愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)

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シスターや子供達が悲鳴を上げながら走って来る。その様子に目を見張ると、次の瞬間一気に建物から炎が上がった。

「え……」

孤児院は瞬く間に火が燃え広がり、隣接する教会に飛び火するのも時間の問題だ。

「何をしているんだ!早く消火しろ‼︎」

ヴォルフラムの怒号が響き、騎士等は慌てて水を汲みに走る。騒然とする中、子供達の泣き喚く声が聞こえて、ユスティーナは我に返り、シスター達の所へ走り寄りサリヤに声を掛けた。

「シスターサリヤ、これは一体どうなってるんですか⁉︎皆さんはご無事なんですか⁉︎」

「ユスティーナ様、私共にも何が何だか……。小さな子達に絵本を読み聞かせていて、他の子供達は部屋で勉強をさせていたんです。そうしたら煙と焦げた臭いに気付き……」

そこまで話すと彼女は青ざめた顔で、子供達を掻き抱いた。

「でも、この子達が無事で本当に良かった……」

その様子にユスティーナも胸を撫で下ろす。取り敢えず、皆無事な様だ。

「ねぇ、シスター。リックがいないよ」

だが一人の子供が声を上げた。サリヤは他のシスター達と急いで子供達を確認する。

「本当だわ……リックがいない……」

ユスティーナも慌てて子供達を再度確認していくが、やはりリックだけがいなかった。

「リックね、宝物箱取りに行くって言ってたよ」

また別の子供がやって来て、そう教えてくれた。シスター達はその言葉に悲鳴を上げる。サリヤはその場に崩れ落ちてしまった。

「リック……」

ユスティーナは燃え盛る建物を呆然と立ち尽くし見遣る。風が炎を煽り教会までも呑み込んでいく。騎士等が懸命に井戸から水を汲み上げ消火しているがまるで意味をなさない。

「あらあら、大変だわぁ……ねぇ、ユスティーナ様」

「ジュディット様……⁉︎」

木の陰から現れたジュディットに目を見張る。何故彼女が此処にいるのか……。ジュディットはユスティーナへとゆっくりと近付いて来る。その顔は虚ろで不気味な笑みを浮かべていた。

「ふふ、貴女の大切な教会や施設が燃えっちゃってますね」

ユスティーナの前で足を止めると、スッと表情が変わった。蔑む様な目でユスティーナを見ている。

「……何が慈善活動よ、良い子ぶって。可哀想な子供達に施しを与えている私ってなんて健気で立派なのかしら……どうせそんな風に思っているんでしょう?あー嫌だわ。私貴女みたいな偽善者って本当、大嫌い!見ていると吐き気がするのよ」

「もしかして、これを……ジュディット様が、火を……」

信じられなくて、瞬きすら忘れて彼女を凝視した。声が、震えた。

「だったら何?こんなボロい教会の一つや二つ無くなってどうって事ないでしょう?」

莫迦莫迦しいと言わんばかりに彼女はユスティーナを嘲笑する。

「まだ中には子供が、リックが、取り残されているんです‼︎」

「だから?たかが平民の子供一人死んだ所で何もならないわよ。しかも孤児なんでしょう」

頭が真っ白になる。彼女の言っている意味がまるで理解出来ない。

「貴女も一々大変ね、それ、心配しているフリ?何、もしかして今度は悲劇のヒロインにでもなるつもり?……でも、これは全部貴女の所為なのよ?貴女が私からヴォルフラムを奪うからよ!お父様が失脚したのだって、全部全部!貴女の所為!貴女さえいなければ、私は王太子妃にっ私が王妃だったのっ‼︎」

「っ……」

パンッー。

乾いた音が聞こえると同時に頬に痛みが走る。ユスティーナの頬をジュディットが叩いたのだ。一瞬呆気に取られたが、唇をキツく結び今度はユスティーナがジュディットへと手を振り上げた。だが彼女の顔の寸前で手を止める。

「あら、叩くんじゃないの?それとも慈悲深くてお優しいユスティーナ様は赦して下さるのかしら?」

ユスティーナは俯き、出した手のひらを握り締めるとそのまま引っ込める。真っ直ぐに彼女に鋭い視線を向けた。

「何よ、その目は……」

「貴女には、叩く価値すらありません」


ガタンッと建物が崩れ落ちる音が聞こえる。その瞬間ユスティーナは踵を返すと、迷う事なく走り出した。







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