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第12話 自分の楽器
しおりを挟む放課後の音楽室では部員がそれぞれ担当する楽器を持ち運び、セッティングをしている。
我が吹奏楽部は区のコンクールに向けて、本格的な練習に入っていく。
入部当初、自分が担当する楽器を吟味していたけど、やっと決まった。アルトサックスだ。
「凛那がアルトサックスにするとは思わなかったよ~」
紗江は担当するフルートの調整をしながらそう言った。
「私もだよ」
確かに、あまり目立ちたくない私がソロパートの多い楽器をあえて選んだのは不思議に思うかもしれない。自分でも思ってもみなかった。
そうチャレンジしようと思ったきっかけは兄達の影響なのかもしれない。
大勢の前で人を惹きつけ堂々とした存在感を放つ麻樹緒。
精力的にチームを引っ張り、エースとしての輝きを放つ遼太郎。
そんな2人の妹であることを誇らしく思う。
だけど私はどうだろう。何か誇れるものがあるだろうか。2人からみた私はどんな存在なのか。幼い頃から母の後ろに隠れるような子だった。その殻を少しでも破れたら自信に繋がるかもしれない。
2人に近づきたい。足元にも及ばないけど、少しでも誇れる妹になれたら・・・。
「なかなかサマになってるじゃん?須藤のサックス姿」
サックスを首にかけている私に向かって馬場が言った。
「茶化してる?まだ演奏もしてないよ」
「俺は須藤が何の楽器をやるのかずっと気になってたんだ」
「いろいろ、試してたしね私」
「アルトサックスとは意外だったけどな。ソロあるぜ?」
「うん、そこだよ。自分への挑戦」
「そっかぁ。俺も頑張ろ」
それから2時間ほど指使いや音出し、短い譜面での練習をこなした。
サックスのボタンの多さにまったくの初心者の私は不安を感じたけど、リコーダーに近い指使いで少し安心した。
でもこれからもっと練習を積まなくては。。
帰りは紗江と馬場と一緒に帰った。空は日が沈みかけていた。
「ねぇ、3人で帰るの初めてじゃない?」
「そうか、そうだね」
紗江の問いに答える。入部して約2カ月半が経つけど初めてだ。
「そういえば馬場は何で吹奏楽部に入ったの?」
私は自転車を押しながら歩く馬場を見上げて聞いた。
「俺の親父がオーケストラに入っててさ、その姿見てたら自分もいずれやってみたいなと思って。この高校、実績あるじゃん?また俺らの代で結果を残せるといいよな」
「本当だね~。あ、私こっちだから。また明日ね!」
紗江は手を振り帰って行った。馬場と2人っきりか。初めてだな。
兄達と話すくらいで男子の免疫もない私だけど、馬場とは気軽に話せる。
「須藤ってさ、本当にお兄さん達と仲がいいよな」
また言われた。今朝、一緒に登校しているところを馬場はすれ違ったっけ。
「ずっとそんな感じできたから普通なんだよね。周りから見たらおかしいのかな」
高校生にもなった。兄妹がいまだにご登校って。
「おかしいとかじゃないんだけど、隙がないよね」
「へ?」
思わず馬場を見上げた。
「はっきり言うと、俺は須藤ともっと話したい。でも、いつもお兄さん達の影があって近寄りがたいというか・・・」
頭を掻きながら話す馬場は照れ臭そうだった。
というか、兄達の存在感ってどれだけ大きいんだろう。
「部活で話せるじゃん」
「おまえ、意味わかってないだろ」
「なにが?」
「・・・あ~もういいやっ。じゃあ、また明日な」
そう言い残し、馬場は自転車にまたがり帰って行った。
一人残された私は、馬場の言った言葉の意味を考えながらも、よく理解できないまま家路を歩いた。
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