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五十話〜看病〜
「何か悪い物でも食されましたか?」
「……」
屋敷に戻り直ぐに専属医を呼んだ。
眉間に皺を寄せた医師からはそんな質問をされるが、先程目を覚ました筈のユーリウスは無言だ。なので代わりにエレノラが口を開いた。
「実は虫の入っていたお茶を飲んでしまったんです、自分から」
間違っても無理やり飲ませたと疑われないように、補足を入れておく事を忘れない。
医師に説明をすると、ベッドで横になったままユーリウスが睨んでくるが全く怖くない。
先程まで膝の上で熟睡していた姿を思い出して寧ろ笑いが込み上げてくる。
『プッ、赤ちゃんみたい』
落ち着かない様子で手を彷徨わせていたので、指で突っついてみるとそれを握った。しかも起きるまでずっと離さない。
思わず末の弟が赤子の時を思い出してしまった。ただ弟と違ってまるで可愛くなかったが。
その後、医師から処方された薬を飲むも高熱が続き食事も殆ど食べれず、どうにか水は飲める状態が続いた。
流石に数日が過ぎると本気で心配になってくる。
(まさか、本当に昇天したりしないわよね……?)
朝昼晩と様子を見に来ているが、一向に良くなる気配はない。
それにしても専属医から公爵には報告がいっている筈なのにも拘らずお見舞いにくる気配はない。
ユーリウスを嫌っている公爵夫人ならいざ知れず、流石に公爵はきなさいよ! この薄情者! と思った。
ベッドの横に座り眠っているユーリウスの様子を見ていると、不意に扉が開く音がした。
「若奥様、代わります」
「私は大丈夫から、スチュアートは少し休んで」
「ですが……」
「貴方まで倒れたら皆困るでしょう?」
「私の代わりはおりますが、若奥様の代わりはおりません」
その言葉に思わず苦笑した。
確かに代わりはいない。
そもそも代わりがいるくらいなら、エレノラがユーリウスと結婚する事もなかった筈だ。
ただ屋敷への貢献度を考えれば、優先すべきは圧倒的にスチュアートだろう。
「私、見た目通り丈夫だから大丈夫よ」
昔から怪我はそれなりにしてきたが、風邪は一回も引いた事がない。
戸惑うスチュアートをエレノラは笑顔で部屋から追い出した。
それから一晩中ユーリウスに付き添った。
「まったく世話が焼けますね」
欠伸をして、ため息を吐く。
額の汗をタオルで拭い、暑そうにしているので手を掛布の上に出すとそのまま手を握られた。
「ユーリウス様、破廉恥ですよ」
眠っていると分かっているが、思わず文句を言った。
時間外労働手当に看病料、ついでに破廉恥料……元気になったら絶対にお金を請求してやる。
翌日、エレノラは一睡もしないまま朝早く診療所を訪ねた。
この時間ならまだ往診前でクロエがいる筈だ。
「おや、久々だな、エレノラ嬢」
実は数日前に手紙を出して理由と共に暫く行けない事を知らせていた。
「ユーリウス・ブロンダンはもう平気なのか?」
「それがーー」
医師の処方した薬が効かないので熱が下がらず中々良くならない事を説明する。その上でクロエの使用している解熱剤を分けて欲しいと伝えた。
エレノラは持参した薬を手渡す。
「なるほど。しかし残念だが、これは私が調合している薬と同じ物だ」
「そうですか……」
薬の種類など限られておりダメ元だったので仕方がないとため息を吐く。
「材料は揃っている。君が調合してみるといい」
エレノラが落胆していると、クロエは少し考える素振りを見せた後、意外な提案をしてくる。
「え、私がですか? でも、結局同じ薬ですが」
「いや、物は試しだ。いけるかも知れない」
クロエの意図が分かず戸惑うが、彼女の勢いに押されて取り敢えず作る事にした。
薬を作り終えたエレノラは帰宅するとそのままユーリウスの部屋へと直行する。
やはり熱は下がっていなかった。
「ユーリウス様、薬です。飲めますか?」
軽く肩に触れ呼びかけてみるが、起きる気配はない。ついでに額に手で触れてみると、更に熱が上がったように感じる。
「非常時だし、仕方がないわ……」
そこでエレノラは最終手段を取る事にする。
それは、口移しだ。
「……」
屋敷に戻り直ぐに専属医を呼んだ。
眉間に皺を寄せた医師からはそんな質問をされるが、先程目を覚ました筈のユーリウスは無言だ。なので代わりにエレノラが口を開いた。
「実は虫の入っていたお茶を飲んでしまったんです、自分から」
間違っても無理やり飲ませたと疑われないように、補足を入れておく事を忘れない。
医師に説明をすると、ベッドで横になったままユーリウスが睨んでくるが全く怖くない。
先程まで膝の上で熟睡していた姿を思い出して寧ろ笑いが込み上げてくる。
『プッ、赤ちゃんみたい』
落ち着かない様子で手を彷徨わせていたので、指で突っついてみるとそれを握った。しかも起きるまでずっと離さない。
思わず末の弟が赤子の時を思い出してしまった。ただ弟と違ってまるで可愛くなかったが。
その後、医師から処方された薬を飲むも高熱が続き食事も殆ど食べれず、どうにか水は飲める状態が続いた。
流石に数日が過ぎると本気で心配になってくる。
(まさか、本当に昇天したりしないわよね……?)
