紡いだ言葉に色は無い

はんぺん

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故に彼女は同棲を求める

逃避行

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 嫌われる事自体は問題ない。別に今に始まった事じゃないから。
 同じ様に面と向かって悪口を言われたりする位なら耐えられる。けれど彼女の根本を否定するような物言いは、毒を塗られた刃物となって俺の深いところまで刺し込まれる。
 後ろめたいというか、俺が諦めた事をわざわざ眼前に提示してくれる。彼女が俺を理解してるかはともかくとして、不用意にそんな事をされては流石に保たない。

「はあ…………」

 だというのにため息を吐いたのすら彼女で、俺はタイミングを逃して奥歯を噛み締めるしかなかった。
 用が無いなら帰ればいいのに。一つしか席離れてないけど。

「…………」
「…………」

 沈黙は気にならない性格だけど、これは無理。誰かに見られてるか分かったもんじゃないし。
 それに━━━

「…………」

 俺を糾弾するような眼。
 理由が判っているならまだしも、判らないから本当に質が悪い。

 ヒトは未知が恐ろしい、だから群れて弱さを共有して安寧を得る。未知をよってたかって異端とし連帯感を得る。出来るのならそれを駆逐だってするだろう。

 独りの俺は一体どうすればいい? 考え過ぎだってのは百も承知だ。でも、理解していようと恐怖は拭えない。
 また、息が荒くなっていた。いくら頭で大丈夫だ被害妄想だと理解しても身体がそれを許容してくれない。

「ねえ」

 久々に彼女が発した言葉で思わずその声のする方を向いてしまった。
 必然、近くの彼女の目と目が合った。
 それがどういう感情を灯していたかは分からない。けれど、その眼の深い黒にいつの日かの恐怖の影を重ねてしまった。

 息が詰まる、唇が震えて汗が止まらない。彼女の、他人の言葉なんて平然と無視すればいいことなんて分かってるのに。
 どういう経過があったのかは記憶に無い。気が付くと俺は教室の外へと逃げ出していた。
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