私とお姉さんのチェアリング・セプテンバー

nanami360

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September

001 謎のお姉さん

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夏休みが終わり9月を迎え、私は学校に行けなくなった。
別に、いじめとか失恋とかよくある悲劇があった訳ではない。
ただ、なんとなく学校という存在が私の心の重りになった。
当然母は、激しく怒った。担任からも繰り返し連絡が来る。
その度、心の重りがその存在感を増す。
父は興味があるの無いのか、何を考えているのか分からない。
行けとも行くなとも言わず、曖昧な態度を取りつづけている。
私は、どうしたらいいのかわからないまま、無意味な日々をただ過ごした。
やがて時間は意味を失い、私の目の前をただ通り過ぎるようになった……。

学校には行けない、だけど家にいるのも落ち着かない。
居たたまれない気持ちで胸が張り裂けそうになり、私は近所の海岸まで歩いた。
この海岸は、私の家からは徒歩5分ほど。
駅からは遠く、近くに駐車場もない。
海水浴場でもないので、シャワーもお店もトイレもない。
沖に向かって伸びる、小さな堤防が二本あるだけの海岸だ。
そんな場所なので、地元の釣り人や犬の散歩の人がポツリポツリといる程度。
さながら、地元住民だけの秘密基地のような海岸だ。
私はこの秘密基地が大好きだ。子供の頃から一人でよく遊びに来ている。
遊ぶといっても、散歩をして、漂着物を眺め、一向に魚が釣れる様子のない釣り人を観察する……その程度だ。
そんな過ごし方でも、時間に意味を与えてくれる。
私の大切な海だ。

平日の真っ昼間。当然人っ子一人いない。
死にたい思いを抱えながら、誰もいない海岸を歩いていると……一人の女性がいる事に気づいた。
「平日にこんな所に一人でいるなんてろくなもんじゃないな……」
自分の事を棚に上げ、そう呟きながらその女性を見る。
カーキのローチェアに座ってビールを飲んでいる。
黒のロングヘア。ジーンズに、無地の灰色Tシャツ。そんなラフな格好に似合わない、白のつば広帽を被っている。
釣り道具は見当たらないし、犬も連れていない。
ただ一人で座って何もしていない。
いや、体をリズミカルに揺らしている。
音楽を聴いている?
いつもの海に見慣れない異物を見つけた私は、その女性をまじまじと見つめた……。
あっヤバい、目が合ってしまった!
私は焦って目を逸らす。
しまった、ちょっとガン見しすぎた。
怒られるかな~……恐る恐る女性の方を見ると……私を見ながら手招きしてる!
マジか~……。
どうしよう……。
ああ、なんか笑顔で頷きながら手招きを続けている。
……これを無視できるほど、私の心は強くない。
覚悟を決めて、その女性の方へと歩を進めた。

とりあえず挨拶だ、挨拶すれば最悪の結果は免れるはず。
笑顔で手招きしていたから少なくとも怒ってはいないはずだ。
怒らないで!
そう祈りながら
「こ、こんにちわ!」
と挨拶をする。
近くで見ると、思っていたより若い。
こんな時間、この海岸にいるのは隠居老人か主婦ぐらいだ。
そんな類の女性かと思ってたけれど、普通に綺麗なお姉さんで驚いた。
そして、そのお姉さんは、挨拶の返事もせずにカバンから三本脚の小振りな折りたたみみ椅子を取り出した。
そして、私の前に広げて頷いている。
……座れという事か!?
いや、さすがに座るのはマズイ! 詰む。何が詰むかは分からないけど、ここで座るのはマズイ。
そうだ、とりあえず会話をしよう。話が通じる相手か確認しなければ……。
「あ、あの……何をされてるんですか?」
「ん? チェアリングだよ。」
チェアリング!? 何、その謎行為!?
「チェ、チェアリングですか? それは……海でお酒を飲んで音楽を聴くことですか?」
お姉さんは椅子に座り、ビールを飲み、ポータブルスピーカーから音楽を流している。
それがチェアリングという事?
「ああ、お酒と音楽は関係ないよ。自分の気に入った場所に椅子を置いて、座っていればそれはもうチェアリング。私の場合、お酒は必須だけどね! 場所だって、別に海じゃなくてもいい。山でも、町中でもどこでもいい。まあ、人の迷惑になるような場所で座るのは論外だけどね……。さあ、君も一緒にチェアリングしよ。」
そう言いながらニッコリ笑う。
ああ、コレは逃げられないやつだ。
まあ、怒っているわけではないし、普通に会話できる。ヤバい人ではなさそうだ。
別に他に用事があるわけじゃない。ちょっと椅子に座ってすぐサヨナラしよう。
そう思い、小さな椅子に腰掛けた。
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