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第4章:境界の楽園
第4話:血の楔
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外は嵐だった。叩きつけるような雨音が館を揺らす中、最奥の祭壇で儀式が始まった。
「……準備はいいか。今更、震えてんじゃねえぞ」
ベルフェの手には、禍々しい文様が刻まれた漆黒の短剣が握られていた。その刃先を、彼は躊躇なく自らの手の平に走らせる。滴り落ちる鮮血が、祭壇に描かれた陣を満たしていく。
「震えてなどいない。……ただ、君を私の道連れにすることが、これほど恐ろしく、……そして愛おしいとは思わなかった」
エルリエルもまた、ベルフェから手渡された短剣で、自らの手の平を裂いた。
二人の血が混ざり合い、陣が禍々しい赤紫色の光を放ち始める。
「……っ、ぐ……、あああああッ!!」
連結が始まった瞬間、エルリエルの身体を凄まじい衝撃が突き抜けた。鎖骨の「灰色の紋様」が、ベルフェの血を吸い上げるようにして脈打ち、エルの血管の隅々まで闇の魔力を流し込んでいく。
「離れるな、エルリエル……! 俺を見ろ!」
ベルフェは血まみれの手でエルの顔を挟み込み、無理やり視線を繋ぎ止めた。
術者のベルフェにも、肉体が削られるような激痛が走る。だが、彼はその痛みさえも、エルリエルと「半分ずつ分かち合っている」という悦びに変換していた。
「……は、……ベル、フェ……。視える、君の、中が……」
魂の境界が曖昧になり、二人の記憶と感情が奔流となって流れ込んでくる。
あの日、地獄へ堕ちていくベルフェが感じた孤独。
あの日、天界で絶望していたエルリエルが抱いた自責。
それらすべてがひとつに溶け合い、もはやどちらがどちらの痛みなのかも判別できなくなる。
「……っ、ふ……あ…………」
やがて、エルの背中の「翼の跡」から、灰色の光が溢れ出した。
それは天使の羽でも、悪魔の翼でもない。二人の魂が縫い合わされたことで生まれた、新しい存在の胎動だった。
だが、その瞬間。
儀式が放ったあまりに強大な魔力の波動が、館を覆っていた結界を突き破り、天を衝いた。
「……チッ、嗅ぎつけやがったか……!」
ベルフェが空を睨む。
嵐の雲を割り、天から一条の白銀の光が館へと降り注ごうとしていた。天界が、禁忌を犯した二人の「生存」と「変質」を、完全に見出したのだ。
「……来させるものか。ここには、誰一人として……」
エルリエルは、まだ震える足で立ち上がり、ベルフェの前に立った。
その瞳は、もはや聖人のそれではない。愛する男と地獄を歩むために、神を殺すことも厭わない「守護者」の光を宿していた。
「……準備はいいか。今更、震えてんじゃねえぞ」
ベルフェの手には、禍々しい文様が刻まれた漆黒の短剣が握られていた。その刃先を、彼は躊躇なく自らの手の平に走らせる。滴り落ちる鮮血が、祭壇に描かれた陣を満たしていく。
「震えてなどいない。……ただ、君を私の道連れにすることが、これほど恐ろしく、……そして愛おしいとは思わなかった」
エルリエルもまた、ベルフェから手渡された短剣で、自らの手の平を裂いた。
二人の血が混ざり合い、陣が禍々しい赤紫色の光を放ち始める。
「……っ、ぐ……、あああああッ!!」
連結が始まった瞬間、エルリエルの身体を凄まじい衝撃が突き抜けた。鎖骨の「灰色の紋様」が、ベルフェの血を吸い上げるようにして脈打ち、エルの血管の隅々まで闇の魔力を流し込んでいく。
「離れるな、エルリエル……! 俺を見ろ!」
ベルフェは血まみれの手でエルの顔を挟み込み、無理やり視線を繋ぎ止めた。
術者のベルフェにも、肉体が削られるような激痛が走る。だが、彼はその痛みさえも、エルリエルと「半分ずつ分かち合っている」という悦びに変換していた。
「……は、……ベル、フェ……。視える、君の、中が……」
魂の境界が曖昧になり、二人の記憶と感情が奔流となって流れ込んでくる。
あの日、地獄へ堕ちていくベルフェが感じた孤独。
あの日、天界で絶望していたエルリエルが抱いた自責。
それらすべてがひとつに溶け合い、もはやどちらがどちらの痛みなのかも判別できなくなる。
「……っ、ふ……あ…………」
やがて、エルの背中の「翼の跡」から、灰色の光が溢れ出した。
それは天使の羽でも、悪魔の翼でもない。二人の魂が縫い合わされたことで生まれた、新しい存在の胎動だった。
だが、その瞬間。
儀式が放ったあまりに強大な魔力の波動が、館を覆っていた結界を突き破り、天を衝いた。
「……チッ、嗅ぎつけやがったか……!」
ベルフェが空を睨む。
嵐の雲を割り、天から一条の白銀の光が館へと降り注ごうとしていた。天界が、禁忌を犯した二人の「生存」と「変質」を、完全に見出したのだ。
「……来させるものか。ここには、誰一人として……」
エルリエルは、まだ震える足で立ち上がり、ベルフェの前に立った。
その瞳は、もはや聖人のそれではない。愛する男と地獄を歩むために、神を殺すことも厭わない「守護者」の光を宿していた。
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