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変わらぬ執着と近づく悪意
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しおりを挟む「……ねぇ。俺とお姉さんって、やっぱりどこかで会ったことあるんだよね?」
「……どうしてそう思うの?」
「分からないけど……お姉さん見てると、何か変な感じがするんだよね」
「……何それ」
「上手く言えないけど……あの日からさ、俺、お姉さんのことばっかり考えてたんだよ。だからさ、何か知ってるなら教えてよ」
「それを教えたところで、つば……黒瀬くんは、私の言うことなんて信じてくれないと思う」
「んー、それじゃあさ、お姉さんのこと、もっと教えてよ。そしたら、この変な感じの正体が何なのか、分かりそうな気がするんだよね」
椿くんはニコニコと屈託のない笑みを浮かべながら、私の顔をジッと見つめてくる。
「……何よ、記憶がなくても、椿は椿じゃない」
「百合子ちゃんに対しての異様なまでの執着は、もう魂にまで刻まれてるんじゃないの?」
美代さんと萌黄さんが、コソコソ話している声が聞こえてくる。
「百合子ちゃん、そのまま椿に送ってもらいなさいよ」
「え? いえ、私は……」
「へぇ、お姉さん、百合子さんっていうんだ。綺麗な名前だね」
戸惑っていれば、距離をとった椿くんは、カウンターから様子を窺っていたマスターの方に歩いていく。
というか今更だけど、タイミングよく他のお客さんがいなくて本当によかった……。
「マスター、久しぶりだね」
「椿、お前なぁ……」
「あ、やっぱり俺、最近無断欠勤しちゃってた感じ? スマホも失くしちゃったし、実はちょっと体調も悪くてさ」
「……はぁ。もういい。お前のいい加減なところは、今に始まったことじゃないからな。その代わり、香月さんを家まできちんと送り届けるんだぞ」
「りょうかーい」
マスターに話を付けた椿くんは「お姉さん、行こう」と手を差し伸べてくる。だけど、何だかその手を掴む気にはなれなくて、私は一人で椅子から立ち上がった。
だけど椿くんは然して気にしていない様子で、機嫌良さそうに笑いながら私の後を付いてくる。
「……椿。嬢ちゃんのこと、しっかり家に送り届けろよ」
「はいはい、分かってるって。皇さんの大事な人を傷つけたりしないよ」
「え、あの、別に私と皇さんは、そういう関係じゃ……」
――多分椿くんは、勘違いしている。そう思って否定しようとした言葉は、扉の閉まるベルの音でかき消されてしまった。
だけど今の椿くんは、私と皇さんとの関係に然して興味はないのだろう。ゆったりとした足取りで歩きながら、別の話題を振ってくる。
「お姉さんってさ、仕事は何してるの? 好きな食べ物は?」
「え? ……急に何ですか?」
「言ったでしょ。お姉さんのこと、色々教えてって。あとその敬語止めてよ。何か違和感あるから」
「……仕事は普通にOLやってて、好きな食べ物は……プリンとかケーキとか、甘いものかな」
「へぇ、そっか。それじゃあ今度、一緒にカフェでも行こうよ。お姉さんのおすすめのケーキ、教えてほしいな」
さらりと次の会う約束を取り付けてきた椿くんを見上げれば、左頬が赤く腫れてきていることに気づいた。口の端も切れている。
「……頬っぺた、痛い?」
「ん? ……あぁ、さっき皇さんに殴られたところ? まぁ普通に痛かったけど……あそこまでキレてる皇さんなんて中々見ないし、俺がお姉さん絡みのことで何かしちゃったんだよね?」
「……」
何て答えていいのか分からなくて困っていれば、足を止めた椿くんは、真面目な顔をして私を見つめてくる。
「俺さ、別に過去を懐かしんだり振り返ったりするようなタイプじゃないんだけど……でも、何か大切なことを忘れているんだとしたら、ちゃんと思い出したいって思うんだ」
「それじゃあ……私のことも、思い出してくれる?」
私がポツリと呟くと、椿くんは僅かに驚いた。そして、すぐに物憂げな笑みを浮かべる。
「……うん。お姉さんのことも、絶対に思い出すからさ。待ってて」
そう言って、私の頭をそっと撫でてくれた。
――やっぱり、椿くんは椿くんだ。
何だか涙がこみあげてきて、でもここで泣いたら椿くんを困らせちゃう気がしたから、グッと堪えて笑顔を作った。
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