34 / 63
33
しおりを挟む瞼が重い。でもそろそろ起きなくちゃー。
ユスティーナはゆっくりと目を開けた。頭がぼうっとして、視界もぼやけている。暫くそのままでいると次第に意識も視界もハッキリとしてきた。自分の部屋だと思ったが、見慣れない天井が見える。
「ここ、は…………わたし……」
どうして見慣れぬ部屋のベッドで寝ているのだろうか。全く覚えていない。ユスティーナは起き上がろうとする。だが、身体が上手く動かない。痛みなどは感じないが、力が入らないのだ。そんな時、扉が開く音がした。身体が動かないので誰が入って来たのかは確認出来ない。足音が段々と近付いて来るが、少し手前で音が止まったのを感じた。
「ユティ、今日はオレンジの薔薇が咲いたから摘んできたんだ。赤や白も良いけど、これが君には一番似合うかも知れない」
「……ヴォル、フラム、さま……?」
「っ⁉︎ユスティーナ⁉︎」
声で誰だか直ぐに分かった。ユスティーナが彼の名を呼ぶと、その瞬間物が割れる音が響く。だが彼は気にも留めていないのか、ベッドへと駆け寄って来た。
「ユスティーナッ⁉︎」
彼は倒れ込む様な勢いでベッドに手をつき、ユスティーナの顔を覗き込んでくる。そんな光景に目を見張っていると、彼の揺れる蒼眼と目が合った。
「ヴォルフラム、さま……どうされ」
ユスティーナが言葉を言い終える前に、ヴォルフラムはユスティーナの身体を抱き締めた。
「ユスティーナッ‼︎ユスティーナ……良かった、目が覚めたんだね、良かった……もう、目を覚さないんじゃないかと、思って……しまったよ……」
歓喜の声を上げた彼は、ユスティーナの肩に顔を埋める。彼の身体の温もりを感じる一方で、少し震えているのが伝わってきた。そんならしくないヴォルフラムの様子に、ユスティーナは戸惑う。
「あの……わたしは、一体どうしたのでしょうか……全く、覚えていないんです……」
「……」
ヴォルフラムは暫し無言になり、ゆっくりとユスティーナから身体を離すと、手短な椅子に腰掛けた。
「……君は、燃え盛る炎の中へリックを助ける為に、飛び込んだんだよ」
その言葉に一気に記憶が蘇る。
「っ⁉︎」
そうだ、ジュディットが教会に火を放ち、リックが取り残されていると知り、助けに向かった……。宝物箱を取りに行ったと聞いていたので、子供部屋へと向かうが煙と炎で方向感覚はなく途中混乱してしまい……だがそれでも燃え盛る炎の中を無我夢中で走った。そんな中、リックの姿をようやく見つける事が出来安堵した。しかしそれも束の間で、リックの側の瓦礫が崩れるのが視界に入る。ユスティーナはリックを庇いそして……そこから記憶は途切れている。
「リックはっ、リックはどうなったんですか⁉︎」
◆◆◆
記憶を思い出した彼女は声を荒げ、身体を起こそうとするが上手くいかずベッドから落ちそうになる。それを慌ててヴォルフラムは支えた。
「ヴォルフラム様!リックはっ」
だがそんな事はお構いなしに彼女は必死にリックの事を聞いてくる。
その姿にヴォルフラムは呆気に取られた。そして思わず、泣き笑いの様な表情になる。
「ハハッ……君はどうしてそうなんだ」
普通ならば、先ずは自分の心配をする。それなのに彼女は思い出して開口一番、人の心配をしている。何処までお人好しなんだろうか……自分にはない感情だ。
「大丈夫だよ、軽い火傷と擦り傷はあったが彼は無事だ」
「そう、ですか……良かった……」
安心した様子で彼女は息を吐くと、笑った。その笑みはまるで聖母の様だと思った。どこまでも慈悲深く温かく、優しかった。
142
あなたにおすすめの小説
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる