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夢見の末路
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正直なところミュウにはケイレブの言ったことを成し遂げる自信がない。見たい夢を必ずしも見れるわけではないのだから。では、前世の自室に行きたいと願った時のように強く願えば?と思うけれども、まず古代樹がわからない。そんな調子で願ったとて上手くいく保証もない。
さて困ったぞ、とミュウは考え込んだ。ケイレブは先祖返りを治す(という言い方があっているのかわからないが)秘薬を作りたいのだ。それでジュリアンの症状が治まれば、後に続く者たちの希望になるだろう。
「わかった」
ここはひとつ、フィルに会って相談してみよう。会わせてやろう、なんて向こうからの提案に乗らない手はない。いつまた気が変わってしまうかもしれない。出来なかったらまあ、その時はその時で…なんて、そんなペラペラの覚悟を持ってミュウは返事をしたのだった。
かくしてミュウはフィルに会うことができた。それはもうびっくりするほどあっさりと、拍子抜けしてしまうほどに簡単に。これまで枷を嵌められて留め置かれていたのはなんだったのか、と呆れてしまうほどに。
翌日、ジーマにねだってあのカブのスープを出してもらってふうふうあちあちホクホクと口に運んでいるところだった。音を立てて開かれた扉の向こうにフィルがいた。
熱い抱擁なんかが待っているかとちょっぴり期待したが、フィルはまず体のあちこちの検分を始めた。
腕や足に残る擦り傷なんかはとっくに瘡蓋になっていて、頬には一本筋の通った傷痕が残っている。それを痛ましそうにそっと撫でて、痛くはないか?とフィルは問うた。
「大丈夫やで」
「そうか…無事で良かった」
「うん、フィルも」
そこでようやくフィルの逞しい胸に招き入れられた。トクトクと鳴る鼓動を耳にして体中が安堵した。久しぶりに感じる体温、匂い、声、その全てが好ましい。自分のしたことが間違いでないと思えた。他の全ての人が間違いである、とそう糾弾してこようともミュウ自身が導き出した答えに間違いはない。フィルが傷つかなくて本当によかった。あっちへうろうろ、こっちへうろうろと彷徨う気持ちがあるべきところにストンと収まったような感じがする。
コホンと咳払いが聞こえて目を向けるとケイレブがいた。いたのか、気づかなかった。
「さて、それくらいにして本題に入ろう」
ケイレブはたった今までミュウが座っていた椅子に座り、ミュウとフィルは並んでベッドに腰掛けた。その前に、とミュウは声をあげた。
「そもそも古代樹ってのがわからん」
「ま、そうだろうな」
ふんとケイレブは鼻を鳴らして語りだした。
曰く、古代樹とは天災などで衰退した大陸に芽生えた最初の木のことを言うらしい。その双葉が芽吹く時へ飛び、それを取ってこいと言う。
「…それ取ってきたらさ、もう木が生えてこんのちゃうの?」
「その芽を皮切りに次々に芽吹いていくんだ。だから、最初のそれを摘んでも問題あるまい」
「えーと、ほんならその後のやつが最初になるわけやから、やっぱり意味ないんちゃうの?」
ん?と小鳥のように小首を傾げるミュウにケイレブは大きなため息を吐いた。馬鹿かお前、と顔に書いてある。
「フィルはわかった?」
「そうだな…ここにミュウの好きな菓子があるとしよう。皿にひとつだけある。それをミュウは私に内緒で食べてしまう。そして、私にバレないようにまたひとつ菓子を皿にのせるんだ。だから、私から見たら皿の菓子はひとつ目の菓子に映る。実際はふたつ目なのにな?」
「でも、バレてもフィルは怒らへんやろ?」
「そうだな」
はははとフィルは笑う。
そういえばミュウはなんの菓子が好きだ?森で採れた木の実をこれでもかと練りこんだクッキーが好き、旨そうだ、今度一緒に食べよ?あぁ、二人で木の実を採りに行くのもいいな、えへへ、はははと笑いあっているところにまたしてもケイレブの咳払いが割って入った。俯いたジーマの肩が震えていて、笑うのを堪えているようだ。
「なんと呑気な…」
「あ、ごめん」
ミュウが謝り、任せておけぬとばかりにケイレブがまた話しだした。
「最初を取る、そうすればその次に芽生えたものが最初になるのだ」
「うーん、それって騙すってこと?」
「騙すって誰を騙すのだ。そんな者はおらん」
「創造神様とか」
「神くらい心の広い御方であったら許してくれよう、そこの男のようにな」
すっとフィルを指した人差し指はゆらゆらと揺れ、ケイレブの表情は嘲るようだった。
「フィル、神様やって」
「恐れ多いな」
「でも、僕にとっては神様みたいやで?」
「そんなのは私だって、ミュウはただ一人のヴェルタだ」
照れ照れあはは、もじもじうふふ、またぞろ二人だけの世界に入りかけたミュウとフィル。
今度こそケイレブの頭に血が上ったようで、ガタンと大きな音を立てて椅子が倒れた。わなわなと握りしめた拳が小刻みに揺れて、天を仰いだケイレブはふぅーと大きく息を吐いた。
「少し、外す」
それだけ言うとケイレブは退室した。その後をジーマが追って行く。パタリと閉じた扉、暫く待ってからミュウはほっと息を吐いた。
「フィル、今どないなっとん?」
「ん?」
