勇者のいない世界で

玄城 克博

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「ゲーム、しようよ」

 あの日、四年ぶりに俺の前に現れた幼馴染の少女、佐久間謳歌は、まるで昔と同じように、何もない日々の地続きの中にでもいるようにそう口にした。

「あの頃と同じように、私が魔王で、由実は弓使い。宗耶は遊び人かな」

 それは、幼い日の遊び。

 一時期はその役職名でお互いを呼び合っていた事もある、俺達四人を象徴するその遊びは、勇者と魔王の世界観を中途半端に借りた子供騙しのロールプレイもどきだった。

「私は魔王だから、世界を征服する。でも、流石に宗耶と由実だけでそれを止めるのは無理があるから、代わりにその学校を守ってもらう事にしようかな」

 呆気に取られる俺達の前で、『ゲーム』についての詳細は埋まっていく。

「この学校の敷地内に私の軍が入り込んだら、その時点でそっちの負け。逆に、私の息の根を止めたらその時点でそっちの勝ち。とりあえずルールはそのくらいで」

 この時、どんな言葉だったかは定かでないが、俺は謳歌に問い掛けたはずだ。それ以外に『ゲーム』を終わらせる方法は無いのかと。

「それは仕方ないかな。やっぱり、魔王を倒さずに終わりってわけにもいかないし」

 苦笑は、印象深く。俺の知らない幼馴染の顔がそこにはあった。

「……おっと」

 そんな謳歌に見惚れていた俺の右から一閃、矢が放たれる。

 青白い光の矢。しかしそれを放った射手の手はただ空を引いていた。

「うん、私はバットとかナイフとか、あと銃とか核爆弾とかでも倒せないと思うから、そういう特別な力で倒してもらうしかないね」

 矢は少女の左に大きく逸れ、少女はそれを意にも介せず話を続ける。

「でも、やっぱり二人だけのパーティじゃ寂しいかな。まぁ、そこら辺はおいおい考えていくって事でもいいか」

 もう一度、矢。今度のそれは、わずかに少女の頭の上を通過する。

「由実はやる気みたいだけど、宗耶はどうする?」

 その問い掛けに対して、俺が何と答えたのかはっきりとは覚えていない。だが、少なくとも、ただ一言で切り捨てる事はできなかったのだろう。

「うん、そうだね。じゃあ、またここから始めよっか」

 だって、この時、謳歌のこの言葉を号砲に、俺達の『ゲーム』は始まったのだから。
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