32 / 63
31
しおりを挟むレナードの事は想定内だったが、ジュディットはヴォルフラムの想定以上の行動を起こした。逆恨みをしたジュディットが、ユスティーナに何か仕掛けてくるとは考えていた。故に彼女を見張る為にラルエット家の門前には兵士を配備させていたが、所詮一介の兵士など信用ならないので、それとは別にヴォルフラムの直属の侍従に見張らせていた。故にジュディットが兵士らを上手く誑し込み屋敷を出た報告は既に知っていた。別段驚く様な話でもない。だがまさかユスティーナ自身を狙うのではなく、教会に火をつけるとは流石のヴォルフラムも驚いた。
レナードといい、本当に愚かで莫迦で助かる。自ら自滅したのだから……。これで危険分子は完全に一族纏めて排除出来る。それにユスティーナが危険に晒されずにも済み、言う事はない。まあ、シスターや子供達が逃げ遅れる可能性はあるが、目的を達成させるには多少の犠牲は致し方がない。
建物から火が上がり、ヴォルフラムは暫く傍観していた。ユスティーナがいる手前、騎士等には直ぐに消火する様に命じたが、正直被害は大きい方が良い。後々受ける印象に差が出る。
ユスティーナはシスターや子供等に駆け寄り、何やら慌てている様子だ。距離があるので内容は分からないが、大凡子供が逃げ遅れたとかそんな所だろう。そんな時、ジュディットが姿を現した。ずっと隠れていたのは気付いていたが、知らないフリをしていた。もう、彼女に用はない。
するとジュディットはユスティーナに詰め寄り、いやらしい笑みを浮かべながら話し始める。この期に及んでユスティーナに何かするつもりかとヴォルフラムは直ぐに駆け寄ろうとして足を踏み出すが、足を止めた。
それは少しだけ興味があったからだ。ユスティーナがジュディットにどの様な反応を見せるのか……。ヴォルフラムは彼女が本当の意味で感情を露わにした所を見た事がない。もしかしたらその姿が見れるかも知れない。彼女の本質を、彼女の全てを知りたい。そんな欲が出た。もう少し離れて傍観する事にする。
見た所ジュディットは危険物は所持していないし大丈夫だろう。それにもし彼女に危害を加えたら、その瞬間自分があの女を斬り捨てるまでだと、鼻を鳴らす。
だがヴォルフラムはこの判断をした事を、酷く後悔する事になった。ジュディットがユスティーナの頬を叩いた時、流石に見ていられなくなり足を踏み出したが、次の瞬間ユスティーナも手を振り上げるのが目に映り、無意識に足を止めユスティーナを凝視する。彼女の感情の昂りが見れると息を呑む。自分が高揚するのを感じた。だが、彼女はジュディットを叩かなかった。
「貴女には、叩く価値すらありません」
普通ならあそこまで振り上げた手を止める事はしない。いや、出来ない。だが彼女は自制した。柄になくヴォルフラムは呆気に取られる。だが次の瞬間、我に返った。建物が崩れ落ちる音が響いたと同じに、ユスティーナは踵を返し駆け出して行く。ヴォルフラムは急いで後を追いかけたが、間に合わず彼女は炎の中へと姿を消して行った……。
111
あなたにおすすめの小説
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる