愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)

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「姉さん、お帰り」

「ただいま、ロイド」

屋敷に帰ると弟が出迎えてくれた。たまには二人でお茶でもしようと誘われ、ユスティーナは席に着く。

「ヴォルフラム殿下とは話せたみたいだね」

「どうしてロイドが知っているの?」

「今朝登城したら、廊下で殿下とすれ違ったんだ。出掛けるって言っていたから、大方姉さんに会いに行ったんだろうと思ってさ」

ユスティーナはヴォルフラムの妻になるとロイドに告げた。すると弟は安堵した様なため息を吐き、笑った。

「そっか、良かった。これでようやく姉さんも幸せになれそうだね……。それにしても幽霊なんて、僕には信じられないなぁ。しかも結局、その村自体も無かったんでしょう?なんか化かされたみたいだよね」

ルネと話し終えた後、急に意識が遠のき気付いた時には馬車の中で眠っていた。目を開けると横ではエルマがまだ眠っていて、馬車の外に出でみると、侍従等も木などに寄りかかり寝ていた。周囲を見渡すが、村など何処にもない。あるのは一面に広がる木ばかりで、完全に森の中だった。暫く呆然と立ち尽くしていると、背後で強い風音が聞こえ、振り返るとそこには古びたお墓があった。
そしてそこで自分が何かを握り締めていた事に気が付き、手を広げるとルネから貰った小瓶が出てきたのだった。

「えぇ、ロジェ村は数年前に最後の一人が亡くなってしまって廃村になったそうよ」

その後、近くの村に辿り着き村人に話を聞くと、そう教えてくれた。元々他の村よりも人が少なかったロジェ村は、流行病や不作など不運が続き、最終的には村長だけが残ったそうだが、その彼も数年前に亡くなり廃村になったそうだ。

あれは夢だったのか……とユスティーナは困惑した。エルマに聞いても記憶が混濁している様で、覚えていないと言われた。侍従等も同じだ。だが夢だろうが何であれ、確かにユスティーナは彼女に会った。小瓶だってあるし、それになりより……。

『聞いても良い?疑っている訳じゃないけど、ルネってどんな容姿だった?』

帰りの馬車でヴォルフラムから聞かれた。あそこまで話しても、やはり彼もまだ信じきれないのだろう。

『亜麻色の長い髪と髪と同じ色の瞳、目元には泣き黒子がありました』

『……』

黙り込む彼にユスティーナは戸惑う。

『えっと、他には……』

『いや、それで十分だよ。ありがとう、ユスティーナ。確かにルネだ』

ヴォルフラムからそう断言をして貰った。


「何にしても、火傷の痕が消えて良かったね」

ロイドは不意に立ち上がると、ユスティーナの前に立った。首筋に触れて、痕があった場所を何度か撫でる。

「うん、ルネ様のお陰だわって……ロイド?」

「姉さん、その痕……何」

穏やかな表情から一変して、弟は険しい顔付きになり、ユスティーナの首元を凝視している。

「もしかして、まだ火傷の痕、残ってった?」

屋敷に帰宅したユスティーナは姿見で、再度全身を確認した。エルマにも見て貰い、火傷の痕は跡形も無く消えているのは確認済みの筈だったが……。

「いや、これさ、火傷の痕じゃないよね」

「?」

「もしかして……ヴォルフラム殿下とそういう事、したの?」

急に様子がおかしくなったロイドに、ユスティーナは戸惑う。弟の話している意味が分からず首を傾げた。何だか分からないが、怒っているみたいだ。

「ど、どうしたの、ロイド?怒ってるの?」

「良いから答えてよ」

「そんな事言われても、そう言う事って何?」

「だから!そう言う事だよ!ヴォルフラム殿下とまぐわったのかって意味だよ!」

「え、まぐわ……」

予想外の言葉にユスティーナは一気に顔が熱くなるのを感じながら固まった。

「やっぱり、したんだ……」

「ちょっと待って、ロイド。私、ヴォルフラム様とそんな事してな……」

そこでハッと脳裏に彼と口付けをした事を思い出してしまう。否定するつもりが、恥ずかしくなり黙ってしまった。

「っ……姉さんなんか、知らないよ‼︎」

「え、ロイド⁉︎」

ロイドはかなり興奮した状態のままテーブルに身体をぶつけ蹌踉めく。すると置かれていたカップが振動で音を立てて床に落ちて割れてしまった。

「ロイド……」

ユスティーナは、困惑したまま立ち尽くした。



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