朝昼晩と様子を見に来ているが、一向に良くなる気配はない。
それにしても専属医から公爵には報告がいっている筈なのにも拘らずお見舞いにくる気配はない。
ユーリウスを嫌っている公爵夫人ならいざ知れず、流石に公爵はきなさいよ! この薄情者! と思った。
ベッドの横に座り眠っているユーリウスの様子を見ていると、不意に扉が開く音がした。
「若奥様、代わります」
「私は大丈夫から、スチュアートは少し休んで」
「ですが……」
「貴方まで倒れたら皆困るでしょう?」
「私の代わりはおりますが、若奥様の代わりはおりません」
その言葉に思わず苦笑した。
確かに代わりはいない。
そもそも代わりがいるくらいなら、エレノラがユーリウスと結婚する事もなかった筈だ。
ただ屋敷への貢献度を考えれば、優先すべきは圧倒的にスチュアートだろう。
「私、見た目通り丈夫だから大丈夫よ」
昔から怪我はそれなりにしてきたが、風邪は一回も引いた事がない。
戸惑うスチュアートをエレノラは笑顔で部屋から追い出した。
それから一晩中ユーリウスに付き添った。
「まったく世話が焼けますね」
欠伸をして、ため息を吐く。
額の汗をタオルで拭い、暑そうにしているので手を掛布の上に出すとそのまま手を握られた。
「ユーリウス様、破廉恥ですよ」
眠っていると分かっているが、思わず文句を言った。
時間外労働手当に看病料、ついでに破廉恥料……元気になったら絶対にお金を請求してやる。
翌日、エレノラは一睡もしないまま朝早く診療所を訪ねた。
この時間ならまだ往診前でクロエがいる筈だ。
「おや、久々だな、エレノラ嬢」
実は数日前に手紙を出して理由と共に暫く行けない事を知らせていた。
「ユーリウス・ブロンダンはもう平気なのか?」
「それがーー」
医師の処方した薬が効かないので熱が下がらず中々良くならない事を説明する。その上でクロエの使用している解熱剤を分けて欲しいと伝えた。
エレノラは持参した薬を手渡す。
「なるほど。しかし残念だが、これは私が調合している薬と同じ物だ」
「そうですか……」
薬の種類など限られておりダメ元だったので仕方がないとため息を吐く。
「材料は揃っている。君が調合してみるといい」
エレノラが落胆していると、クロエは少し考える素振りを見せた後、意外な提案をしてくる。
「え、私がですか? でも、結局同じ薬ですが」
「いや、物は試しだ。いけるかも知れない」
クロエの意図が分かず戸惑うが、彼女の勢いに押されて取り敢えず作る事にした。
薬を作り終えたエレノラは帰宅するとそのままユーリウスの部屋へと直行する。
やはり熱は下がっていなかった。
「ユーリウス様、薬です。飲めますか?」
軽く肩に触れ呼びかけてみるが、起きる気配はない。ついでに額に手で触れてみると、更に熱が上がったように感じる。
「非常時だし、仕方がないわ……」
そこでエレノラは最終手段を取る事にする。
それは、口移しだ。
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