「僕が二人で話したくてお芝居しとんの合わせてくれたんやろ?」
「え、そうなのか?」
「気づかんかったんか!?」
コクリと素直に頷くフィル、まぁそんなとこがええとこなんやけど。
「で?どうなん?」
詰め寄るミュウにフィルは知りうる限りのことを話し出した。
さて困ったぞ、とミュウは考え込んだ。ケイレブは先祖返りを治す(という言い方があっているのかわからないが)秘薬を作りたいのだ。それでジュリアンの症状が治まれば、後に続く者たちの希望になるだろう。
「わかった」
ここはひとつ、フィルに会って相談してみよう。会わせてやろう、なんて向こうからの提案に乗らない手はない。いつまた気が変わってしまうかもしれない。出来なかったらまあ、その時はその時で…なんて、そんなペラペラの覚悟を持ってミュウは返事をしたのだった。
かくしてミュウはフィルに会うことができた。それはもうびっくりするほどあっさりと、拍子抜けしてしまうほどに簡単に。これまで枷を嵌められて留め置かれていたのはなんだったのか、と呆れてしまうほどに。
翌日、ジーマにねだってあのカブのスープを出してもらってふうふうあちあちホクホクと口に運んでいるところだった。音を立てて開かれた扉の向こうにフィルがいた。
熱い抱擁なんかが待っているかとちょっぴり期待したが、フィルはまず体のあちこちの検分を始めた。
腕や足に残る擦り傷なんかはとっくに瘡蓋になっていて、頬には一本筋の通った傷痕が残っている。それを痛ましそうにそっと撫でて、痛くはないか?とフィルは問うた。
「大丈夫やで」
「そうか…無事で良かった」
「うん、フィルも」
そこでようやくフィルの逞しい胸に招き入れられた。トクトクと鳴る鼓動を耳にして体中が安堵した。久しぶりに感じる体温、匂い、声、その全てが好ましい。自分のしたことが間違いでないと思えた。他の全ての人が間違いである、とそう糾弾してこようともミュウ自身が導き出した答えに間違いはない。フィルが傷つかなくて本当によかった。あっちへうろうろ、こっちへうろうろと彷徨う気持ちがあるべきところにストンと収まったような感じがする。
コホンと咳払いが聞こえて目を向けるとケイレブがいた。いたのか、気づかなかった。
「さて、それくらいにして本題に入ろう」
ケイレブはたった今までミュウが座っていた椅子に座り、ミュウとフィルは並んでベッドに腰掛けた。その前に、とミュウは声をあげた。
「そもそも古代樹ってのがわからん」
「ま、そうだろうな」
ふんとケイレブは鼻を鳴らして語りだした。
曰く、古代樹とは天災などで衰退した大陸に芽生えた最初の木のことを言うらしい。その双葉が芽吹く時へ飛び、それを取ってこいと言う。
「…それ取ってきたらさ、もう木が生えてこんのちゃうの?」
「その芽を皮切りに次々に芽吹いていくんだ。だから、最初のそれを摘んでも問題あるまい」
「えーと、ほんならその後のやつが最初になるわけやから、やっぱり意味ないんちゃうの?」
ん?と小鳥のように小首を傾げるミュウにケイレブは大きなため息を吐いた。馬鹿かお前、と顔に書いてある。
「フィルはわかった?」
「そうだな…ここにミュウの好きな菓子があるとしよう。皿にひとつだけある。それをミュウは私に内緒で食べてしまう。そして、私にバレないようにまたひとつ菓子を皿にのせるんだ。だから、私から見たら皿の菓子はひとつ目の菓子に映る。実際はふたつ目なのにな?」
「でも、バレてもフィルは怒らへんやろ?」
「そうだな」
はははとフィルは笑う。
そういえばミュウはなんの菓子が好きだ?森で採れた木の実をこれでもかと練りこんだクッキーが好き、旨そうだ、今度一緒に食べよ?あぁ、二人で木の実を採りに行くのもいいな、えへへ、はははと笑いあっているところにまたしてもケイレブの咳払いが割って入った。俯いたジーマの肩が震えていて、笑うのを堪えているようだ。
「なんと呑気な…」
「あ、ごめん」
ミュウが謝り、任せておけぬとばかりにケイレブがまた話しだした。
「最初を取る、そうすればその次に芽生えたものが最初になるのだ」
「うーん、それって騙すってこと?」
「騙すって誰を騙すのだ。そんな者はおらん」
「創造神様とか」
「神くらい心の広い御方であったら許してくれよう、そこの男のようにな」
すっとフィルを指した人差し指はゆらゆらと揺れ、ケイレブの表情は嘲るようだった。
「フィル、神様やって」
「恐れ多いな」
「でも、僕にとっては神様みたいやで?」
「そんなのは私だって、ミュウはただ一人のヴェルタだ」
照れ照れあはは、もじもじうふふ、またぞろ二人だけの世界に入りかけたミュウとフィル。
今度こそケイレブの頭に血が上ったようで、ガタンと大きな音を立てて椅子が倒れた。わなわなと握りしめた拳が小刻みに揺れて、天を仰いだケイレブはふぅーと大きく息を吐いた。
「少し、外す」
それだけ言うとケイレブは退室した。その後をジーマが追って行く。パタリと閉じた扉、暫く待ってからミュウはほっと息を吐いた。
「フィル、今どないなっとん?」
「ん?」
「僕が二人で話したくてお芝居しとんの合わせてくれたんやろ?」
「え、そうなのか?」
「気づかんかったんか!?」
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