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しおりを挟むヴォルフラムが部屋を出て行った後、侍女の一人が空気を入れ換える為に窓を開けた。ユスティーナは部屋に入ってくる爽やかな風に、瞳を伏せる。心地が良い。そして暫くすると、遠くで鐘が鳴り響く音が聞こえた気がして、思わず目を開き窓の外へと視線を向けた。
後から知った……この日ジュディットが処刑されたのだと……。
「姉さん、具合はどう?」
「ロイド、大丈夫よ。まだ一人で歩くのは難しいけど」
ユスティーナが目を覚まして一ヶ月経つ。目を覚ました部屋は離宮の一角にある部屋だった。王太子であるヴォルフラムの為に造られた此処は、彼の許可を得た人間しか入れずとても静かだった。
「元気なったら、リックやシスター達に会いたわ」
教会と孤児院は全焼してしまい、彼等は今はヴォルフラムが用意してくれた建物で生活していると聞いた。
「ヴォルフラム様には、感謝ばかりね」
それに、瓦礫の下敷きになったユスティーナとリックをあの炎の中、命を掛けて救い出してくれた。彼は命の恩人だ。
「……」
「ロイド?」
急に黙り込み眉根を寄せる弟にユスティーナは首を傾げるが、視線を首元に感じ弟が何を思っているのかが分かり苦笑する。
「痕が、残っちゃったね」
そう言われ、自分の首筋に触れた。目覚めた時には既に痛みはなかった。だが、首筋だけでなくユスティーナの身体の至る所には火傷の痕が残っている。顔だけは無傷だったのが幸いだと思う。
「リックも無事で、私もこうして生きているの。贅沢は言えないわ」
「確かにそうかも知れないけど……」
言葉とは裏腹にロイドは不満そうに口を尖らせる。
「ねぇ、姉さん。そう言えばあの事は、ヴォルフラム殿下にはもう話したの?」
「……ううん、まだ。でもきっと、ヴォルフラム様も私と同じ気持ちだと思うの。だから大丈夫よ」
ユスティーナはそう言って微笑んだ。
こんな全身傷だらけの自分は彼には相応しくない。潔く身を引くのが当然だ。今はまだ療養中故に彼も何も言わないが、ヴォルフラムも同じ様に考えていると思う。
それから更に一ヶ月が過ぎ、ようやくユスティーナは普通に歩けるまでに回復をした。その間ヴォルフラムは一日として欠かさずユスティーナを見舞ってくれた。彼の優しさに、嬉しく思う反面胸が苦しくなった。
「ヴォルフラム殿下には本当に感謝してます。ありがとうございました。この御恩は生涯決して忘れません」
ある朝、何時もの様に彼が部屋を訪ねて来た。ユスティーナは身支度を整え彼を待っていた。彼が部屋に入って来るとユスティーナは立ち上がり、正式な礼をとると感謝の言葉を伝えた。するとヴォルフラムは驚いた様子で目を見開く。
「ユスティーナ、改まってどうしたの……」
「見ての通り、私はもうすっかり元気になりました。これも全てヴォルフラム殿下のお陰です。ですが、これ以上ヴォルフラム殿下にご迷惑はお掛け出来ません。ですからそろそろ屋敷へ戻ろうと思います」
「迷惑なんてあり得ないよ。君は僕の婚約者なんだ。確かに婚儀はまだだけど、今更屋敷に帰る事もないだろう」
戸惑う彼にユスティーナは、微笑んだ。
「ヴォルフラム殿下、私と婚約を解消して下さい」
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