朝餉添えの贄

琴里 美海

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第弐拾参話

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 目を覚ました時、私は何処かの家の中にいた。
 凍っていた手足も髪も何時の間にか温められていたらしく、感覚も戻っていた。それに布団の中にいた。

「?」

 此処は何処なんだろう、誰が助けてくれたんだろう。でもこんな見た目の私を助けるなんて、凄く変わった人だなぁ。
 そんな事を考えながらゆっくりと起き上がった。
 村の中にはこんなに綺麗な家なんて無かった気がする。と言う事は村の中じゃなって事なのかな?もしかして私が気を失う前に見ていたあの家?だとしたらあの家の人が助けてくれたって事なのかな?

「お家の人は何処だろう。」

 お礼を言ってすぐに出て行かないと、きっとこのお家の人に迷惑を掛けちゃう。
 家の中を探したけど、今お出掛けしているのか分からないけど私以外に誰もいなかった。

「どうしよう。」

 長居はしちゃ駄目だけど、お礼を言わないのはそれはそれで非常識だから、お礼は言いたい。でも長居しちゃ駄目。如何したら良いんだろう。
 そんな事を考えていた時だった。
 扉の開く音が聞こえて私はすぐに最初に目を覚ました部屋に戻って布団の中に隠れた。別に隠れる必要なんて無いんだけど、やっぱり出来るだけこの見た目を見られたくは無かった。
 足音が少しずつ近付いて来ると私は寝たふりをした。

「……………おい。」

 声を掛けられたけど答えずに布団の中で丸くなっていた。

「おいったら、さっきの足音聞こえてたからな?」
「!!」

 走ったからやっぱり音が聞こえてたんだ。
 観念して私は頭だけを外に出した。
 部屋の入口の所に立っていたのは私と大差無いくらいに普通じゃない見た目をしていた。赤から橙に変わっていく髪。夕焼けみたいでとっても綺麗な髪。

「お前本当に驚いたんだからな、出掛けようと思って外に出たら雪の中で真っ白い髪の奴が倒れてたんだから。最初ちょっと見えなかったけど。」
「あの、えっと、助けてくれてありがとうございます。」
「凍傷とか起こしてたし。」
「そ、そうですか。」

 何をしたら良いんだろう。唯兎に角早く出て行く事しか考えて無かった。
 布団から出て正座した。

「あの、本当にありがとうございました。えっと、失礼します。」

 頭を下げて立ち上がってから出て行こうとした。だけどその人に腕を掴まれて前へ進めない。

「?あの…………」
「まだ万全じゃないだろ、少し休んでいけ。」
「で、でも…………」

 早く行かないとこの人に迷惑を掛けちゃう。見ず知らずの人だけど助けてくれた優しい人だから、そんな人に迷惑を掛けたくない。

「私、迷惑掛けちゃう。」
「あぁ、それは気にすんな。別に迷惑だとか思わねぇし。」
「で、でも…………」
「良いから大人しく休憩してろ!!」

 そう怒鳴られて私はつい頷いてしまった。
 その人に引っ張られて私はまた部屋の中に戻され、布団の上に座らされた。さっきまで私が入っていたからまだ暖かい。

「にしても酷い顔してるな。」
「……………………」
「あ、気に障ったか?」
「いえ、別に。」

 酷い顔ってどんな顔だろうって思って、少し考えちゃっただけだから、別に怒った訳でも何でもない。ちょっと考え事。
 改めてその人をジッと見る。

「何だ?俺の顔に何か付いてるか?」
「え、いえ、別に。珍しい髪色をしてるなって、思って………………」
「お前だって似た様な物だろ。まぁ俺の方が特殊か。この国の中をどれだけ探したって、俺みたいな髪の奴はいないだろうな。」

 自分の髪を触りながらその人はそう言った。

「そう言えば名乗って無かったな、俺は暁光。お前は?」
「名前…………」

 そう言えば、こう呼ばれてるって言うのはあるけど、名前って何だろう。その人を示す呼び方が名前なら、村の人達が私を呼ぶ其れが私の名前なのかな?

「どうかしたか?」
「塵芥…………」
「あ?」
「私の名前、多分塵芥です。」

 私がそう言うと暁光さんは驚いた顔をして私を見た。何だろう、少し悲しそうにも見える気がする。
 そんな事を考えていると暁光さんは私の肩に手を置いた。

「お前、其れは名前じゃねぇ。」
「え?」
「其れは唯の呼び方だ、名前じゃねぇ。」
「でも、名前ってそう言う物なんじゃないんですか?」

 私がそう言うと暁光さんは首を横に振った。

「今俺はお前の事お前って呼んでるけど、其れは名前になるか?」
「えっと……………」

 お前って言うのは確か二人称だから、あくまでも呼び方だから、多分名前にはならない。筈だけど。
 其れをそのまま暁光さんに伝えた。

「な?お前は名前にならないだろ?お前の言ったのだって同じだっての。」
「そうなんでしょうか。」
「そうだよ。」

 其れは良いけど、そうだとしたら……………

「なら、私、名前ありません。」
「そうなるよな、そんな気はしてた。」

 暁光さんは大きく溜め息を吐いてから私を目をジッと見た。他の人と違う青い瞳。正直あんまり見てほしくない。
 私は暁光さんから視線を逸らした。

「……………氷柱。」
「え?」
「あ、いや、冬の雪の中に日の光を浴びて反射する氷柱みたいに綺麗だから、って思ったんだよな。」
「氷柱……………」

 普通なら冷たい感じなのに、何だろう、暁光さんの理由を聞いたら凄く素敵に聞こえる。

「名前、今考えてたんだけど、氷柱しか出てこねぇや。」
「………………………」
「いや、まぁ嫌なら素直に言ってくれよ。」
「素敵。」
「あ?」

 そんなちゃんとした理由のある名前を、私が嫌がる訳が無い。それに、嫌がったりなんかしたらきっと罰が当たっちゃう。

「貰っても良いですか?」
「!!おう!!」
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