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3.彼らの関係
その5、お友だちとは話をしよう①
しおりを挟む同窓会当日。二時間前。
胃がぎりぎりする。
なんて言われるんだろう。
Uくんのことで疎遠になったモブ友 M実に『ふたりで会いたい』なんて言われて、私は会場近くのカフェでひとりコーヒーを飲んでいた。気分はどん底。海の底。今すぐ物言わぬ貝になりたい。
なにせ卒業から五年間、まったく会わなかったのだ。在学中にはあれだけ仲良くしていたにも関わらず。ああ怖い。会いたくない。ほんとはすっごく会うのが怖い……
『頑張んなきゃね』
「……うん」
ぎゅうっと手を握る。うん、頑張らなきゃ。
視線を上げると、ちょうど入口で大量のショッピングバッグを抱えてうろついているM実が見えた。うわぁ変わってない。超ロングストレートの黒髪も、ちょっとゴスロリの入ったフリルのワンピースも。人ってあんまり変わらないんーー
「A~子ぉ~!!」
「M、M実ー!」
「えーもうすっごい久しぶり! 元気だったぁ? ってかなんか雰囲気変わった? べっぴんになったねー!」
「う、ぉお、久しぶりぃ。いや、メイクしてるから……」
「なるほど! いやマジきれい。美しい。エロい。おぱーいがでかいごちそうさまです」
「えー……」
うう、気合入れすぎたかな。今日はM実とUくんの二大しんどい巨頭に会うからと武装してきた。普段よりメイクをしっかりして、悪戦苦闘しながら髪をゆるふわにして、服は身体の線がきれいに映えるベージュのニットワンピ。ビデオ通話で事細かに指示してくれた早織ちゃんに感謝なんだけど、やっぱりやりすぎてないかな……ってか。
全っ然変わっとらんな、こいつ!
声がちょっとかん高いところも、ゼミ生随一の早口も、落ち着きのない雰囲気や独特すぎる言い回しまで。ああモブ友よ、あなた全く変わらない。あんなにガチガチだった身体からふすっと力が抜けてゆく。いかんいかん。身を引き締めなきゃ。
M実はメニューにさっと目を通すとダブルブラックエスプレッソなるものを頼んだ。そうそう、甘党に見えるのに根っからの甘いもの嫌いだった。懐かしがっている場合じゃないのに、なんだかすごく嬉しくなる。不謹慎。
「……ほんと、久しぶりだね、M実」
「いやほんとー! こっちに出てきたの何年ぶりだろ。十億年ぶり? たまらんわー人多すぎて! でも見てほら、めちゃんこ服買った」
「うん、やばい」
「ついついねー。やっぱ、通販では味わえないこの? パッションというか? 超たぎる」
「今はどこにいるんだっけ?」
「実家の山梨に帰ってんのよー。もう立派なぶどう農家。あ、はいこれおみや。うちのワイン」
「えー! いいの?」
「うんどーぞ! でね、私結婚するんだけど」
矢継ぎ早に言われて何がなんだか……って。
「えええ!」
「いやー、お先に失礼いたしまぁす、うぇーい」
「きき聞いてないよ!」
「言ってないもーん。っていうか、誰にも言う暇なくって。超スピード婚」
「え、そうなの?」
「うんまさかの三ヶ月。やばくなーい?」
三ヶ月。三ヶ月……
まさか……
脳裏にはよく見知った顔が出てきて、私の声は、ちょっと震えていたかもしれない。
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