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『アレクシア』
母の少し苛立った声が聞こえる。
『貴女、またエルヴィーラに悲しい思いをさせて。酷い姉です。何度言えば分かるのですか⁉︎』
やめて……痛い、お母さま……ごめんなさい、ごめんなさいっ……もう、叩かないで……ごめんなさ……。
ハッとして、アレクシアは目を開けた。どうやらいつの間にか眠ってしまった様だ。まだ頭がよく回らない。
私……どうしたんだっけ……ここは。アレクシアは、寝ぼけ眼で周囲を見渡した。
そうだわ、モニカ様に連れられて書庫にきて……。ようやく頭は覚醒して、記憶がはっきりしてくる。
「やあ、目が覚めた?」
「⁉︎」
後ろから掛けられた声は明らかにモニカのものではない。アレクシアは身体をびくりとさせ、立ち上がる。すると、上着が床に落ちた。
この上着……。
見覚えのある物だった。あの時と同じ上着だ。何故また……アレクシアは落ちてしまった上着を急いで拾い上げると、恐る恐る後を振り返った。
「初めまして」
そしてこの上着の持ち主だろう人物は、見覚えのある人だった。
「……王太子、殿下」
アレクシアは戸惑い困惑をしていた。
今目の前には何故か王太子がいる。しかも上着の持ち主で例の優しい方なのだと思われる。一体何が何だか分からない。
王太子と向かい合わせに腰を下ろし、真っ直ぐにこちらを見ている彼とは対照的にアレクシアは顔を俯かせた。
「あの、殿下……こちらにモニカ様と仰る御令嬢がいらっしゃいませんでしたか」
伺う様に話すアレクシアに、彼は少し顔を顰め黙る。聞いてはいけなかったのだろうか……。
ま、まさか!もしかして王太子とモニカは実は恋仲で、この場所で逢瀬をしていた、とか。それでもって周囲を欺く為にモニカは自分をここまで伴って来た、とか。……あり得る。
そうなると、王太子殿下の本命はモニカ様……?
本好きも相俟ってアレクシアは想像もとい妄想力は割合高かった。一度でもそんな風に考えてしまうと、どんどんと憶測は広がっていく……。
「あ、あの!王太子殿下、私誰にも言いません‼︎口は固い方なので、ご安心下さい」
まあ、固いも何も告口をする様な友人知人などはアレクシアにはいないので、そもそもの話だが。
「もしかして、モニカの秘密の事を話しているのかな」
「はい、そうですが……」
何となく会話が噛み合っていない様に感じるも、アレクシアは完全に思い込んでいて、気に止める事はなかった。
「まあ、そうだね。この事が公になれば色々と面倒な事になるかも知れない……。この事は僕と君との秘密にして貰えるとありがたいな」
「勿論です!殿下。頑張って下さい」
モニカは男爵令嬢だ。きっと身分などが障害になり、今はまだ公には出来ないのだろう。やはりそれが理由でこの様な妃選びが行われたのだろうか……。
だがモニカは王太子妃になるつもりはないと言っていた様な……分からないわ。
……そうか。そういう事だ。
アレクシアはピンと来た。
成る程。何処に人目があるとも限らない城の中では敢えて本音とは真逆の事を言って、周囲を欺いているのね。
「ん?頑張る?」
王太子は困惑した表情のままアレクシアを見遣る。
「ちょっと良く理解出来ないけど、ありがとう」
「いえ」
礼を言われたアレクシアは、少し照れた様に笑った。
「やっと笑ったね」
王太子も又、アレクシアを見て優しく笑う。
「ところで、何か悲しい夢でも見ていたのかな?」
意外な彼の言葉にアレクシアは、表情を曇らせた。
「何故そのような事……」
「随分うなされていた。それに」
そこまで言うと王太子はアレクシアの頬に手を伸ばし、目元を指で拭う仕草をした。無論涙など流していない。
「泣いてた」
瞬間心臓が跳ねた。彼は真っ直ぐにアレクシアを見遣り、まるで何もかもを見透かされている様に思えた。
不思議な人だと、この時感じた。
