白羽の檻、黒翼の導き

篠雨

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第4章:境界の楽園

第3話:禁忌の代償

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ベルフェが館の書庫に籠もる時間が増えていた。

エルの身体を蝕む「灰色の紋様」は、日に日にその範囲を広げ、エルの呼吸を浅くさせている。

「……見つけたぞ」

ベルフェが埃まみれの古書を叩きつけた。そこには、堕ちた高位存在の魂を、地上の肉体に繋ぎ止めるための禁忌の儀式――『血のくさび』の記述があった。

だが、その代償は小さくない。術者の生命力を極限まで削り、対象者の魂と「恒久的に」連結させる必要がある。

「何をしようとしているんだ。……私のためか?」

いつの間にか入り口に立っていたエルリエルが、壁に寄りかかりながら掠れた声を出した。顔色は紙のように白く、立っているのもやっとの様子だ。

「……あんたには関係ねえ。黙って寝てろと言ったはずだ」

「関係ないはずがない。……その術は、君の命を削るんだろう? 昨夜、君が寝ている間にその本を読んだ」

ベルフェは舌打ちをして本を閉じ、エルリエルに歩み寄った。

「だったら話が早い。あんたが消えちまうよりはマシだ。俺の隣で死ぬまで後悔させるって決めたんだよ。勝手に消えるなんて、この俺が許さねえ」

「ダメだ、ベルフェ……!」

エルリエルが、震える手でベルフェの腕を掴んだ。

「君が傷つくくらいなら、私はこのまま消えてもいい。君の中に、私の記憶が残るなら、それで……っ」

「ふざけるなッ!!」

ベルフェの怒号が書庫に響いた。彼はエルの両肩を掴み、乱暴に揺さぶる。

「記憶だと? そんな死人みたいなもんで満足できるかよ! 俺が欲しいのは、今ここで熱を持ってるあんたの身体だ! 俺に触れて、俺の名前を呼ぶあんたなんだよ!」

ベルフェの瞳には、かつての復讐者としての冷徹さはなく、ただ大切なものを失うことを拒絶する、剥き出しの恐怖が宿っていた。

「あんたは、また俺を一人にするつもりか? 天界にいた時と同じように、自分だけ『正しい道』を選んで、俺を置いていくのか……?」

「……それは……」

エルリエルの言葉が詰まる。ベルフェの言葉は、エルリエルの内側に残る自己犠牲の精神を、容赦なく「傲慢」だと切り捨てた。

「……分かった。……もう、勝手なことは言わない。……君が地獄へ行くと言うなら、私もその手を取る」

エルリエルは、自分を掴むベルフェの手に、自分の手を重ねた。

ベルフェは歪んだ笑みを浮かべ、エルの額に自分の額を押し付ける。

「……ああ、そうだ。逃がさねえ。地獄の底まで、俺と共倒れになってもらうぜ」

二人は、決して解けない「呪い」のような愛を完遂するために、禁じられた儀式の準備を始める。
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