朝餉添えの贄

琴里 美海

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第参拾六話

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 本当だったらいろんな事を言いたい。
 お前がいなかった間、俺がどんだけお前の事を考えていたのかって事を伝えたい。だけど今はそれは置いておこう。
 俺が近付くと鴉は立ち上がって俺に向かって手を振って強風を起こした。
 若干飛ばされそうになったが、すぐに地面に足を突き刺して堪えた。

「そんな事をして大丈夫ですか!?」

 目の前に一瞬で鴉が来ると、俺は鴉の服を掴んで思い切り投げ飛ばした。
 足元で爆発を起こして足を引っこ抜くと、さっき投げ飛ばした鴉の後を追った。
 鴉に追い付くともう一回服を掴んで更に投げ飛ばした。

「さて、と。此処まで来りゃ良いだろ。」

 もう何も無い森の中までやって来た。

「んじゃま、そろそろ本気でやるとするか。」
「今まで本気じゃなかったと?」
「まぁな。」
「!!」

 結構な距離を一瞬で移動して鴉の顔に思い切り膝をめり込ませると、鴉は盛大に吹っ飛んだ。
 そのまま鴉の真横に立つと、思い切り腕を振って鴉の着地点で爆発を起こした。

「ガッ!!!」

 鴉は俺に向けて腕を振ると、先が随分と鋭い羽根が幾つも飛んで来た。
 正直真横にいたせいで避けられないが、そもそも氷柱が思い出してくれたお陰で力が戻った今なら避ける必要が無い。
 羽根は俺に当たる事無く弾かれて地面に落ちた。

「なっ!!」
「ったくよぉ、正直俺は戦闘ってのは得意じゃねぇんだよ。」

 本当は人間に気付かれずに、唯悠然と飛んで人間のその行いを見続けたいだけ。人間共があれこれ勝手に俺の事言ってくるだけ。
 本当は守り神なんてこっちから願い下げだった。だから俺は元々住んでいた社から出てあの家でひっそりと暮らしていた。
 だけど、ある日氷柱が現れて、出会って、それからは氷柱の為なら何でもしようと思った。
 簡単に折れる冬に現れる氷柱の様に、あいつは何時も弱々しくて折れてしまいそうで。だから俺はそんなあいつを守るって決めたんだ。あの村の事とか、鴉とか、正直どうでも良いとすら思ってる。

「だけどな、氷柱に手ェ出すってんなら話は別なんだよ。」

 俺が力を入れると足元から大量の炎が出てきた。

「あ、貴方は一体何者なんですか………………」
「俺?まぁあいつ等だって一応は分かってるだろうけど、そういや本当の名前は言った事無かったな。俺は『鳳凰』。不死鳥だ。」
「なっ!!」

 不死鳥はそう簡単にゃ死なない。
 そう、だからそもそも俺に喧嘩を売った時点で、こいつの勝ちなんてもんは最初っから存在してないんだよ。

「…………………でしたら、少々卑怯な手を使わせていただきますかね。」
「あ?」

 鴉が手を上げると村の方で大量の鳥の鳴き声がした。
 俺が村の方を向くと鴉が殴り掛かって来たが、其の手を掴んで思い切り投げ飛ばした。

「何だよ、今の声。」
「そろそろですよ、少々お待ち下さい。」
「あ?」

 一瞬で空が暗くなると天変地異でも起きたかと思ったがそうじゃない、空を覆い尽くす程の大量の烏が飛んでいた。そしてそんな黒の中で一際目立つ白を見付けた。

「氷柱!!!」
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