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4.これはフィクション?
その4、久遠専務はウワサされている①
しおりを挟む早織ちゃんが久遠さんの秘書になってから、社員食堂の利用が格段に多くなった。安いし、ひとりで食事をするならお洒落なカフェはかえって入りにくい。
周りは私に注目しない。
社食は安いぶん、クオリティも低い。
味気なくて乾燥している。ここ二週間、なにを食べても似たようなものだから、品質なんてどうでもよかった。まるで私の人生みたいだ。味気なくって乾燥していて、質も悪い。
こんなだから、ずっと独りなんだろう。
身から出た錆で好きな人まで傷つけてしまった。もう取り返しはつかない。
あの時の、彼の顔。
思い出すと胸がすり潰されて、どうしようもなく消えたくなるから、なるべく考えないようにしてる。そうして、これまでの事は都合のいい夢にしてしまえば、心は動かない。
そうやって逃げて、見ないふりをすれば。
何があっても耐えられるはず。たとえば彼に恋人ができても、結婚しても、平然としていられ、る。はず。
「田中さん」
「経理の田中さんだよね」
「ここ、いいかな?」
ケチってちいさな鶏肉が使われているチキン南蛮を食べようと口を開けたところだ。そんな間抜けなタイミングで私に話しかけてきたのは、明らかに別の世界ーー久遠さんや早織ちゃんサイドーーのべっぴん三名。
「あっハイドウゾ」
なにこれ、私、殺られんのかな。
ちょうど四人がけのテーブルに、べっぴん三人が私を囲む。いや、単に座っただけなんだけど、圧倒的な女子力に身がすくむ。みんなキラッキラふわっふわしてる。いい匂いがして、底の赤いピンヒールで、隙がない。
三人のうち、見覚えがあるのは二人。
名前は忘れたけれど、たしか秘書課だ。
見覚えのないもう一人は、他の二人に比べてもまた一段と綺麗だった。ということは、おそらく重役の秘書の可能性が高い。
「経理部ってーー」
「大変だよね~ーー」
世間話がはじまった。
見覚えのある二人が話して、私が答えて、一等美女はほほえんでいる。二人は彼女の取り巻きといったところか。うう、こわい。なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……
さっさと戻ろうと思うのに、女子二人が妙な連携プレイで巧みに話を途切れさせないものだから、どうにも席を立てないでいた。やっとのことであとはみそ汁半分。こんなのインスタントなんだから最悪飲まなくてもいいのに、なんとなくモッタイナイおばけが出てきてしまう。
「ねぇ、田中さん」
「ハイ」
「経理部の大塚さんって、カラダ使って久遠専務に取り入ったって、知ってた?」
「……ハ……」
一等美女の魅惑的な唇から、なんか出た。
「あ……知らなかった? ごめんなさいね?」
「イエ……」
「田中さん、大塚さんと仲よかったよね」
仲が良いと知っていて、聞いてくる。
一等美女はお付きのものに任せて、クリアボトルの水筒に入れた果物入り水を飲んでいた。その手のなめらかさ、肌の艶やかさに魅入ってしまう。身分が違う、という感覚をこの令和日本でまさか知ることになろうとは。
「ハイ」
「気をつけたほうが良いよぉ。あの子、男とっかえひっかえしてるみたい」
「ヘェー……」
「可愛い顔してるけど、怖いよねえ。久遠専務の秘書も、本当はセザキさんのはずだったのに」
「ホォー……」
「……ね、聞いてる? 田中さん」
「良いのよもう、私のことは」
セザキだか背脂だか知らんが、それはどうやら、一等美女の名前らしかった。バサバサ長いまつ毛を伏せて、セザキ某はゆったりと余裕を持って微笑む。
……不思議。
「ただ……ね、田中さん」
「ハァ」
とっても綺麗なのに、
「私たち、大塚さんと仲良くしていきたいの。そういう話があったとしても、せっかく同じ課になったんだもの」
圧倒的な主人公なのに、
「だから、もし何か、大塚さんから話があったら、教えてくれない?」
「ナニカ……」
「なんでもいいの。秘書課の愚痴とかでも」
「外からきた人の方が、そういうの、分かると思うし」
「あとは……久遠専務の話とか」
全っ然、羨ましくないんだもん。
「ね、ライン交換しよ?」
「イエ」
「え?」
「ケッコウデス」
みそ汁、どうしようか。
ちょっと悩んで結局、ひとくちで一気に飲み込んだ。
よし、これでいい。
完食。
「……田中さん?」
「ウチノ大塚ハソンナコト、シマセン」
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