母の少し苛立った声が聞こえる。
『貴女、またエルヴィーラに悲しい思いをさせて。酷い姉です。何度言えば分かるのですか⁉︎』
やめて……痛い、お母さま……ごめんなさい、ごめんなさいっ……もう、叩かないで……ごめんなさ……。
ハッとして、アレクシアは目を開けた。どうやらいつの間にか眠ってしまった様だ。まだ頭がよく回らない。
私……どうしたんだっけ……ここは。アレクシアは、寝ぼけ眼で周囲を見渡した。
そうだわ、モニカ様に連れられて書庫にきて……。ようやく頭は覚醒して、記憶がはっきりしてくる。
「やあ、目が覚めた?」
「⁉︎」
後ろから掛けられた声は明らかにモニカのものではない。アレクシアは身体をびくりとさせ、立ち上がる。すると、上着が床に落ちた。
この上着……。
見覚えのある物だった。あの時と同じ上着だ。何故また……アレクシアは落ちてしまった上着を急いで拾い上げると、恐る恐る後を振り返った。
「初めまして」
そしてこの上着の持ち主だろう人物は、見覚えのある人だった。
「……王太子、殿下」
アレクシアは戸惑い困惑をしていた。
今目の前には何故か王太子がいる。しかも上着の持ち主で例の優しい方なのだと思われる。一体何が何だか分からない。
王太子と向かい合わせに腰を下ろし、真っ直ぐにこちらを見ている彼とは対照的にアレクシアは顔を俯かせた。
「あの、殿下……こちらにモニカ様と仰る御令嬢がいらっしゃいませんでしたか」
伺う様に話すアレクシアに、彼は少し顔を顰め黙る。聞いてはいけなかったのだろうか……。
ま、まさか!もしかして王太子とモニカは実は恋仲で、この場所で逢瀬をしていた、とか。それでもって周囲を欺く為にモニカは自分をここまで伴って来た、とか。……あり得る。
そうなると、王太子殿下の本命はモニカ様……?
本好きも相俟ってアレクシアは想像もとい妄想力は割合高かった。一度でもそんな風に考えてしまうと、どんどんと憶測は広がっていく……。
「あ、あの!王太子殿下、私誰にも言いません‼︎口は固い方なので、ご安心下さい」
まあ、固いも何も告口をする様な友人知人などはアレクシアにはいないので、そもそもの話だが。
「もしかして、モニカの秘密の事を話しているのかな」
「はい、そうですが……」
何となく会話が噛み合っていない様に感じるも、アレクシアは完全に思い込んでいて、気に止める事はなかった。
「まあ、そうだね。この事が公になれば色々と面倒な事になるかも知れない……。この事は僕と君との秘密にして貰えるとありがたいな」
「勿論です!殿下。頑張って下さい」
モニカは男爵令嬢だ。きっと身分などが障害になり、今はまだ公には出来ないのだろう。やはりそれが理由でこの様な妃選びが行われたのだろうか……。
だがモニカは王太子妃になるつもりはないと言っていた様な……分からないわ。
……そうか。そういう事だ。
アレクシアはピンと来た。
成る程。何処に人目があるとも限らない城の中では敢えて本音とは真逆の事を言って、周囲を欺いているのね。
「ん?頑張る?」
王太子は困惑した表情のままアレクシアを見遣る。
「ちょっと良く理解出来ないけど、ありがとう」
「いえ」
礼を言われたアレクシアは、少し照れた様に笑った。
「やっと笑ったね」
王太子も又、アレクシアを見て優しく笑う。
「ところで、何か悲しい夢でも見ていたのかな?」
意外な彼の言葉にアレクシアは、表情を曇らせた。
「何故そのような事……」
「随分うなされていた。それに」
そこまで言うと王太子はアレクシアの頬に手を伸ばし、目元を指で拭う仕草をした。無論涙など流していない。
「泣いてた」
瞬間心臓が跳ねた。彼は真っ直ぐにアレクシアを見遣り、まるで何もかもを見透かされている様に思えた。
不思議な人だと、この時感じた。
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