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だからいわんこっちゃない!2
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十二月というのは、ただでさえ客の多い稼ぎ時で、特に九時以降くらいから忙しくなる傾向にある。
忘年会シーズンで、一次会若しくは二次会まで終えた後での来店が多いからだが。
クリスマスイブ前後はカップル客も多く、その後すぐに十二月最後の土日があり、立て続けの忙しさに僕の方も余り余裕がなくなっていた。
陽介さんもさすがの忙しさに遠慮したのか終電を待つことなく帰って行って、ゆっくり話すこともできないまま。
二十八日の朝方、年末最後の客が帰り、漸く仕事納めとなった。
「はいよ、十二月分」
「ありがとうございます」
佑さんから、給料袋を受け取った。
当然の如く、今どき現金手渡しだ。
然し乍ら、今月は少ないはずである。
先日の飲み比べの代金を、給料天引きでお願いしていたからだ。
「あれ?」
「なんだ? 少ないとかいうなよ」
「少ないのはいつものことだけど、此間の飲み代が引かれてない」
正味酒代程度にしてくれたとしても、結構な金額飲んだはずなのに、明細を確認してもやはり何も引かれてない。
ぴら、と明細書を佑さんの前に差し出すと、「ああ、そのことか」と今思い出したような顔をする。
「忘れてた?」
「すっかり忘れてた。陽介が払ってったぞ、それなら」
「は?」
それを聞いて、愕然とする。
ちょっと待て。
あんな一方的な飲み比べ勝負の代金を、陽介さんに払わせたのか?
「僕が払うって言ったはずだけど⁉」
「んなこと言ったって、陽介が払うって聞かなかったんだよ。いいじゃねーか、女に飲み代払わせたなんて、それこそ立つ瀬がないだろ。かっこつけさせてやれよ」
「でも、あんな一方的な脅しみたいな勝負……」
「そんなに気になるなら、「ありがとう」つってチューの一つもしてやれ」
「は……」
にたぁっと笑ったあと、唇を窄めてなんとも下品な顔をする。
「鼻血出して喜ぶぞ」
「……な、僕から、そんなっ」
「卒倒するかも」
うひひひ、と嫌な笑い声を残して佑さんは帰って行った。
キス……僕から?
出来るわけないって絶対わかってていってるあのオヤジ!
それなら、折半を申し出る方が可愛げはないかもしれないが気が楽だ。
かっこつけさせてやれ、と佑さんは言ったけれど、あの勝負は僕の一方的なものだったのにやっぱりそんなわけにはいかない。
今日で仕事納めだと言っていたから、きっと何も言わなくても夜には来るだろう。
明日は、遊園地の約束の日だし、来たら話をしよう、そう思っていたのに。
何故かその日は、「明日、迎えに行きますね」とメッセージが一つ入っただけで、陽介さんはちらりとも顔を出さなかった。
どうしたんだろう。
毎日顔を見るのにすっかり慣らされていたらしい僕は、「毎日来られては困る」と言っておきながらいざ会えないとなると妙にそわそわした。
忘年会でもあるんだろうか、いや、課の忘年会は確か二十日以前に終わってその後店に寄ってくれたのを覚えている。
仕事納めの日だから、仲間内で飲みに行ったんだろうか。
だったら帰りに寄ったりしないだろうか。
それを聞いてもいいのだろうか。
夕方起きてメッセージを受信してから、日頃こういうやり取りには余り慣れない僕は、返事を書いては消し書いては消しを繰り返し。
結局今日のことには触れないまま
「何時ごろにしますか」という、なんとも味も素っ気も可愛げもない返信をした。
だけど既読がつく気配もなく、昼間寝てしまった僕は夜全く眠れないままただそわそわし、約束の朝を迎えてしまった。
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十二月というのは、ただでさえ客の多い稼ぎ時で、特に九時以降くらいから忙しくなる傾向にある。
忘年会シーズンで、一次会若しくは二次会まで終えた後での来店が多いからだが。
クリスマスイブ前後はカップル客も多く、その後すぐに十二月最後の土日があり、立て続けの忙しさに僕の方も余り余裕がなくなっていた。
陽介さんもさすがの忙しさに遠慮したのか終電を待つことなく帰って行って、ゆっくり話すこともできないまま。
二十八日の朝方、年末最後の客が帰り、漸く仕事納めとなった。
「はいよ、十二月分」
「ありがとうございます」
佑さんから、給料袋を受け取った。
当然の如く、今どき現金手渡しだ。
然し乍ら、今月は少ないはずである。
先日の飲み比べの代金を、給料天引きでお願いしていたからだ。
「あれ?」
「なんだ? 少ないとかいうなよ」
「少ないのはいつものことだけど、此間の飲み代が引かれてない」
正味酒代程度にしてくれたとしても、結構な金額飲んだはずなのに、明細を確認してもやはり何も引かれてない。
ぴら、と明細書を佑さんの前に差し出すと、「ああ、そのことか」と今思い出したような顔をする。
「忘れてた?」
「すっかり忘れてた。陽介が払ってったぞ、それなら」
「は?」
それを聞いて、愕然とする。
ちょっと待て。
あんな一方的な飲み比べ勝負の代金を、陽介さんに払わせたのか?
「僕が払うって言ったはずだけど⁉」
「んなこと言ったって、陽介が払うって聞かなかったんだよ。いいじゃねーか、女に飲み代払わせたなんて、それこそ立つ瀬がないだろ。かっこつけさせてやれよ」
「でも、あんな一方的な脅しみたいな勝負……」
「そんなに気になるなら、「ありがとう」つってチューの一つもしてやれ」
「は……」
にたぁっと笑ったあと、唇を窄めてなんとも下品な顔をする。
「鼻血出して喜ぶぞ」
「……な、僕から、そんなっ」
「卒倒するかも」
うひひひ、と嫌な笑い声を残して佑さんは帰って行った。
キス……僕から?
出来るわけないって絶対わかってていってるあのオヤジ!
それなら、折半を申し出る方が可愛げはないかもしれないが気が楽だ。
かっこつけさせてやれ、と佑さんは言ったけれど、あの勝負は僕の一方的なものだったのにやっぱりそんなわけにはいかない。
今日で仕事納めだと言っていたから、きっと何も言わなくても夜には来るだろう。
明日は、遊園地の約束の日だし、来たら話をしよう、そう思っていたのに。
何故かその日は、「明日、迎えに行きますね」とメッセージが一つ入っただけで、陽介さんはちらりとも顔を出さなかった。
どうしたんだろう。
毎日顔を見るのにすっかり慣らされていたらしい僕は、「毎日来られては困る」と言っておきながらいざ会えないとなると妙にそわそわした。
忘年会でもあるんだろうか、いや、課の忘年会は確か二十日以前に終わってその後店に寄ってくれたのを覚えている。
仕事納めの日だから、仲間内で飲みに行ったんだろうか。
だったら帰りに寄ったりしないだろうか。
それを聞いてもいいのだろうか。
夕方起きてメッセージを受信してから、日頃こういうやり取りには余り慣れない僕は、返事を書いては消し書いては消しを繰り返し。
結局今日のことには触れないまま
「何時ごろにしますか」という、なんとも味も素っ気も可愛げもない返信をした。
だけど既読がつく気配もなく、昼間寝てしまった僕は夜全く眠れないままただそわそわし、約束の朝を迎えてしまった。
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