白羽の檻、黒翼の導き

篠雨

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エピローグ

永遠の共犯者

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数百年という月日は、人間にとっては永遠に近いが、彼らにとっては瞬きのようなものだった。

かつて激戦が繰り広げられた館の跡地は、今では「底なしの霧の森」と呼ばれ、いかなる生物も足を踏み入れない禁域となっている。

その森の最深部、時間の流れが歪んだ狭間の空間に、二人の住処はあった。

「……ベルフェ、またそんなものを拾ってきて」

エルリエルが呆れたような、けれど慈しみに満ちた声を出す。

かつての「聖人」の衣装はもうない。今の彼は、ベルフェの魔力と同じ色をした、深い闇を湛えたゆったりとした衣を纏っている。

「いいだろ。退屈しのぎだ。……地上では今、こんなおもちゃが流行ってるらしいぜ」

ベルフェは、地上から掠めてきた安っぽい光る石をエルの前に放り出した。

彼はかつての猛々しい傲慢さを残しつつも、その獰猛な牙は、エルリエルという唯一の「枷」によって、甘く、鋭利に飼い慣らされていた。

二人の魂を結ぶ「血の楔」は、今も手首の飾り紐と共にそこにある。

一人が痛みを感じればもう一人がそれを分かち合い、一人が悦びを感じればもう一人の魂が共鳴する。

「……なあ、ベルフェ。あの日、私を置いていかなかったこと……後悔していないか?」

ふとした沈黙の中、エルリエルが問いかける。

何百回、何千回と繰り返されたかもしれない問い。けれど、そのたびにベルフェの答えは変わらない。

ベルフェはエルの腰をぐいと引き寄せ、その白い首筋に自らの印を刻み込むように唇を寄せた。

「後悔? ……ああ、してるぜ。もっと早く、あんたのその翼を毟って、俺だけのものにしておけばよかったってな」

「……ふふ、相変わらずだ」

「あんたこそ、天界の椅子が恋しいか? 毎日俺に抱かれるだけの、こんな退屈な地獄で」

「……まさか」

エルリエルはベルフェの首に腕を回し、その漆黒の瞳を見つめ返した。

「君という地獄に落ちたあの日、私はようやく、呼吸の仕方を知ったんだ。……君がいない場所なら、そこが天国でも、私にとってはただの虚無だよ」

二人は、灰色の翼を重ね合わせるようにして寄り添った。

彼らはもはや、天使でも悪魔でもない。

世界から忘れ去られ、理から零れ落ちた、孤独で、けれどこの上なく幸福な「共犯者」。

外の世界でどんな国が興り、どんな神が死のうとも、この深い霧の奥底だけは変わらない。

互いを傷つけ、互いを愛し、永遠に終わることのない「復讐」という名の甘美な愛に溺れ続ける。

「……愛してるぜ、エルリエル」

「……ああ。私もだよ、ベルフェ」

重なり合う二人の影が、深い霧の中に溶けていく。

彼らの物語に「終わり」という言葉は存在しない。

ただ、二人が望む限りの「永遠」が、静かに、どこまでも続いていく。

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