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しおりを挟む自邸に帰るのは随分と久々だ。眠っていた期間を含めて半年近くになる。ユスティーナが帰ると使用人等が温かく出迎えてくれた。エルマなどユスティーナの顔を見た瞬間ボロボロと涙を流し泣き出してしまい、ユスティーナは慌てた。
その夜は食卓にユスティーナの好物ばかりが並び、帰宅したロイドやエルマ達に細やかな快気祝いをして貰った。父は相変わらず不在で、ユスティーナが療養中も会いに来てくれる事はなかった。何時もの事なので気にはしない。
「姉さん、改めてお帰り」
「ただいま、ロイド、皆」
暫し談笑し穏やかな時間を過ごした。
夕食を終えたユスティーナは湯浴みをする。するとユスティーナの身体の痕を見たエルマはまた涙を流す。今度は嗚咽を漏らしながら泣く彼女を、必死に宥めた。
「こ、こんなに痕が残ってしまわれてっ、酷過ぎますっ……」
「エルマ、そんなに泣かないで。私はこれくらい平気よ。でも、私の為にありがとう」
その晩ベッドに横になり目を閉じるが中々寝付けなかった。彼の事が頭を過ぎる。ユスティーナが婚約解消を申し出たら、予想に反した言葉が返ってきた。
『僕との結婚が嫌になったの?』
『……醜い私は、ヴォルフラム殿下には相応しくありません。殿下にはもっと相応しい女性がいます』
『……』
『ヴォルフラム、殿下?』
『ユスティーナ。これは、政略結婚だよ。屋敷に戻るのは構わないが、解消なんて認められない』
何時も穏やかで優しい彼が、一瞬別人の様に見えた。鋭い視線と言葉に思わず身体を縮こませてしまった。
『君はまだ病み上がりで、精神的にも不安定だからそんな風に考えてしまうだけだよ。今の言葉は聞かなかった事にしてあげるから、もうそんな事、絶対に言っちゃダメだよ』
ユスティーナを抱き寄せ耳元でそう囁くと、彼は馬車まで見送ってくれた。
彼が分からない。確かに自分は公爵令嬢だが、こんな身体の至る所に火傷の痕がある汚い女は体裁が悪い。彼の評判まで傷付けてしまう。政略結婚と言うなら尚更別に相応しい女性がいる筈だ。
もしかしたら、優しい彼は哀れなユスティーナを見捨てられないのかも知れない。ヴォルフラムとの婚約が破談になった後、今後良縁は望めない事は明らかだ。幾ら政略結婚でも余程の事がなければ、態々こんな醜い身体の女を娶ろうとは思わない。例え嫁げたとしても幸せとは程遠い生活が待っているだろう。
そんな風に考えると、途端に不安が押し寄せてくる。だが後悔はしていない。寧ろあの時リックを助けに行かなかったら、今頃立ち直れないくらい後悔していたと思う。
兎に角、ヴォルフラムとは少し距離をおこう。きっと、時間が解決してくれる。その内彼も冷静になって、分かる筈だ。
そんな風に思いながらユスティーナは眠りに落ちていった。胸が痛むのを感じながら……。
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