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僕と、勝負してください。7
しおりを挟むルールは簡単。
全く同じ酒を同じ量、同時に飲む。
飲めなくなったら負け。
酒の指定は交互に。
この酒の指定が、結構くせ者だ。
慎さんは、ギムレットやマティーニみたいな強めのカクテルばかり指定してくる。
やべえ。
本気だ、と、危険を感じた俺は慎さんが苦手そうな酒を、と考えたがわからない。
もしかしたら甘い系が苦手かとカルアミルクを指定してみたが、逆にこっちが悪酔いしそうになって、炭酸系に切り替えた。
そしたら、慎さんは酒を考えるのが面倒になったのか、全部ストレートで指定するようになってしまった。
「マッカラン、ダブルで」
まじか。
量もシングルからダブルに増えやがった。
「ど……どんだけ……」
「大丈夫ですか?」
頭が、ぐらぐらする。
視界がはっきりしなくなって、つい泣き言が漏れた。
大丈夫なわけねえ。
目の前にはずらっと並んだ、空のグラス。
何杯飲んだか、もうわからね。
「大丈夫、っす」
だけど、ここで引いたら。
もう二度と、会いに来れなくなる。
「何か話しますか」
マッカランのグラスを煽ってなんとか空けて、俺はまた、モヒートを頼む。
好きだからってのもあるし、炭酸でちょっとでも慎さんの胃を膨らせようと狡い手段だ。
慎さんの声に、返事をしたかあんまりさだかじゃない。
頷いた気はする。
ちょっとでも酔いから他へ意識を逸らさなければ。
「一度聞いてみたかったんです。貴方は僕の何がそんなに好きなのか」
気を逸らすには、すげーいい題材来た。
そんなん、語りだしたら幾らでも語れるけど俺。
「正直僕は、すごくめんどくさい人間だという自覚はあるんですよね」
「そなんですよ、そこもすごく可愛いすよね」
「……」
そなんだよ。
なんだかんだ、精神的に手が掛かりそうというか、ほっといたらすぐに枯れちゃう花みたいな。
この時俺は、かなり酔いが回っていて
如何に慎さんが可愛いかということを、語っている相手が本人であることをわかっているようでわかっていなかった、というか。
何せこの頃にはもう、世界はぐにゃぐにゃに歪んでいた。
「あと、客相手には完璧な営業スマイルなのに、俺には急に不愛想になったりするとこもかなりツボっすね、気を許してもらってんのかなって。だから俺、慎さんの仏頂面も大好きっす。
それから、結構拗ねたりヤキモチ妬いたりする方なのに、隠そうとして隠しきれてなかったりとか、かくれんぼして尻尾が見えてる猫みたいっすよね!」
「ね、って。それ、僕の悪口だろう! どう聞いても悪口にしか聞こえないんですが!」
怒った口調だけど、見ると慎さんの顔は真っ赤だった。
酔ってるのか?
俺だけじゃなく、全く平気そうに見えてる慎さんも実は酔ってるのか?
だったら、もうちょい。
頑張らなければ、とモヒートのグラスをひと息に煽って飲み干す。
その動作だけで、頭がぐらぐらするのがわかり、天井が揺れた。
「それから、言葉遣いが時々ぽろって、擬音? 擬態? 語? ほかほかとか、まあるくとかやわかいとか、堅苦しい敬語なのに、そういうのが混じるとこも可愛くて。くるくるー、とか。あと」
「……まだあるんですか、僕の悪口は」
あと……、そう、あと。
すごく、大事なこと。
「本当は、すごく、優しいトコ。客相手に話してる時は勿論だけど、特に俺に帰れとか悪態付いてる時も、本当は俺の身体を気遣ってくれてたり、とか。
そういうとこ、素直に出せないとこも、好きです」
やべ。
頭、重い。
働かない。
思い出さなきゃ、慎さんの可愛いトコ全部。
「最初は、顔とか、仕草とか……話し方とか、慎さんの纏う雰囲気に惹かれて……でも知れば知るほど、可愛いくて、好きになって、良かったと、ほんとに」
視界が真っ暗になって、うっかり瞼を閉じてしまっていたことに気付く。
だめだ、開けてもなんか、もう斜めになってる、視界が。
「どんな顔も、好きだけど、泣いてほしく、ないなあと、思う」
慎さんは、モヒート全部、飲んだだろうか。
しっかりしないと、そろそろ次の酒が。
でも、やばい眠い。
そういや、あんまり寝れなかったし。
隣を見ると、慎さんが何か言ってるけど、随分遠い声で良く聞こえない。
表情もよく捉えられなくて、確かめたくて手を伸ばした。
「まこと、さん」
指が触れた先が、あったかくて柔かくて、濡れていた。
なんで、泣いてるんすか。
全部、教えて欲しい。
声に出して、ちゃんと聞きたかったのに、そこで、バツッと、意識はぶっ飛んでしまった。
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