呪い、救ってくれた男への盲目的な依存だけが、今のエルリエルを形作っていた。
ベルフェはその言葉に、ゾッとするような悦びを感じる。
自分のせいで、あの高潔な男がここまで無防備に、無残に堕ちた。
だが、その悦びの裏側で、ベルフェはひとつの冷酷な事実に気づいていた。
このままでは、エルリエルの「個」が消えてしまう。
自分に染まりきった果てに、彼はただの「殻」になってしまうのではないか。
「……勝手なことを言うな。……あんたを壊すのは俺だが、あんたを繋ぎ止めておくのも俺だ」
ベルフェはエルの腰を抱き寄せ、深く、逃がさないように突き上げた。
窓の外では、止まない雨が館を隠し続けている。
二人の世界は、もはや戻ることのできない深淵へと、さらに沈み込んでいった。
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